伝えられぬ思い2
上手く受け流してもテユノは崩れない。このままではらちが明かないので力を込めてやりに剣をぶつける。
槍の方が持ち手が先と離れているのでかかる力が弱い。単純な力にも差があるからテユノの予想していた動きでもあった。
あえて抵抗せずにはじかれることで大きく体勢を崩されることを防いだ。
それでもそのわずかなスキにリュードは大きく足を踏み出して距離を詰めた。
ようやく自分の距離になったと思ったらテユノはなんとさらに距離を詰めてきた。
近すぎると近すぎるでやりにくい。
驚くリュードをよそにテユノはリュードの足を石突で突こうとする。
足を引いてかわすと今度は下から突き上げられ顎をかすめる。
上手くリュードの周りをまわるようにして側面に周りこみ膝裏を狙う。
さすがにそれは防いだがまたもや完全にテユノのペースになっている。
これが男相手なら胸倉でもつかんで殴り合いにでも持ち込むのだけれどテユノ相手にそんなことはできない。
それにしてもだ。殺気は感じられないのに当たると致命傷になりかねない攻撃が多い。
なんとなくちぐはぐな感じがする。
「ぐうっ」
槍を横にして柄の真ん中で押し出すようにリュードの腹に当てる。
柄がグリっと当たり意外と痛い。
そのまま反動を活かしてテユノは距離をとる。
また距離が空いて仕切り直しになる。
変則的で柔軟、とてもやりにくい。
リュードとてやられっぱなしとはいかない。
テユノの突きをかいくぐり再び間合いを詰める。テユノも負けじと再び距離を詰めてくる。
テユノは左利きで右手が前になるように槍を構えている。リュードは右利きで剣は両手で持つこともあるけれど基本は右手で持つことも多い。
特に黒重鉄の剣は重たいので両手で持っていたけれど左手を剣から放し、近づいてきたテユノの右手を槍ごと包み込むようにつかんだ。
左手を持ち上げるようにしてテユノを引き寄せるとリュードとテユノがほとんど密着する形になる。
テユノはルフォンよりも身長が高く、ルフォンならリュードの胸に飛び込むことになるけれどテユノ相手に密着するほど距離が近くなると互いの顔に息がかかるようになる。
「はなっ……ちかっ、きゃあああっ!」
掴まれた右手からリュードに視線を移すと真正面の近いところにリュードの顔があった。
ブワッと頭に血が上り顔が真っ赤に染まる。
けれどリュードは一瞬早く動き出し、それに気づくことなかった。
テユノの腰に手を回し抱きかかえるように腰に乗せてテユノの体を巻き込みながら足を払う。
体が硬直していたテユノは面白いほど簡単にリュードに投げられた。
多少力任せだったけれど別のことに気がいっていたテユノは何の抵抗もできなかった。
「俺の勝ち……でいいか?」
世界が回って、気づいたらリュードの剣が目の前に突きつけられていた。
「…………そうね」
「……テユノ、お前、泣いて……」
「泣いてなんかない、バカ!」
「あぶな! おい、おい!」
テユノは槍をリュードに投げつけ走り去っていってしまった。
普段からやっている癖が出たのだろう、槍投げのようにしっかりと投げられて槍先は真っ直ぐリュードに飛んでいって危うく刺さりかけた。
チラッと見えたテユノは泣いているようだった。
急に勝負を仕掛けてきたと思ったら、怪我をさせたいのかさせたくないのかよく分からない攻撃、しまいに負けて泣き出すとは全くリュードは理解が追いつかない。
「あーあ、泣かせたー」
ウォーケックが冷やかしルーミオラに足を踏まれる。
「リューちゃんの変態……」
ルフォンはルフォンで何故か機嫌が悪い。
「とりあえずテユノを追いかけるか……」
いつの間にか物見客までいる状況。
原因がなんであれ自分が関わっていることは確実なのでテユノを追いかけようとした時、何者かがリュードの肩を掴んだ。
「モテるのは仕方ないわ。でも女の子泣かせちゃダメよ?」
危険なオーラを感じたリュードは逃げたい気持ちに駆られるがガッシリと肩を掴まれていて動くことができない。
「テユノちゃんなら今はそっとしておいてあげなさい。
それにちょっとあなたにお灸を据えてあげなきゃいけないわね」
仕掛けられたのは自分だし、それに応じただけなのに。
そんな理不尽な思いを抱え、この日リュードはボロボロになるまで魔人化したメーリエッヒにしごかれた。
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