第31話 ふたつの二重封印

 ついに始まった、混色の四重封印。

 緑の龍脈のパワースポットを淀ませた、ルビーの赤の魔素が居場所を無くす。

 フィーナのピンチにユウトの身体は動くが、ユウトはまだ眠ったままだった。



 ユウトの腕輪の宝珠が、さらに輝きを増す。

 これはフィーナを守りたい一心から、ユウトの青の魔素が暴走しだしたためだった。

 元々パワースポットの緑の魔素は、淀んでいる。

 そこに居るユウトは、いつ暴走してもおかしくはなかった。


 フィーナとアスカは、緑の魔素を浄化する四重封印から、離れる。

 ふたりはユウトの暴走を抑えるべく、二重封印〔フェアリーデュエット)にきりかえる。

 ユウトの腕輪の宝珠を中心に、魔法陣が浮かぶ。


「ユウトお願い。元に戻って!」

 二重封印の踊りの最中、フィーナが叫ぶ。


「く、」

 その横で、ミクが苦痛に顔を歪める。

 四人で抑えてた魔素の淀みを、ふたりで抑える事になったからだ。


「しっかりしろ、ミク。」

 マドカがミクを励ます。

 退魔の剣を手にするマドカだが、ぶっちゃけやる事がない。

 ルビーの持ち込んだ汚れた赤の魔素は、既に浄化した。

 パワースポットに溜まった魔素は、淀んではいるが、汚れてはいない。

 緑の王妃が、安らぎの魔素を注ぎ続けてるためだ。

 青の国のパワースポットからあふれた魔素とは、そこが違う。

 ユウトも安心して、幼児退行出来る訳だ。


 だから退魔の剣を振るったら、緑の王妃の効力も薄れる。

 ユウトを凶暴化させても構わないなら、マドカも退魔の剣を震える。

 淀んだ魔素を薄め、妹たちの援護が出来る。



 しばらくして、フィーナとアスカの二重封印により、ユウトの魔素の暴走が止まる。

 ユウトの浄化の腕輪の宝珠は、いつもの鈍く澄んだ輝きに戻る。


「私らの出番は、ここまでだな。」

 アスカは妖精体から人間体に戻る。

 フィーナは妖精体のまま、ユウトを見守る。


「ああ、後はコマチとミク次第だな。」

 マドカはアスカに近づくと、退魔の剣をアスカに返す。

 コマチとミクは、優雅に舞い踊る。

 淀んだ魔素も、澄んだ魔素に戻りつつあった。


「全く、おまえってヤツは。

 人使いが荒すぎるぜ。」

 アスカはその場に腰をおろす。

 修行してる所を連れてこられたアスカは、疲労困ぱい。

 ダメージ量的には、マドカより酷かった。


 対してフィーナは、妖精体のまま、眠るユウトの上で踊り続ける。

 これはミク達の行う二重封印とは違う。

 二重封印は、魔素を清めるための儀式。

 対してフィーナの舞いは、ユウトを癒すためのものだった。


「やるじゃねーか、おまえの妹。」

 共に疲れきったアスカとマドカ。

 マドカはアスカに対して、フィーナをほめる。


「そう言う事は、本人に言ってやれ。」

「あいつ、苦手なんだよなぁ。」

「へー、緑の国の第一王女、マドカリアス様ともあろう者が、フィーナ如きを苦手にするとはな。」

 アスカはちょっと大げさに、マドカを茶化す。


「おいおい、私は浄化の腕輪を失った。

 すでに王女でもなんでもないさ。」

 マドカは自嘲気味に、笑みを浮かべる。

「でも、コマチとミクにとって、おまえが姉である事には変わりない。

 それも、頼りになるお姉さまだろ。」

 とアスカはコマチを励ます。


「ぬかせ。

 私は異世界パルルサ王国に、骨を埋める覚悟だったんだ。

 今さら姉ズラ出来っかよ。」

「でも、異世界パルルサ王国での仲間は、おまえをジュエガルドに戻す事を選んだんだろ。」

「でもでも、うっせーな。」

 そう言うマドカだが、その表情はどこか、晴れ晴れしている。


「ほんと、あいつらときたら、私に楽をさせてくれねー、ひどい奴らだぜ。」

 マドカは、異世界パルルサ王国での仲間達の顔を思い浮かべる。


「そのおかげで、いい物が見れたんじゃないか。」

 アスカは、二重封印中のコマチとミクに、視線を向ける。

「ああ、そうだな。」

 マドカは、ユウトの上で踊るフィーナに、視線を向ける。

「ほんと、あいつのあの気概。

 もっと早くに、見せてほしかったぜ。」


「フィーナはおまえと同じで、異世界に行って来たんだぜ。

 案外おまえとも、気が合うかもしれんぞ。」

「ふ、それはない。とも言い切れんか。

 以前のレスフィーナ相手なら、全力で否定するんだけどな。」


 アスカとマドカがくっちゃべってる間に、コマチとミクとの二重封印が終わる。

 コマチは妖精体のままだが、ミクは人間体に戻る。

「どうですか、お姉さま。」

 ミクはマドカに、評価を求める。


「初めてにしちゃ、上出来だ。」

「良かった。」

 ミクはその場に、へたり込む。

 初めての妖精変化は、ミクに相当の負担を強いていた。


「後はお母さま、いや、ここの魔素に取り込まれて淀んだ、お母さまの精神が、元に戻るかだが、」

 マドカはパワースポットに沈むユウトに、視線を向ける。

 コマチも同じ思いなので、二重封印が終わってからずっと、ユウトを見つめている。

 そんなユウトの上で、妖精体のフィーナは踊ったままだ。


「う、うーん。」

 皆の注目を浴びるユウトは、大きく伸びをする。

「ああ、よく寝た。」

 とユウトは目を覚ます。


 しかしこの声、ユウトの声ではなかった。


「ちょっと、ヤバいかも。」

 マドカは冷や汗を流す。


 ユウトの身体から発せられた、今の声。

 これは緑の王妃の声だった。

 パワースポットに閉じ込められた、緑の王妃の精神。

 淀みが浄化された今、そこに沈むユウトの身体を乗っ取る事は、マドカの想定したシナリオのひとつだった。




次回予告

 やってくれましたわね、青の小娘ども。

 我が聖域に土足で足を踏み入れるとは、なんとも恐れ知らずな小娘どもよ。

 青の小娘どもには、聖なる鉄槌を降さねばならぬな。

 ああ、私か。私は緑の王妃、エメラルド・ジュエラル・シルドレス。

 コマチとミクの二重封印〔フェアリーデュエット)で、自分の意思を取り戻す事が出来ました。

 後は、青の小娘どもを始末するだけですわ。

 あら、聞き捨てならないわね、緑の王妃さん。

 げ、あなたは青の王妃さん。いつからいらしたのです?

 ここは元々、私のコーナーですわ。

 それにあなた、名前があるなんてずるいですわ。

 え?あなたにもありますよね、カレンさん。

 カレン?それが私の名前…。

 もう、何バカな事言ってんですか。

 あなたは青の王妃、サファイア・ジュエラル・カレリーナ。

 私とはカレン、シルって呼び合う仲じゃないですか。

 そうでしたわ、シル。私はカレリーナ!

 私はサファイア・ジュエラル・カレリーナ!

 カレン、一体あなたに何があったの。名前ひとつでそんなに嬉しがるなんて。

 そりゃあ、あんたんとこの小娘に、バカにされたからね。

 って、うちの子達に鉄槌を降すって、どう言う事?

 あらカレン、嫌ですわ。私にもカッコつけさせて下さいよ。

 次回、ジュエガルド混戦記激闘編、魔素に潜むモノ。

 お楽しみに。


※今回、目覚めた緑の王妃の意思と、一悶着おこすつもりでした。

 けど、そこまで行けませんでした。

 次回もどうなるかは、分かりません。この予告とは異なる場合もありますが、それはそれとして、ご了承下さい。

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ジュエガルド混戦記 激闘編 あさぼらけ @Asabora

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