和解1
力比べから数日後、リュードは村長に呼ばれ村長の家に赴いた。
一緒に大人部門女性チャンピオンのメーリエッヒとついでにヴェルデガーもついてきている。
村長の家に着いてみると子供部門女性チャンピオンのルフォンとその両親もいた。
「此度の力比べご苦労であった。そして優勝おめでとう」
「「「ありがとうございます」」」
村長の前にテーブルを挟んでリュードとルフォンは村で作られた皮張りのソファーに、メーリエッヒはソファーの横に置いた1人がけの椅子に座る。
ヴェルデガーとウォーケック、ルーミオラは仕方なく後ろで立ちっぱなしになる。
まず村長から労いの言葉が送られてお茶とお茶受けが運ばれてくる。
お茶請けは特別に出されるお菓子で珍しく甘いものになる。
甘いのも好きなリュードは我先にと遠慮なくお菓子に手を伸ばす。
「メーリエッヒ・イデアムは大人部門女性チャンピオン、ルフォン・ディガンは子供部門女性チャンピオン。
そしてシューナリュード・イデアムは子供部門男性チャンピオンと大人部門男性チャンピオンとなった」
改めて口にされると実感する。
目の前の圧倒的にも思える覇気を纏う村長を倒したのだと。
「それぞれルーミオラとルフォンは1つ、シューナリュードは2つの願いを叶えてやろう。もちろんこの村の総力を挙げて叶えられることはな」
今日呼ばれたのは他でもない、優勝商品である1つ希望を叶えてもらえる権の中身について希望を聞くためである。
ルーミオラとルフォンはそれぞれの部門での優勝なので1つずつ。
リュードは子供部門と大人部門の2つ優勝なので2つ叶えてもらえる。
「ではまず2つもあるのだ、シューナリュードから聞いてみよう。
……望むならこの村長の座を明け渡してもよいぞ」
この村において村長の座につくことは最大の誉れ。
名誉や名声を重んじる魔人にとってはこの上ないご褒美になりうる。
リュードにとってはあまり興味のないものだけど。
それにあまり多くはないとはいっても村長の仕事をやるのも面倒だと思う。
「恐れ多く、この身におきましては村長の地位はふさわしくありません。私が望むのは……」
「望むのは?」
「この村から出て行く許可が欲しく思います」
「ほう」
村長の片眉が上がる。
以外ではない、けれどやはり聞けば驚きはあるといった表情。
ルフォンはもちろん知っているし、実はルフォン経由でリュードの両親もルフォンの両親も知っている。
「許可が欲しいことが1つとそのためにいくらかお金が欲しいことが1つ。これが俺の希望です」
「この村から出て行く、とは?」
「……どこか目的があるわけではありません。ただ世界を見て回り、旅をしてみたく思っています」
「なるほど……旅をしたいか」
「はい。力比べで俺の実力も示せたと思います。だから旅に出る許しが欲しいと思っています」
「良かろう、ただし……」
「村長!」
「むっ?」
何かを言いかけた村長に何かを決心した目をしているルフォンが割り込んだ。
「私のお願いも聞いてください」
「今はシューナリュードの希望を……」
「私のお願いはリューちゃんと一緒に旅をする許可が欲しいことです!」
「はっ?」
立ち上がってルフォンが告げる。
……リュードを見て。
ルフォン、今なんと?
ルフォンの言葉を聞いてウォーケックが膝から崩れ落ちた。
リューちゃんと一緒
村長も両眉が上がり驚いて目を見開いている。
コノヤロウ……と思わざるを得ない。
ヴェルデガーは特に表情を変えていないが母さんズは抑えきれないニヤニヤが顔に出ている。
最終的にはルフォンが決めたからこうはなったのだろうが恐らくこうなるように誘導したのは怪しく笑うこの2人だとリュードはピンときた。
ハイタッチまでしてるし。
かくいうリュードも突然のことに頭が追いついていない。
付いてくることを考えている素ぶりなんてこれまで見せてこなかった、もといしばらくあまり顔も合わせていなかったな。
「えっと……ルフォン?」
「リューちゃん、私決めたの!」
「決めた決めてないとかじゃなくて……」
「まあ、待ちなさい」
「ダメですか、村長」
「だから待ちなさい」
やや暴走気味のルフォンを村長が制する。
少しだけ声に魔力を込めるようにしてようやくルフォンが止まる。
親どもは特に制するでもなく静観を決め込んでいる。
ウォーケックだけは1人放心状態でショックを受けている。
聞いていたなら激しく反対していたろうから聞かされていなかったのだろうと思う。
ルフォンも落ち着きを取り戻したのかソファーに深く座り直す。
ひとまず言いたいことも言えたからルフォンはホッと胸を撫で下ろしている。
「付いていく云々はお主たちの話だ、後でなさい。
旅に出ることについてだが、その希望は叶えられん」
「……どうしてですか!」
予想外の答えに食いついたのはルフォンの方。
リュードも驚いたけど村長が理由もなく拒否をするとも思えず次の言葉を待つ。
「そもそもこの村は同族であらば来る者を拒むこと無く大きく発展してきた。
その中にはここのことを聞きつけ移住してきた者もいれば旅の者、さらには出戻りまでいる」
確かにこの村は人が増え続ける珍しい村となっている。
最初は他と同じく少数の規模の小さい村らしかったが人狼族と一緒になりいつしか噂が噂を呼んで世界中に散らばる竜人族と人狼族がちらほらと集まって村が大きくなっていった。
それぞれの種族全体の総人数がどれほどいるのかわからないけど今村にいる竜人族、人狼族の数だけみても最大規模の村だとリュードはみている。
「この村は自由だ。
来る者も、あるいは出て行く者も。ならばどうして出て行くことに許可なぞ必要あると思う」
「へっ?」
「えっ?」
「だから好きに行くと良いというのだ。
……ただしせめて16の年を迎えてからにしなさい。
だから優勝の賞品は別のものにしなさい」
あぁ、これはリュードのミスだ。
村を出るには村長の許可が必要だと、勝手に思い込んでいた。
旅をする許可を貰えればリュードもしても引き返すことは出来ないしルフォンも引き止められず両親を説得するにも使える。
村長の許可が必要ことを前提に打算的に考えていたけど許可が必要ないだなんて一切思ってもみなかった。
そう言われてみれば家だけあってふらっと旅に出ては時折帰ってくる人もいた。
今考えてみれば旅に出るのに村長の許可が必要なんてどうして考えていたのか。
思い込みとは恐ろしいものだ。
村長に認めてもらい、許可をもらうために力比べで全力で頑張った。
実力はついたし無駄ではなかったとはいえそこまで必死になることもなかったのだ。
「ははっ……」
「リューちゃん?」
張り詰めていたものが切れた。
気負っていたつもりなんてなかったのに、やはり心のどこかで重責になっていた。
思い込んでそれに気づけないほど視野は狭くなっていた。
リュードは笑いが止まらない。久々に大笑いした。
気負いすぎていた自分、許可が要らないことに気づかなかった自分、ルフォンが一緒に来てくれるかもしれないことになんだかんだ安心している自分が何だか可笑しくて。
「…………落ち着いたか?」
「はい」
そんなに長くはないけど声を出して笑ったリュードは涙を拭いて、引いたりすることなく優しい目をして待っていてくれた村長を再び見据える。
「お金についてはいくらか用意しよう。だからシューナリュードもルフォンも希望を今一度考えてくると良い」
「「はい」」
ゆっくり大きくうなずく村長にリュードはこの人こそ村長として上に立つのがふさわしいと思い知らされた。
自分だったらドン引きしていただろうし顔に出ていただろうとリュードは思う。
「ではメーリエッヒだが……」
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