第11話 関係性

「葵さん、最近来ないね」


葵さんからの誘いも、来訪も途絶えたこともあって、柚羽と葵さんの話をすることもなくなっていた。


でも、柚羽にも連絡がないかを知りたくて話題に出す。


「そう言えばそうだね。お姉ちゃんのことだし、仕事が忙しいか、恋人ができたかのどっちかじゃない?」


私が葵さんからの告白を断ったのは1ヶ月前だった。それから葵さんに恋人ができた可能性は低いとしても0ではない。


葵さんの笑顔は、既に別の誰かに向けられるものになっているのかもしれない。振った私に今更何を言う権利もないけれど、会えなくなったことで喪失感はあった。



友達の好きと、恋人の好きは違う。



そんなの当然違うものだろうっと思っていたけれど、最近はすごく曖昧なものだと感じている。


「小うるさいのが来ないのは清々するんじゃない?」


「私は葵さんと話をするの楽しかったよ。ほら、私は身近に女性のSEで先輩っていないしさ」


「わたしといるよりも?」


「柚羽は営業でしょ。比べる方向が違うよ」


「そうなんだ」


「だって、開発側の話なんて、柚羽は全然分からないじゃない」


「それはそうだけどさ。聞くくらいならできるよ」


「うーん」


「どうせわたしは役立たずです」


私にとって柚羽は学生時代の友達の延長線にいる存在だった。仕事の話をするよりも、日常のバカ話をする方が楽しくて、肩肘張らずに一緒にいられる。


「そんなこと言ってないけど、やっぱり柚羽と葵さんってちょっと違うんだよね」


「会いたいなら連絡してみようか?」


「忙しいかもしれないし、別にいいよ」


会えなくなったことに淋しさはあっても、いざ会ったらきっとどう接すればいいのか私は分からないだろう。


「真依、わたしね、一時期お姉ちゃんがすごく嫌だったんだ」


「私は兄弟がいないからわからないけど、長くいればそういうこともありそうだね」


「好き勝手なことばかりしてるくせに、成績は良くて、大学もいいところにあっさり入って、就職先も文句なしの上場企業で、何をしてもわたしは勝てなかった」


以前、この裏返しの話を私は葵さんから聞いていて、柚羽はやっぱり葵さんにコンプレックスがあったということなのだろう。


「柚羽は柚羽で、葵さんは葵さんじゃないの?」


「離れて住み始めてやっとそう思えるようになったかな」


「柚羽って、もしかしてそれが理由で家を出たの?」


恋人と同棲を始める理由として、家が遠いからだとは言っていたけど、葵さんと離れたかったも理由だった気がした。


「理由の一つかな。毎日お姉ちゃんに今日はどうだったって聞かれるのが面倒だった。心配してくれるのかもしれないけど、余計なお世話だって思ってた」


「私から見れば葵さんはいいお姉ちゃんに見えるけど、柚羽にとってはそうとも言い切れなかったってことなんだ」


「2歳差って微妙なんだよね。学生時代も先輩達はみんなお姉ちゃんのこと知ってて、妹だから当然優秀だろうって目で見てくるから」


「そっかぁ」


「どこもここもうちみたいじゃないとは思っているけどね」


「柚羽が葵さんがここに来るのを嫌がったのは、それで?」


葵さんが終電に乗れなくてうちに泊まった日以降、葵さんは時々顔を出すようになった。でも、柚羽はそれにいい顔をしなかった。


「うーん。それはちょっと違う……でも、そういうことにしとく」


どういうことだろう? と聞いても柚羽は答えをくれなかった。


柚羽は柚羽で葵さんとの関係に悩んでいるし、私もこれからの接し方に悩んでいる。だから葵さんのことはもう封印しようと、私はそれで決意ができた。


葵さんと知り合えたことは間違いじゃないと思っている。でも、私と柚羽と葵さんの関係は幸せを生み出すことはできなかった。

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