初めての力比べ5

 防ぎながら敵の隙を誘い狙う。


 そうするのが本来のやり方なのだがこのまま受け続けているだけでは負けてしまうという警鐘が頭の中でなっている。


 同い年でも人狼族の少年とは違う。焦りや疲れの色が見えない。

 フテノも2人の15歳を相手にしてきているはずなのに。


 しょうがない。


 竜人や人狼的ではないけどこの際なりふり構っていられない。


「ハアッ!」


 気合いとともに袈裟切りに振られる剣をフテノは難なく受けるがそこで剣を引かず、体全体で相手を押すようにグッと力を入れて踏み込む。


 押されてフテノの体勢がほんのわずかだけ崩れこれまでにない隙が生じる。


 頼む!と思いながら剣を振るうもフテノは冷静に距離を空けて回避し剣は虚しくも空を切った。

 狙い通りに。


 逃がさないとばかりに地面を蹴って距離を詰めようとするもフテノはすでに体勢を整え迎撃の構えを見せていた。


 フテノから見たらリュードが消えたようにも見えた。


 地面を蹴った勢いを活かしてスライディングで近づくリュードは一瞬ではあるけれどフテノの虚をつくことに成功した。


 滑るように移動しながら足をめがけて剣を振るがすぐに気付いたフテノは飛んでそれをかわす。


 流石としか言いようのない反応であるがまだリュードのターンは終わらせない。


 剣を振った勢いで体を反転させてスライディングの体勢から飛び上がるようにして立ち上がり剣を思いっきり真横に振る。


 後ろの状況が分からないにも関わらず上手く防いでみせたフテノは賞賛に値するだろう。


 ただ空中にいては剣は防げてもそれにかかる力までは防げはせず、力任せなフルスイングの攻撃にフテノがそれなりの速さで飛んでいく。


「まだ終わらない!」


 無茶な動きに疲労が溜まった体が多少悲鳴をあげるけどそんなこと御構い無しにフテノが飛んで行った方に全力で駆け出して追いかける。


 1度地面に叩きつけられて跳ねた体勢を立て直そうとしているフテノの頭を狙って剣を振り下ろす。

 フテノは剣を真横に掲げて剣の腹を柄を持たない手で支えてそれを受ける。


 最後にもう一回攻められれば良かったのかもしれないが無理をしたリュードの体が付いてこなかった。

 動きの鈍ったリュードの隙をフテノは見逃さない。


 さすがに完全な体勢ではなくフテノの攻撃は雑で大きなものだったがリュードも反応しきれずもろに剣で受けてしまった。

 今度はリュードが弾かれるような形で距離を置かれてしまう。


 勝ちまで持っていくつもりだったのにダメージもあまり与えることなく消耗してしてしまった。


 いつも振り回しているはずの剣が重く感じられ始め肩でしている息はすぐには整わない。

 やばいと焦り思うリュードに反してリュードをジッと見たままフテノは攻め込んでこない。


 これ幸いとばかりに呼吸を整えながらフテノの周りをゆっくり回りながら様子を伺う。


 リュードが考えるよりダメージがあったのか、それとも更なる一手でも警戒しているのか。

 リュードが相手の立場なら迷わず攻め込んできそうなものだけど。


 何かがおかしい。


「あれは……!」


 極限まで集中した状態で発揮された集中力を発揮しているからこそ気づけたフテノの異変。


 落ち着け、これがブラフやハッタリといった誘いの可能性だってあるし単にそう見えただけかもしれない。


 そんな小さな違和感を確かめるように回る速度を速める。


 ピッタリとリュードを正面に見据えたままの状態を保つフテノは何ら変わりない様子のようにも見える。


 しかしリュードは見逃さない。

 上手くごまかしているけれど左足をわずかに引きずっていることを。


 徒労に思えたあの一連の流れ中のどこかで足を痛めたに違いない。

 これで不自然に攻めてこないことの説明もつく。勝利への光が見えた気がした。


 ならば悠長に体力回復に努めている場合ではなくさっさと攻め込むに限る。


 機動力を損なった相手なら速さで翻弄するような戦いをするのも1つと頭をよぎるがそうした戦い方をあまりやったこともないリュードがやったところで通用するとも思えない。


 最後は真正面からぶつかり合う。


 魔族チックな考えに毒されてる感じがだいぶある……まあ魔族だしいいや。


 フテノとの距離を詰めたリュードは最初から全力で切りかかっていく。


 攻め込んだのはリュードにも関わらずすぐにまたフテノが優勢の切り合いになったように周りは見えているだろう。


 確かに手数はフテノが多くリュードは防ぎ受け流す構図は見た目上変わっていない。


 中身はといえば全く異なっている。


 フテノの重かった一振りはまだそれでも重くはあるのだがしっかりと防御できるまでに威力は落ちていて踏ん張りの効いていない斬撃は脅威ではなくなっている。


 むしろ手数をやや重視して痛めたことを隠そうとしている。


 フテノの優勢も長くは続かない。


 時間が経てば経つほど痛めた足の痛みは強くなっていく。


 フテノが数回攻撃して、リュードが1回返す流れが段々と1回の攻撃を1回の攻撃で返す均衡状態になった。


 歯を食いしばって剣を振っている顔色は明らかに悪くなっていて足がひどく痛んでいることがはっきりと分かる。

 なのにまだ均衡を保ち大きな隙を見せないフテノは凄い。


「そろそろ終わりにしましょうか!」


 リュードも疲れてきて速さも力も落ちている。


 最後の力を振り絞ってフテノに猛攻をくわえる。


 初めて状況が逆転した。フテノが押されて防戦一方の状況を作り出せた。


 リュードとしても楽ではなくもう剣を投げ出して出来ればベッド、この際地面の上でもいいから体を投げ出して寝てしまいたい。

 これでダメなら負けでもいいかも。


 そんなことを思っていると剣が打ち付けられるたび足が痛むのか防戦を嫌がったフテノの剣が歪んだ軌道を描いて空を切った。


 痛みが確実に剣の腕を鈍らせて振り出しが遅く真っ直ぐに振り抜くことができず、容易に回避することができた。


「勝者シューナリュード!」


 フテノの首筋に寸止めされたリュードの剣とその瞬間上がった4つの白い札。最後のギリギリのところ、もう数秒続いていたら集中が切れていただろう。

先に限界が来たのはフテノだった。


「あ……」


「危ない……うわっ」


 糸が切れたように後ろに倒れるフテノをとっさに支えようとしてリュードもそのまま一緒に地面に倒れ込んでしまう。


 勝利で完全に集中が途切れて全く支える手に力が入らなかった。

2人とも限界だった。


 並ぶようにして地面に転がるリュードたちに惜しみなく拍手と賞賛の声がかかる。


「負けたよ……」


 空を見上げたままフテノは呟くように言った。


 下馬評通り優勢はフテノだったし総合的に見てもリュードはフテノに及んでいない。


「運が良かった。それだけさ」


「運も味方につけられる者が強いのさ。力に差があろうと勝負に勝った者が強い者。


 これが僕たちのルールだ」


 首だけを動かして俺を見たフテノには負の感情が見えず、むしろ清々しいほどの晴れやかな顔をして笑っている。


「いつから足、挫いてたんだ?」


「あぁ……やっぱり気付いてたんだね」


 足さえ挫かなかったら負けていたのはリュードの方だ。


「君が地面を滑るようにした攻撃を躱して空中で攻撃されて弾かれた時さ。


 僕は勝つつもりだったから出来る限りダメージは避けたくて地面に叩きつけられる前にどうにか衝撃を吸収して立とうと思ったのさ」


 それが間違いだったとため息をついて再び空を見上げてフテノは続ける。


「もっと上手くやれれば良かったんだけど結果は失敗。足は捻ってしまったし強かに地面に激突した」


 なるほどと思った。


 1度普通に地面に叩きつけられて跳ねたようにリュードには見えていたけどその時にはフテノの中で駆け引きが始まったいたのだ。

跳ねたのではなく足をついてそのまま反撃に移ろうとしたのだが威力を殺しきれず飛び跳ねるようになったのだ。


 咄嗟に着けたのは片足だったので結果足を挫くという代償を払うことにはなった。


 成功していたら無鉄砲に突撃してたリュードは無事じゃ済まない反撃をされていた。


「ほんの一瞬の判断が勝負を決める……15歳の今年がチャンピオンのチャンスだったのになぁ」

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