それぞれの結末3
この時がキンミッコは1番人生で能力を発揮していた時だっただろう。
裏切って邪魔なものを片付けて国に嘘をつき、戻れない道を突き進んだ。
正直者や良心を持つものを陥れ、卑怯で金で動くもので周りを固めた。
状況を知る人も証拠も全て燃えてしまったので唯一キンミッコの証言だけが事件の証拠となった。
この事件のせいでトキュネスとカシタコウの関係は悪化して地域の紛争ではなく、国同士の本格的な戦争に発展しそうにもなった。
そのために仕方なくキンミッコの証言を認める他に状況が許さなかった。
時間が経ちキンミッコの実質的な支配が半ば黙認されつつあったのだが状況がさらに一変した。
新たなる戦争の火種。それに作物の不良。
両国はそれぞれの理由で再び和平に向けて動き出した。
その時に明るみに出てきたのがカシタコウで囚われていたトキュネス側の捕虜の話である。
長い間囚われていた男は忘れられていた捕虜であった。
起きた事件の大きさと戦争の機運が高まったことで男の存在は忘れられていた。
もう1つ忘れられていた理由として男は何も言わなかった。
名前も所属も目的も、何も言わなかった。
口を割らせようとしたこともあったのだが頑なに何も言わない男にカシタコウも諦めて男をただ長いこと牢獄に幽閉した。
和平の話が出たことでカシタコウは幽閉していた男のことを思い出した。
和平を結ぶなら捕虜となっている男を返してはどうかとなったのだ。
王の前に連れてこられた男はすっかりとやつれて別人のようになっていた。
その時、男は1つの質問をした。
カシタコウに捕らえられてから初めて発した言葉。
王はすぐさま質問の内容について調べさせ、男に結果を伝えた。
男はその答えに涙を流すと全てを話し始めた。
名前も所属も、どうしてカシタコウにいたのかも全て。
その男が言った。
パノンとミエバシオがした和平交渉は終わっていたのだと。
そして男にはカシタコウに恋人がいた。
パノンはそのことを知っていて男に命じた。
「自分は紛争地帯から離れるわけにはいかない。
だからこの和平についての書類を王城まで届けてほしい。
早く届けることが望ましいが、途中寄り道をしても私には分からないだろうな」
笑いながら書類を渡したパノンは笑っていた。
要するに恋人にでも会ってから届けても良いと気を回してくれたのである。
交渉が終わってすぐに出発した男は舞い上がった気分で恋人の元に行った。
そしてその直後にキンミッコがパノンとミエバシオを討ち取った。
部隊が丸々全滅して噂にならないはずもない。
戦いの話に敏感になっているヒダルダの土地の人々の中を噂はあっという間に駆け巡った。
当然カシタコウの男の恋人のところにも噂は届き、男の元にも噂はたどり着いた。
しかしその噂を聞いて次の行動を考える間も無くカシタコウの兵士が男のところにやってきて男は捕らえられてしまった。
男の恋人よりも早くに噂を聞いた恋人の両親が通報したのであった。
もし話が本当なら和平の書類は相手を騙した卑劣な手段の証拠にもなり得る。
そしてこうなると再びトキュネスとカシタコウは敵対することになる。
敵国の兵士と付き合っているなんてバレてしまえば恋人はどうなる。
非常にマズイ立場に追いやられるかもしれない。
正しい選択肢がわからない。
男はどうしようもなくてただただ口を閉ざすことにしたのであった。
男は和平の書類を恋人に託していた。
男の恋人が昔と変わらぬ気持ちを持っていたのであれば和平の書類はまだどこかにある。
男の言葉を受けて王は書類を探させた。
予想通りに書類は隠されていて、見つけ出すことができた。
長年抱いてきた違和感。
和平の書類には最終的な印が押してあった。
どうにも裏切ってミエバシオを討ったという行為には疑問が残っていた。
裏切るならもっと早いタイミングでいくらでもそうできる時はあった。
和平がなって表沙汰になってから裏切ってしまえば批判は避けられらない。
最後まで話を進めることなんてする必要がないのである。
和平交渉を最後まで進めたのなら裏切るつもりはなかったとそのようにしか見えない。
改めて調べてみるとトキュネス側ではカシタコウ側と異なる認識でいることが分かった。
なのでカシタコウの王は和平が白紙になることも覚悟の上でトキュネスの王にタブーであるヒダルダの地でのことを問いただすことにした。
両者で交わされた情報交換は驚くほどの早さと冷静さを持って行われた。
淡々と話は進んでいき、両国はそれぞれで情報を集めてすり合わせを行った。
両国がそれぞれ情報を元にして1つの結論に至った。
トキュネスとカシタコウの両方を騙して裏切り、全てを手にした者がいる。
そしてさらにそんな状況の中で1人の男が捕まった。
禿げ上がり、歯が何本もない、やたらと下品な笑みを浮かべる男。
通行人を剣で脅して金品を巻き上げようとして捕まったのであった。
よく居る小悪党の1人。
その小悪党の男は捕まるとベラベラと喋り出した。
自分が助かるためならと頼まれてもいないのにキンミッコの情報を売ると言って。
両国が至った結論に沿うような話を小悪党の男はした。
逃してもらおうとするための作り話にしては出来過ぎていた。
小悪党はキンミッコがパノンとミエバシオを倒す時に自分の私兵だけでは不安で雇われた傭兵だった。
金さえ払われればなんでもやるような汚い傭兵であった。
全てのことが済んだ後キンミッコは口止めも兼ねて傭兵たちを自分の兵として雇い入れた。
甘い汁を吸わせておけば大人しくしているだろうと思っていたのだ。
しかし生まれ持って悪党の性格を持った小悪党の男はその後の平和な生活に満足できなくなった。
小悪党の男は素行が悪く批判がキンミッコの元に寄せられた。
これ以上の批判が寄せられることを恐れたキンミッコは男を領地から追放した。
全てを知っていることを忘れて。
普段なら妄言で片付けられる話だったけれど偶然が重なって小悪党の男の話が上の者の耳に入った。
小悪党の男がキンミッコの下にいたことはすぐに調べがついた。
良くも悪くも素行の悪さが評判だったからである。
やるなら傭兵も片付けるべきだった。
裏切りや流れに敏感な傭兵をキンミッコが倒せたかは不明だが。
トキュネスは秘密裏に調査を進めた。
傭兵の中には貴族の兵となり感謝して口を割らない者もいたのだが酒を飲ませるとキンミッコの愚痴と共に当時のことを語る者もいた。
キンミッコがパノンとミエバシオを奇襲して死に至らしめた。
多くの証言が取れて推測は確信めいた。
あたかも功臣の顔をして全てを持っていたキンミッコこそが両国の和平をひっくり返し関係を悪化させて、前途有望な者を殺したのだ。
「今ごろお前が雇い入れた傭兵たちはトキュネスとカシタコウの連合に捕らわれているだろうな。
一体どれほどの者がお前について義理だてしてくれるだろうかな」
セードが全てを話し終え、キンミッコはもう切られた腕の痛みすら感じていなかった。
「貴様には裁判を受けることも証言する権利もない。
ただ僕が断罪する権利を両国から与えられた」
「む、息子だけは! あの子は何も関係がない……!」
「国家への反逆は一族郎党死罪だ。
傭兵だけでなくお前の屋敷にも兵が押しかけているだろうな」
絶望。
これまで築いてきたものが音を立てて崩れていくようだった。
言い訳も何も思いつかない。
縋りつこうとするキンミッコにセードは剣を向ける。
最後まで嘘をつき、卑怯な行為をしようとしたキンミッコにかける慈悲はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます