閑話・隣に立つと決めた日1
その日、ヴェルデガーをルフォンを抱っこして顔面蒼白でウォーケックが訪ねてきた。
ルフォンは不穏な気配を感じているのか泣きこそはしていないもののその一歩手前で、非常に不安そうな顔をして父親にしがみついていた。
ウォーケックは医者を連れ立っていて物々しい雰囲気をまとっていた。
メーリエッヒがウォーケックを招き入れると重たい足取りで中に入ってきてルフォンを降ろし、リュードと遊んでくるように言った。
これは確か8歳の春の終わり頃の話である。
この頃はまだリュードとルフォンは仲が良くなかった。
お隣さんとしての付き合いはあってもその程度であった。
先祖返りの影響を受けたリュードとルフォンは見た目に魔人化している状態のような特徴が残ったままだった。
リュードはさして気に留めていなかったのだがルフォンは内向的な性格でからかわれることが嫌で自分の容姿が好きではなかった。
お隣さん同士両親の仲はそこそこ良かったのだけれど2人揃うと余計に冷やかされることもあってか、ルフォンはむしろ少しリュードを嫌っているまであった。
だから遊んでこいと言われてもルフォンはリュードのところにはいかない。
ドアの影に隠れて大人たちの話を聞いていた。
そんなルフォンの心情も理解していたが仲良くもなりたく様子を伺っていたリュードにも話は聞こえていた。
魔力漏洩症。原因不明の病。
発症に関わる一切の原因が分からず突然病気になる。
段々と魔力が回復しないで無くなっていき、最終的に死に至る危険な病である。
ここ最近ずっと体調が悪そうにしていたルーミオラがとうとう倒れた。
慌てて医者を呼んで診察してもらったところ魔力漏洩症ではないかという結論に至った。
珍しい病気なので医者の手元にも治療薬はない。
それどころか大都市の大きな病院でもあるかどうか。
医者ではないけれどポーションを作ったりしているヴェルデガーのところに一縷の希望をかけて訪ねてきたのであった。
話を聞いたヴェルデガーも何とかしてあげたい気持ちはあるがモノはない。
首を横に振って返事をする。
元より期待はしてない。それでもショックは大きくウォーケックの顔に絶望が広がり、うなだれる。
「けれどまだ諦めないでください」
「しかし……」
「希望はまだあります」
「本当か! 一体どうしたらいいんだ! 何でもする、教えてくれ!」
顔を上げたウォーケックがすがるような目つきでヴェルデガーを見る。
運が良いことにポーション関係にも治療薬の作り方が載っているものもあって、その中の1つに魔力漏洩症の治療薬の作り方が載っているものがあった。
たまたまヴェルデガーのところに入手の難しい材料のいくつかもある。
ポーションを作る設備で治療薬を作ることもできる。
あとは足りない材料を揃えるだけである。
「必要なら俺が町まで走る。必要な物を教えてくれ」
本を持ってきてヴェルデガーが今手元にない材料を書き出していく。
少し希望の光が差してきてウォーケックの顔が明るくなる。
「ほとんどの材料は村にあるな」
中には村で育てているものもあるし、村の周辺で取れるものもある。
ただ、1つだけ用意するのに厄介なものが1つだけあった。
ディグラ草という薬草。しかも必要なのは花が咲く前のつぼみの状態のディグラ草が必要なのである。
幸か不幸かディグラ草の群生地は村からやや行った所にある。
「これは……難しいかもしれない」
ヴェルデガーが頭を抱える。
だいぶ暑くなってきたこの頃、すでに気温だけ見ると暑い季節の節に片足を突っ込んでいる。
ディグラ草は春節の終わり頃に花を咲かせる。
これだけ暑ければもうすでにディグラ草は花咲いている可能性が高い。
「すぐにでも行ってみたほうがいい。私は薬を作る準備をしておく」
「分かった。ありがとう」
ウォーケックはすぐに周りの地形に詳しい人と魔物に対処するための数人でディグラ草の所に向かった。
暗くなるまでディグラ草を探し回ったウォーケックはとても暗い顔で帰ってきた。
ーーーーー
「ルフォンがいなくなった!」
次の日、さらなる騒ぎが起きた。
慌てたウォーケックが再び顔面蒼白で家に来た。
朝起きてルーミオラの世話をしている間に気づいたらルフォンがいなくなっていた。
ルーミオラの状態もあるし1人でどこかに出かける子ではない。
情報はすぐに村中に共有されたけれどルフォンは見つからない。
村の中を子供が走り回っていても普通の光景なので気に留める大人は少ない。
村総出での捜索が始まった。
昼が過ぎ村の近くでの捜索も始まったけれどルフォンはどこにもいない。
妻は病気に倒れ、娘は行方不明。打ちひしがれたウォーケックに代わってメーリエッヒがルーミオラの面倒を見て、ウォーケックはリュードの家でヴェルデガーとともに報告を待っていた。
「どこに行ったんだ……」
このままではウォーケックすら倒れかねない。
「あの、俺、ルフォンの居場所知ってるかもしれません」
見かねてリュードが口を出した。
「何!」
「リュー、何を言いたいんだ?」
違うかもしれない、怒られるかもしれない。そんな思いがあって言い出せずにいた。
ウォーケックの様子を見て黙ていられなかった。
「きっとあそこです」
リュードが言うあそことはディグラ草の群生地。子供たちの間で話題の場所である。
ウォーケックが昨日行った場所とはまた違うところである。
川沿いを川に沿って進んでいくとある洞窟。洞窟を抜けると山の上の出るのだがそこにディグラ草が生えているのである。
春の地獄の鍛錬を終えて狩りを解禁されたやつが見つけたもので、夏の初めでもディグラ草が生えていた。
おそらく山の上は下よりも涼しく少し時期がずれているのだ。
今では狩りに行けるようになった若者の間でデートスポットになったりもしていた。
もちろんただのデートスポットなだけでなくこっそりと冒険したい子供たちの秘密の場所でもあった。
リュードも他の悪ガキと一緒に行ったこともあった。
子供の間では有名なのだ、ルフォンも場所や季節がずれていること知っているはずである。
ルフォンはディグラ草のつぼみが必要なことを聞いていた。
これらを合わせると導き出せる結論は一つ。
リュードの話を聞いてヴェルデガーとウォーケックが顔を見合わせる。
ありえない話ではない。
すぐさま連絡を飛ばして捜索隊が組まれた。
その中で1人リュードも子供ながら案内役として付いていくことになった。
危険だとヴェルデガーは反対したけれどほかに洞窟を知っていそうで戦えるものはもう村の外の捜索に出ているのでリュード以外にはいなかった。
後は子供だし、行ったことある子供もみんな怒られるのが嫌で口をつぐんでいた。
決して前に出ないようにとヴェルデガーに念を押されて子供用でもちゃんと切れる武器を渡された。
一緒に行きたがるウォーケックはすれ違いになってはいけないのでお留守番でリュードを含めた捜索隊が出発した。
川沿いに進んでいけばいいので洞窟には簡単に到着した。
「こんなんあったか?」
「いや、俺の時はなかったな」
「いつの間にかできたんだな」
大人たちの会話。大人が知らないことから予想ができるがこの洞窟は比較的最近できたようである。
「思っていたよりも狭いな」
通れる幅は広くても2人、狭いところでは1人がギリギリだった。
すぐ横を流れる川の水は冷たく、あっという間に体温が奪われてしまうので川を通ることはできない。
「えっと、こっち」
子供が来るところであるのでひっそりとマーキングしてあるところもあり道には迷いにくい。
しかしルートは比較的体格の小さい人向けの道でしっかりと装備している大人には少々厳しい。
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