第27話 腕輪の譲渡

 ユウトの生命の危機に現れたのは、異世界パルルサ王国から帰還した緑の国の第一王女、エメラルド・ジュエラル・マドカリアスだった。

 マドカの機転で、一命をとりとめるユウト。

 だけどマドカの態度が、フィーナの逆鱗に触れる。



「さあ、勝負よ、マドカさん。

 早く妖精変化しなさいよ!」

 先に妖精変化したフィーナは、マドカを急き立てる。

「ふ。」

 対して、このひと言で済ませるマドカ。

「何よ、私なんて妖精変化しなくても充分だっての?

 バカにするな、マドカリアス!」


「な」

 姉を挑発されて、コマチもミクも、気分はよくない。

 しかしフィーナの気持ちも分かるので、何も言えなかった。


「悪りーな、レスフィーナ。」

 マドカは左手にはめた浄化の腕輪を見せる。

 腕輪には、宝玉がはめられている。

 マドカの宝玉は、輝きを失っていた。


「それが何だってのよ!」

 輝きを失った宝玉。

 それが何を意味するのか、分からないフィーナではなかった。

 しかし、自分から振っておいて、それで済ますマドカが、許せなかった。

 フィーナは人間体に戻る。

「これでいいでしょ、勝負よ、マドカさん!」

 そう言うフィーナの身体は、心なしか震えている。


「フィーナちゃん、もうやめましょう。」

 そんなフィーナを、コマチがとめる。

「でもコマチさん、ユウトがバカにされたのよ。

 許せるわけないじゃん。」

 フィーナの声に涙が混じる。

 このままマドカに殴りかかりたい。

 だけど体力差がそのまま反映される人間体では、勝ち目が無い事も、フィーナには分かっている。


「それよりも今は、ユウト君の事を心配しましょ。」

 とコマチはフィーナをなだめる。

 現状、どうすればいいのか、分かってるのはマドカだけだ。

「そうね、勝負はお預けね、マドカさん。

 後でミクと一緒に、相手してあげるわ。」

 とフィーナは矛先を収める。

「ミクと一緒に?」

 マドカはその単語に引っかかる。

「あ、そう言えば。」

 ミクは自分がフィーナに、決闘を申し込んだ事を思い出した。


「だってあれは、レスフィーナさんがユウト様を下僕扱いしてるから、」

 と言いかけて、ミクは言葉をにごす。

 ユウト様にそう言わせてるだけで、実際のふたりは、そんな関係には見えなかった。

 ならばミクにとって、フィーナと決闘する意味はなかった。

 ユウト様をフィーナから解放してあげる。

 この目的が、ユウトの意にそぐわない事も、ミクは分かっていた。


「ははは、下僕のために、そんなに取り乱してるのか。」

 とマドカはニヤける。

「何よ、悪い?」

 フィーナはマドカをにらむ。

「フィーナちゃん。」

 そんなフィーナを、コマチがたしなめる。

「今は、ユウト様の事を心配しましょう。

 マドカお姉さま、どうすればいいのですか?」

 ミクもフィーナをたしなめ、マドカに問う。


「ここは、混色の四重封印〔フェアリーカルテット)しかないな。」

「混色の四重封印?」

 フィーナとコマチとミクは、同時に声を上げる。


 混色の四重封印とは、色の違う四人で封印の儀式を行う事。

 混色する色の比率は、合わせる必要がある。

「ちょっと待ってください。

 今封印の儀式に参加出来るのは、フィーナちゃんだけですよ。」

 早速コマチが異を唱える。


「いや、あとふたりいるだろ。」

 マドカは自分の浄化の腕輪の宝玉から、緑色に光る小さな玉を取り出す。

 これは、マドカが異世界パルルサ王国から持ち帰った、魔石の一部。

 その玉はコマチの浄化の腕輪の宝玉に吸い込まれる。

 これでコマチは、妖精変化出来るくらいには、回復する。


「あとひとりは、」

 と言いながらマドカは、浄化の腕輪をはずす。

 そしてその腕輪を、ミクに投げ渡す。

 受け取ったミクは、姉の行為の意味が分からない。


「その腕輪は、今日からおまえの物だ。」

 とマドカに言われても、ミクには意味が分からない。

 この腕輪は、マドカお姉さまの物だ。

 マドカお姉さまが何と言おうと、その事実は変わらない。はず。


「ミク、受け取りなさい。」

 コマチも、今まで見せた事のない真剣な表情で、ミクをうながす。


 マドカは異世界パルルサ王国での戦闘で、腕輪の全能力を解放した。

 それは故郷ジュエガルドに帰る事を放棄する事で、発動する。

 そしてそれは、ジュエガルド緑の国の王位継承権を放棄する事も、意味する。

 王女のみに扱えると言う浄化の腕輪を、今のマドカは扱えない。

 一生異世界パルルサ王国で住ごす事を決意したマドカだが、異世界パルルサ王国での仲間達によって、マドカはジュエガルドに帰還させられる。


 上記の様な事を、コマチは説明させたくなかった。

 異国の王女である、フィーナのいる所では。


「分かりました。

 浄化の腕輪、このミクルーカが譲り受けます。」

 ミクは腕輪を左腕にはめる。

 宝玉は輝きを取り戻す。


「な、何これ。」

 ミクの身体に、腕輪に秘められた魔素が流れ込む。

 以前の持ち主、マドカの意志とともに。

 ミクは理解する。

 異世界パルルサ王国での、マドカの決意を。

 そして今、ユウトを救うために、何をするべきなのかを。


「で、あとひとりは、どうするつもり?」

 腕輪がミクを受け入れたのを見て、フィーナはアスカに問う。

 腕輪の無いアスカは、四重封印に参加出来ない。


「ああ、それならこれから連れてくる。

 ちょっと待ってろ。」


 アスカは転移魔法を使い、どこぞかへと、飛び去った。



次回予告

 はあーい、私、フィーナのママ様ですぅ。

 やりましたわ。ついにこのコーナー、取り戻せましたわ。

 ざまあみろ、小娘ども。

 いえーい、見てるぅ?ユウト君。ってユウト君?

 まあ、大変じゃない。

 私が目を離してた隙に、こんな事になるなんて。

 緑の国の王妃も、なんて事してくれてんのよ。

 今度会ったら、文句言ってやるわ。

 まあ、文句言いたいのは、緑の王妃だけじゃないけどね。

 幼児退行してもフィーナちゃんを守るなんて、やっぱり素敵ね、ユウト君。

 待ってて、ユウト君。

 混色の四重封印で、元に戻してあげるからね。

 ほんとは、私が駆けつければ、一発で元通りなんだけどね。

 フィーナちゃん達の出番を奪っちゃ、かわいそうだし、それに鳳凰谷は緑の国のパワースポット。

 ここはマドカリアスさんの顔を、立てなくちゃね。

 次回、ジュエガルド混戦記激闘編、ユウト君復活。

 お楽しみに。


※今回四重封印させるつもりでしたが、出来ませんでした。

 次回もどうなるか、分かりません。

 この予告と異なる可能性もありますが、ご了承下さい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る