祖父譲りの正義感2
答えの分かりきった質問。
何をしようとしてるかなんて聞くまでもない。
「困ってる人がいるのだ、行かねばならないだろう」
「それは分かるけど1人でか?」
女性が気絶してしまったので場所しか聞けていない。
相手が何者なのかまだ不明。
村を襲うようなやつが1人なわけが無い。
想定されるのは複数人。そんな中にアリアセンは考えもなしに単身突撃しようとしている。
「この問題はこの国で起きたものだ。
賓客であるあなた達を巻き込むわけにはいきません」
冷静だか頭に血が上ってるんだか。
「そうだな、確かに俺たちは関係ない」
「なら……!」
リュードの言い方にカチンとくる。
やはりリュードのことは好きになれそうにないと思いながら押しのけて行こうとしたがリュードの力は強くて動かない。
「俺たちは貴賓なんだろ?
1人で行ってお前がやられたらどうするつもりだ?
けが人を1人残してお前が戻ってこなきゃ俺たちは道も分からない」
「うっ……」
リュードの言うことは正しい。
アリアセンは今リュードたちの案内人をするように命じられている。
大事な賓客だとファランドールからもよく言いつけられている。
勝手に置いて言ってしまうと国からの命令に逆らうことになってしまう。
実際リュードは自前で地図を保有しているし、地図がなくても道にそって歩いていけば迷子になることはほとんどない。
「危機に瀕している民がいるというのに私に見捨てろというのか!」
今にもリュードに向かって剣を抜きそうな剣幕のアリアセン。
「そんな事言わないさ」
「ならどうして邪魔をする!」
「1人で勝手に行くなと言っているんだ!」
これまで穏やかに話していたリュードのいきなりの叱責。
アリアセンが驚いて1歩下がる。
よく分からないけど女性の介抱をしていたエミナも驚いたように目を見開いている。
エミナの前でも声を荒らげたことがなかったから意外なリュードの姿に驚いていた。
アリアセンは完全に熱くなっている。
頭に血が上って冷静さを欠いていて、リュードの方が冷静になだめすかしてみてもただアリアセンは反発するだけになってしまう。
リュードは毅然とした態度でアリアセンの目を見つめる。
頭の中でリュードの言葉がこだまして、アリアセンは少しだけ上った血が下りてきた。
「じゃあどうしろと……」
語気が弱くなった。
「俺たちも行こう」
ルフォンはこんな会話の間リュードをジーッと見ていた。
行かないの?という視線だ。
リュードもこんな事態放ってはおけない。
アリアセンに行ってはいけないと言っているのではない。
1人で勝手に突っ走るなと言っているのだ。
リュードの言葉を聞いてルフォンがニッコリと微笑む。
「しかし……」
先程も言ったけれど巻き込む訳にはいかない。
危険なことはアリアセンも重々承知なのだから首を突っ込ませてはいけない。
「……じゃあこうしよう。
俺たちが勝手に行くんだ。
アリアセンはそんな俺たちを放っておけずについてきたんだ」
アリアセンが行ったのではなくリュードたちが行った。
大義名分とでも表現すればいいのだろうか。
依頼に期限は言われてないがもうデタルトスには連絡は行っているだろう。
あまり遅れると案内人であるアリアセンの責任を問われる。
勝手に寄り道をしましたなんて言い訳できることでもなく、責任を追求されることは目に見える。
1人で勝手に行かすわけにもいかず、なおかつアリアセンに責任がないようにする。
簡単なこと。
案内人しなきゃいけないリュードたちが行ってしまったのでアリアセンも行った。
リュードの配慮を感じてアリアセンは段々と冷静さを取り戻してくる。
「エミナたちはその人のことを頼む。
俺たちはその間に村の様子を確認してくるから」
「わかりました!」
ピシッとヤノチは姿勢を正す。
突発的な事態に慣れていないヤノチはアリアセンをたしなめるために声を荒らげたリュードの雰囲気に飲まれていた。
正確に決めたことはないけどこの5人の中でリーダー的な役割を果たしているのは誰がどう見てもリュード。
経験不足なことは自覚しているのでヤノチはリュードに従うのが適正だと考えてもいた。
「俺たちがいない間のリーダーはお前だ、エミナ」
ポンとエミナの肩に手を置く。
何かを言いたそうにしていたので先に手を打つ。
任せたぞと目を見てうなずかれては一緒に行くと言い出せなくなってしまう。
まだまだ心配な面はあるもののエミナは意外と周りをよく見ているし無茶な判断はしない。
3人での活動も慣れてきているので多少の相手なら対処もできる。
「ケガしないで、すぐに帰ってきてくださいね?」
止めても無駄。
2人の実力はわかっているけど心配なものは心配。
リュードは笑みを浮かべてエミナの頭を撫でてルフォンに視線を送る。
ルフォンは行く気満々である。
そうこうしている間にルフォンは必要な荷物を片付けてまとめて移動する準備を整えていた。
「ハラヤ村だっけ? 案内たのむぞ、アリアセン」
とりあえず女性が走ってきた方に向かって歩き出す。
「行かないのかー?」
「えっ、い、行きます!」
あっという間にリュードとルフォンにアリアセンが付いていくことになった。
ーーーーー
「これはヒドイな」
エミナたちを連れてこなくて良かったと思う。
リュードたちがハラヤ村に着いた時にはもう全てが終わっていた。
火を放たれて未だにくすぶる家々、槍や剣、中には鍬を持って倒れている男たち。
村は壊滅していた。
生きている者がいない惨状にアリアセンの握りしめた手が怒りに震えている。
ルフォンも同じ気持ちで目が怖い。
「一体誰がこんなことを……」
「奴隷商……」
「奴隷商?」
「見てみろ」
凄惨な現場で生きている者もいないので誰がこんなことをしたのかヒントはないように見えるがリュードはしっかりと現場を見ていた。
目も背けたくなる死体をよく見てみるとほとんどが一定以上の年齢の者。
多くの人が切り倒されているので全員を確認することは出来ないのでパッと見だけど若い男性は少なく、武器を持った男性か年配の人の死体しかない。
若い女性、それに子供の死体はない。
少ない情報から誰がこんなことをした犯人なのか必死に頭を回して推測した。
女子供、それに一部の若い男性は連れていかれたのだ。
盗賊の可能性もあるけど人の誘拐は面倒な行為だし村を潰して火を放つなんてことをしたら今後その地域で活動していくのは難しくなる。
盗む相手がいなくなるし重罪すぎて国から追われる。
奴隷商にしてもやりすぎだし人さらいではなく村丸々1つターゲットにするなんて多くない話なのだけれど根こそぎ女子供がいないことを考えると盗賊よりも可能性はある。
少なくとも魔物に襲われたのではないと断言はできる。
「……! 2人とも隠れるんだ」
ルフォンの耳が動き、リュードもそれに気づいた。
3人は身を低くして燃え残った家の壁裏に身を隠す。
「へっへ〜、他の奴らに見つかる前に隠せてよかったな」
小柄で小汚い歯の出たブサイクな男がトコトコとやってきた。
周りに誰もいないと思っていて大声で独り言を発している。
男は1度キョロキョロと周りを見回すと腰から剣を外して鞘をそのままに地面を掘り出した。
「俺が行く。2人は逃げないように回り込んでくれ」
声を潜めて2人に指示を出す。
2人が移動を開始したのでリュードも気配を消して男の背後に近づく。
「おい」
「はっ!? な、なんだテメェ!」
「黙れ」
振り向いた男の腹にリュードの拳が突き刺さる。
「ぐっ、うえええ!」
男がリュードの強力な一撃に嘔吐する。
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