お祭りの終わり2
「あとは……魔道具もいただけるんでしたっけ?」
相手の思惑には気づいていない。
そんな風な態度を装って純粋な青年のように笑顔を浮かべてリュードが尋ねる。
「は、はい……こちらでございます…………」
半ば諦めたような目をするバイオプラに付いていくとそこは広い倉庫のような場所。
取引する商品が保管してあり、今抱えている魔道具類も置いてあった。
小さく持ち運びが簡単そうな安いものから家に設置するような大きなものまで様々あった。
軽く見てみるが今のところ必要なものはない。
火をつけたりする旅のお助け魔道具とか、今の時代で作れるものはあまり欲しいと思えなかった。
香辛料で大分損させてしまったしここは何も知らないフリをして安い魔道具でも選んであげようか。
適当に手に取って見ていると魔道具を見回していたルフォンが見つけてしまった。
「リューちゃんあれがいい!」
ルフォンが指差す方を見る。
確かに魔道具といえば魔道具であった。
バイオプラがマズイという顔をしたそれはコンロであった。
持ち運びの出来るお手軽コンロ、ではない。
家に設置する完全家庭用コンロである。
そのコンロは最先端の技術を用いて作られた最高級魔道具。
一般的な家庭では未だに火をつけて料理なんかをするところ、火を使わないでも料理ができるように開発された。
作りとしては面白い。
真ん中に大きめの魔石がはめ込まれてあって、その魔石に接するように渦を巻いた金属が置かれている。
魔力を込めると魔石が熱を持って周りの金属を温めて、その熱で上に乗せた調理器具を加熱して料理する。
魔石に魔法を刻むという技術は昔からあった。
今も失われずにあるものもあるし、長い時間の中で失われたものもある。
熱を発生させる魔法を刻むことは失われてしまっていたので真人族の研究が長年研究してようやく復活させた技術。
それを使ったコンロである。
おそらくヴェルデガーにお願いすればそんなに時間もかからず熱を発生させる魔法を自分で見つけて魔石に刻んではくれる気がする。
しかし真人族にとっては今ではあまり見ない技術であり、最先端のものなのだ。
火力の調整は熱くなる金属との距離でできる。
五徳のような爪の上に調理器具を乗せるのだがその爪の高さを調節することが出来る。
そうすることによって熱くなる金属との距離によって比較的自由に温度が好きにできる。
結構よく考えられている。
そんなコンロが二口。
下には調理器具を入れるスペースや引き出しまである。
使用自体は魔石に魔力を込めれば使えるのでその点では野外でもいいっちゃいい。
ただし家庭用なのでデカい。
どう見てもお手軽持ち運びサイズではない。
「こ、こちらですか?」
どう持ち運ぶつもりですかと聞こうとしてバイオプラは言葉を止めた。
リュードたちはその手段を持ち合わせている。
「……いいんですか、これでも」
「……はい」
もはや観念したように遠くを見つめるバイオプラ。
ディスプレイ用に仕入れてみた最高級魔道具は他の客の目に触れることなくリュードの袋の中に吸い込まれていってしまった。
今ここに他に人はいないのだが魔道具をなんでも自由にあげることは大勢の前で宣言してしまっている。
ここまで太っ腹で善良な商人をイメージ付けてきたのにここで積み上げたものを崩すことはできない。
この赤字がいつか利益につながる。
バイオプラには信じるしかなかった。
小狡いやり方はしても商人としての仁義にもとるやり方はしないバイオプラであった。
「やったー!」
袋にコンロが吸い込まれるのを見てルフォンが喜ぶ。
遥か大きいものが袋に吸い込まれる様はいつ見ても不思議だ。
香辛料に装飾品、魔道具のコンロまでもらってルフォン大満足の結果となった。
まるでルフォンの欲しいものだけを集めたような、そんな大会であった。
年1回の大会の時は戻ってきてもいいかもしれないなんて思いが芽生えるぐらいにルフォンは浮かれていた。
予想外の結果にバイオプラだけがひっそりと涙していた。
ーーーーー
どこでもコンロと香辛料を手に入れたルフォンはしばらくの間ご機嫌だった。
使ってみると意外と細かく火力の調整も効き、ルフォンでも簡単に魔石に魔力を込めて扱えるので料理の幅も広がった。
目的も果たしたし色々手に入れることも出来たので次の町に向かおうと考えいたのだがそうも行かなくなった。
「わざわざ挨拶に来なくてもいいのに」
アリアセンは例によってリュードたちの泊まる宿を訪れていた。
またギルドで延々と待ち伏せされていては取り返しのつかない噂が立つので宿を教えていたのだ。
アリアセンが訪ねてきた理由は別れの挨拶のため。
奴隷商の話が国王であるドランダラスまで伝わり一斉に国内での取り締まりが行われることが決定されたのだ。
今現在はトキュネスとカシタコウの動きを警戒してヘランドの北側に兵力を集めていた。
両国に和平がなって手を組んだが他に敵対行為を取るつもりもないことが分かったので北側に兵を留め置く理由もなくなった。
そこでそのまま兵を帰還させるのではなく北から順に犯罪組織や魔物の一掃を行おうというのである。
北側からだけでは時間もかかってしまうのでアリアセンの所属する第3騎士団も動員され、アリアセンは南から北上する様に掃討することになった。
案内の仕事は終わっているし騎士団に復帰して働かねばならない。
そうなったことを伝えて別れの挨拶に来てくれたのであった。
そしてこの一掃作戦のために厄介なことになってしまった。
犯罪者が逃げ出さないように国境が一時閉鎖されることになったのだ。
ちゃんとした理由があれば通してはもらえるのだが冒険者が国を移動したいというぐらいの理由だと我慢しろとなる。
結果的には犯罪者が減るし魔物も減るので冒険者以外の商人やなんかの理解は得られてしまったので大人しくしているしかない。
「そういうわけで私はすぐにでも出発せねばならないのだ」
「そうか、まあ、ケガしないように頑張れよ」
ドランダラスは兄の死を受け入れて立ち直ったようだ。
的確な指示を出しているしトキュネスの拠点を捨てて逃げてくるような犯罪者たちが強いとも思えないのでケガすることもないだろう。
スナハマバトルのおかげかリュードに関するタチの悪い噂はなりをひそめている。
また変に噂になる前に早く騎士団に帰ってほしい。
「それでは色々迷惑をかけたな。
私もお祖父様のような立派な人になれるように頑張るよ。
みんな、ありがとう。
それじゃ、元気でな」
アリアセンは一度大きく頭を下げると部屋を出ていった。
リュードにとっては厄介者だったけれど悪い人じゃないので是非とも今後とも頑張っていただきたいものである。
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