第24話 チュートリアル:邂逅
ダブルデート(ホモ)から数日、期末試験の迎えた。
あれから勉強会を図書室、俺の部屋、カラオケ片手間で開いて励んだ。相変わらず成績優秀な大吾のご教授は分かりやすく、非常に悔しいが助かった。
まぁカラオケで勉強会は無いな。途中から歌ってばっかだし。
俺と大吾は良くも悪くも普通の歌唱力だったが、瀬那がガチで上手くて驚いたのは記憶に新しい。アニソンとかゲームの主題歌が主な俺でも、瀬那が歌う恋愛ソングは俺でも知ってる曲ばかり。黒ギャルパリピでもああいった曲が好きなんだろう。
途中からクラスのリーダー格の月野も混じって勉強会をした。ガタイ良し、性格良し、眉毛良しの月野も成績優秀な部類で、こう言って応援してくれた。
「がんばれがんばれ出来る出来るヤレルもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ頑張るがん――」
某太陽神の如くうるさかった。正直途中からスルーしてた。
そして迎える成績発表の日。
親友の大吾、クラスリーダーの月野、一緒に頑張ってくれた瀬那のおかげで、何とか筆記は赤点を免れた。
『チュートリアル:期末試験をパスしよう』
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:力+』
他の生徒はぽつぽつと補習決定と嘆く中、俺のクラスは一人として補習を受けずにすんでいる。
まぁ俺が一番危ないまであったけど、阿久津先生はこの結果に大満足の様子。教員間で苦労もあるだろうし。
「はい。筆記終わったけど、これから体力測定だから」
学園の期末試験は学勉だけではなく、体力測定もある。
攻略者を目指すにあたって、体力は必然といったところか。
個人の力量によるので頑張るしかない。学園が必要とする値でないと、体力を付ける補習が行われる。
しかし、俺は体力自信マンなので余裕でスルー。日々のチュートリアルの賜物だ。
『チュートリアル:体力測定をパスしよう』
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:技+』
そして一学期最終日。
「えーね。もう高2だし分かってると思うけど、ちゃんと宿題やって来ること、あとはめを外しすぎないこと。遊ぶのはいいけど、危険な事しちゃダメだから。俺、駆り出されるから。めんどくさいから」
相変わらずマイペースな先生だ。
「これも分かってると思うけど、夏休み終わった二学期にクラス対抗の模擬戦あるから。なんか他のクラスは夏休み使って鍛錬するとかぬかしてるけど、うちのクラスはそんなのしないから」
「めんどくさいからですか?」
「めんど……、俺はみんなを信じてるから」
月野の質問に先生が答えた。イイ感じの事言ってるけど、絶対にめんどくさいからだ。
「あと、バイトしていいけど、ドロップアイテム目当てでダンジョン入りたいならちゃんと許可証を申請してね。現攻略者同伴のもとだからって油断しないでね。普通に死ぬから」
眠そうな顔から緊張感ある言葉が出て、クラスが引き締まった。
少しの静寂が教室を包むと、キンコンカンと終了のチャイムが鳴った。
「登校日を忘れずになー。じゃあ解散」
阿久津先生が教室から出たタイミングでズラズラとみんなも机から立ち始めた。
「んー! やっと夏休みだぁ!」
隣の瀬那が伸びをした。豊満なマシュマロが揺れるが、俺は目をそらして大吾を見た。
「怒涛の毎日だったが、一学期も一区切りだな」
思い出に浸っている大吾。
思い返してみると、始まりはメッセージ画面からだったな。それから『至高の肉体』、
「で? 今日は萌ちゃんの部屋で遊べんのか?」
「あー」
実はリャンリャンの事は隠してある。俺の部屋で遊ぶ時や勉強会の時は、リャンリャンに出かけてもらっている。
どういった関係なのかと聞かれてもマズいので、最初は俺のわがままで外や居場所で待機してもらっていたが、リャンリャンの仲間外れ感に俺の良心が揺らぎ、作戦を考えた。
「なんか最近付き合い悪くない? ……まさか彼女できたの」
「無いな。萌ちゃんにいたってそれはない」
「悔しいけど大吾が正解」
瀬那の瞳からハイライトが消えたと思ったら、俺の言葉で元に戻った。
「遠い親戚がさ、遊びに来てるんだよ」
「親戚? 萌の部屋に?」
「うん」
「へ~」
二人とも興味津々だ。
「田舎から来ててさ、今俺の部屋で泊ってるんだ」
「でも居なかったよね」
「ちょうどタイミングが合わなかっただけ。今日は居るから、混じって遊ぼうか」
俺の提案に頷いた二人。さすが陽キャだ。陰キャな俺は人見知り発動して絶対会わない。
そして俺の部屋。廊下を歩き、リビングの扉を開けた。
「
笑顔全振りなリャンリャンが出迎えてくれた。
「え、に、ニーハオ」
「こ、こんにちは」
二人が目で俺に訴えてくる。中国人って聞いてないぞと訴えてくる。俺も伝えてなかったと負い目で目をそらした。
「いつも大哥と仲良くしてくれて有難うネ☆ 私嬉しい☆」
「いえいえ、俺たちも
「あの、日本語お上手ですね!」
笑顔のリャンリャンにおされ気味で緊張を拭えないが、ちゃんと話せている。
「ほら、大哥もお礼してお礼」
「オカンかお前は!?」
普通にツッコんでしまった。でもこれで俺とリャンリャンの関係性は分かってくれただろう。
「立ち話もなんだし座って話そうヨ☆ お菓子も用意したヨ☆」
机の上を見ると、本格的そうな中華菓子数点と急須があった。
四人掛けのテーブルに着く。
「私が今日のために作った☆」
「スゲェ、本格的だ」
「美味しそう!」
二人の反応は当然の反応だろう。俺もまったく同じ意見だ。リャンリャンにこんな得意技があったとは知らなかった。
「「「いただきます」」」
リャンリャンのお菓子に舌鼓し、お茶も堪能した。俺たちの昔話や、リャンリャンの事、もちろんフィクションを混ぜて実業家としている。時にはツッコみ、時には笑う。二人とリャンリャンは仲良くなれそうだ。
寮の門限が迫る時間。
「おじゃましました」
「お菓子美味しかったです!」
またな、と、二人は俺に言って帰路した。玄関のカギを閉めると、リャンリャンが声をかけてきた。
「やっぱり若い子と話すのは新鮮だネ☆」
「仲良くなって良かったよ。ホント」
仲違いは無いと思ったけど、これでしがらみ無く動きやすくなった。
「私は大哥の思い出を知れて良かったヨ」
家臣にほくそ笑みを返した。意を得たリャンリャンが後ろから付いて来る。
リビングに立つ。俺は手から黒い霧を出し、握りこむ。
「ファントム・ディビジョン」
霧が俺たちを包む。
暗転する視界。
色が戻ると、そこは不思議な空間だ。
天井が無く、ずっと上は暗黒。壁には緩やかに流れる水。上から流れる水は黒と青のコントラスト。下に流れるにつれ青に変わる。
床も水たまりが敷き詰められ、排水の概念がなく、一定の水量を保っている。
浮遊する実体のない篝火。無数にあるそれが辺りを明るく照らしている。
流れる水の音、篝火が爆ぜる音、どことなく聞こえてくるハープの音が幻想的だ。
果てしなく広いここがそう、リャンリャンが居るべき場所。ファントム・ディビジョンだ。
ここは
二つある霧の一つが晴れる。現れたのは三メートル弱の大きな
鋼鉄の左手で右手を包み拱手、跪いてかしずく武者。
そしてもう一つの霧が晴れると、そこには長いコートを羽織り、深くフードを被った幻霊が居た。
「我が主君。忠誠を誓います」
ツインアイが言葉と共に点滅した。
「そういうのいいから」
「なんかやっちゃうんだよねぇ☆」
立ち上がる黄龍仙。おどけた口調がリャンリャンそのものだ。
「さっそくやるぞー」
大きく後退し、拳を握りこむ。
「手加減しないよ☆」
黄龍仙も構えた。
「晩飯まで付き合ってもらうぞ!」
俺は駆け出し、修行を開始した。
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