第40話 秘密の訓練

 ・・

その後も少しの間オジキとその孫は

のどかな話をしていたようだったのだが


「よいか ゲンゴあの女神像はだな・・」

「お、おう・・わかったよ・・あそこは眺めがよかったんだよ」


どうやら年寄り特有の説教臭い話も始まっていた様子


どうも天狗の孫が女神の像の上に乗っていたことにお叱りを受けているらしい

天狗の孫は悪気はなかった、で通すことを決めたのか

のらりくらりと追及をかわしていた


・・・

やがてお説教も終わり


 「ではワシはそろそろ部下と弟子のところに行かねばならんのでな」

 「じゃあなオジジ」


そういって孫とひとしきり話して満足したオジキは

人差し指で高い鼻を少し触れると

「バシュウウ!」

辺り一帯から風がビュンビュン吹き荒れて 

翼を大きく広げてその巨体で力強く一気に空に飛んでいった


あの方向は・・、学園の中央街の石柱の並んだ神殿前辺りだろうか 

オジキの姿はもう大空の高くにあって

姿はすぐ遠くに小さくなっていった


そういえば今日の朝から人の姿が多かったのって 

さっきいってた学園の守りに異常が起きた事件の関連だったのかもしれない



・・・

その場に残された私たち


「ゲンゴだっけ? 君は行かないの?」


「俺は学生だからな というかリズだっけ お前の方がどうしたんだよ

 今は講義中だろ?」

(あっ そうだった・・)


「講義は・・まあもういいのよ ちょっと抜け出しちゃったの」


「はあ 悪いやつだな お前 

まあいいや 俺もオジジにいわれて抜け出してきたからな


リズ ちょっと次の講義まで付き合ってくれよ 

結構できるんだろ? あっちが空いてるからさ」


「・・!」


・・

聖セントラル中央魔法学園にはところどころ

魔法を学ぶ生徒の憩いの場というか

魔法の訓練などをしても問題ない施設や空き地があって


日頃の魔法の成果を試す生徒のために開放されている

だけど今まで私は利用したことはなかった


(それに私は魔法ダメダメだしなあ・・

魔物由来の魔力ならちょっとは使えたけど 全然継続できるほどじゃないし)


(私のことクリスフォードって聞いて勘違いしちゃってるよね・・

期待させちゃったかな まあでも早いうちに誤解は解けた方がいいよね)


「・・・」

(それに今はアスラもいるから・・

訓練ならこの腕輪もちょっとだけ試してみる機会かも)


そう思って

少し前にサークルの先輩から貰って身に着けたテイマーの腕輪を見る


講義は今さら戻っても出席分がでないし

(まあ・・)

アスラも隣でウキウキソワソワしていたから まあいいかと思って

私は新しく学園で出会ったオジキの孫、

見た目は人間だけど天狗の男の子

ゲンゴとの付き合いについていくことにしたのだった


・・

学園構内を少し一緒に歩いて

少し雑談というか何でもない話をする


「あの女神の像って登っちゃダメだったの?」


「どうもそうらしいな

俺は前からけっこう登ってたんだけどな」


さっきまで説教を受けていたけど

あんまり反省の色は見られない天狗の孫ゲンゴ



「なにか神聖な女神とかだったとか?」


まるで神聖じゃない邪悪な女神がいるみたいな言い方をしたけど

そう言ってみる


「この学園内にはあちこちに

女神像とか戦士像があるのは知ってるだろ?」


「うん 知ってるわ」


リズが学園内を散歩とかしているときに

園内のところどころに建つ立派な像はよくみかけている

今も遠くに少し像は見えている


「彫像は大昔の大英雄たちがだいたいのモチーフなんだ

だからだいたいは誰の像なのかは分かってるんだが


あそこの女神像は部位が欠けてて

学園に何体かある名前が分からない女神像の一体なんだ


だからあの像が神聖な女神だったのかはちょっと分からないな


ああいう一部が欠けた像や首から上がない女神なんかの像は

実はそれは破損しているんじゃなくて

女神の欠けた部分は現世にあって

名もない女神は今も世界を見守っているんだと


そうオジジが言っていたな


像自体はかなり大昔からあって

学園ができるよりもっと前からあったらしいぞ」


「へえーそうなのね」


(ふーんそんな話がねえ

まあ神聖だかは置いておいて普通に考えて

ああいう像の上にのっちゃだめだよね)




・・・・

・・

「空き地を使おうかとも思ったが せっかくだから施設内がいいよな」


・・

しばらくまた学園構内を歩いて

リズとゲンゴはさっそく目的の学園の訓練施設にやってきていた

アスラもリズの足元にちょこんとついている


学園都市に設置された、魔法を研鑽する学生のための施設

やってきたところは新しくてわりと奇麗な印象だ

(ふーん・・)

魔法を自由に撃つことができる広い間取りに

施設内には他にも無料のトレーニングジムとかもついている


ここではないけど水上や岩上でトレーニングできるようなところもあるらしい


・・・

手続き後の施設内の訓練広場


「やっぱり今の時間は人が全然いないな 快適だ

どうするか まずは軽ーく撃って・・」

といいながら


「(シュバア!)」

ゲンゴは風魔法を手から全く詠唱をせずに

広間にある遠くの的に当てていた


(へえ・・すごい・・)


リズはそれを見て

「やっぱオジキの風魔の一族って 風魔法が得意なの?」

「お、オジジに会ったことがあるなら ちょっとは知ってるんだな

そうだぜ得意だ」


今度は得意げに他の的にも連続でぶち当てていた

(へえ・・良く制御もできてるなあ)


それからゲンゴはこちらに振り返って


「どうだ リズも魔法を・・」


「それなんだけど 今日はアスラの訓練をしようと思っていたの」


「ああ・・持ってるの杖じゃないしなあ 普通の魔法向きじゃないもんな 

魔物使いがよくつけてるやつだな

じゃあ今日はそこのちっこいのが動くのか」


「ちっこいのじゃないもん・・」

アスラはそういいながら やる気満々でクイクイとえっちら準備運動をしている


それを横目に

「ところで この腕輪って

テイマーの腕輪みたいなんだけど どうやって使うかわかる?」


リズは腕輪のついた右腕をアピールするように

ゲンゴにちらりと見せる


「え、いやわかんねえぞ それは杖の代わりじゃないのか

俺はテイマーじゃないから詳しくは知らん 

ていうかお前がつけてるんだろう知っておけよ」


ゲンゴは少し考えこんでから

「でもテイマーが使う特殊な魔法をつかうときに使うんだろう?

普段は口に出して命令すればいいんじゃないか テイマーはそんなもんだろ

魔物使いの仕事ってのは 運搬か騎乗用の魔物の契約が主だからな」


「へえ・・そうなのね」

「なんか使えるのか? 命令してみたらどうだ?」


「命令っていうか この子は別にそういうんじゃないのよね・・」


(でもちょっと見てみたいかも 

あのダンジョンの竜の魔法を起動させた炎の威力を)



「アスラ・・ちょっとあの的に魔法を撃てる?」


リズは近くにあった離れの的の方に指さす


「わかった」

アスラがうなずくと


「・・ファイヤーボール!」


アスラが両手を突き出して魔法が発動し 的に向かってまっすぐ放たれる


「ボシュウウ!」

放たれたファイヤーボールは音を立てて的に命中し

少し爆発を起こして焦げ目をつけて収まる

(わあ・・けっこうすごいわ 私よりもう普通にすごい)


「おお普通に撃てるな  なかなかだ 精度も悪くない

スライムのくせにいい魔力だな 他に何かあるのか」

(やっぱ傍からみても いい威力なのね)


「・・ないよ」

うつむき気味のアスラ

「ん?ないのか もったいないな 教えてないのか」


「うちでひとつだけ アスラは回復魔法をやってみたけど 

どうやら適性がなかったのよね」


「回復魔法? そりゃ向き不向きがあるだろ なんかやりたいのとか、ないのか」


するとアスラは


「パンチ」(しゅっしゅっ)

つぶやく

(アスラ・・・)


アスラの奇怪な動きを眺めているゲンゴ

「え? 魔法じゃないのか それは徒手格闘か?

まあ使い魔は物理タイプもいるしな」


「まあいいぜ 俺も魔法ばっかりじゃな 体が鈍るからな

かかってこいよ」


(え?)

「(ピイイン・・)」

そういうとゲンゴは七色の不思議な色をした魔法の膜のようなものを

体に巡らせて覆った状態になる


魔力を常時動かしているようで僅かな風の動きで

魔法の膜の色が常に変わっていっていて不思議な光景だ

(わあ・・)


「これは簡易な風魔の結界だ 

発動中は明らかにケガをしなくなる

大会なんかだと補助員が最低限の守りの支援魔法をかけてくれるが 

自分で術をかけれた方が将来いい


その精度の魔法がうてるなら 応用で魔力で似たようなことができる

簡単なものは魔力で体を覆うだけでできるからな

それができたらパンチしてみてもいいぞ」


(なにそれ 私もしたいかも)


「マネしてみろ」

ゲンゴはそういうと結界とは別に

さっきより簡単だというフヨフヨとした魔力を手から出して

周囲に回し始める


(・・・)

ゲンゴはアスラに向かって言っているが 

私も横でひそかに挑戦してみているという


(ただ出して回すだけなら私でもいけるかも・・)

有効活用できていなかった寄生饅頭マンからのお兄様の魔力を

あまり扱えないけど少しずつ手で回していく 


「シュルシュル・・」

次はそれで覆って・・

腕の半分だけ いびつだけど謎魔力で薄く張ることができた気がする


やっぱり私の魔力適性的に普通の魔力を練るのはすごく難しい 

でもなんとか無理やり・・


器用さだけは鍛えているからね

「あっ・・!」

(お・・できたぞ・・!)


「ボボボ・・!」

だけど やっと少しだけできた私のその横で

アスラはすでに体の半分ほど魔力に覆われていたのだった

(な、なにい~)


アスラの頭の方に魔力のソフトクリームのような

炎のようなものがくっついてくるくると渦巻いている


そのアスラの様子を見てゲンゴは

(・・・)

「火の魔力か 火の魔力の扱いに関しては たぶんお前はセンスがあるな」

「や、やったあ!」


「・・全身をざっくりおおって回してみろ 慣れたらだんだん薄くしてみろ

まあそっからは慣れだ 強くしたければ密度の方をどんどん高くしていく」


どんどん私を置いて魔力の扱いが上手くなっていくアスラを

少し眺めている

「風魔の結界もそうやってるの?」

「いやうちのは別だ 普通の魔法とはちょっと違ってる」

「ふーん」


そんなことをしている間に

まん丸い目を真剣にしているアスラは順調に魔力を全身に覆い

それを回しながら薄くしていっていた


・・

「これが魔力のオーラ装甲だな 

身の守りと 魔力を回しているから強化も兼ねているな

そのへんでいいだろう まずは」


「(ザ・・」

ゲンゴがアスラに対して戦闘態勢に構える


「うってみろ」



「・・・」

そういわれてアスラは黙って小さく腰をおとす


(あれ もしかして私の真似をしてる?)

それで一気にゲンゴに近づいて


「パンチ!」

ゲンゴの真正面にパンチをうち 

アスラのパンチはまっすぐゲンゴの腹に向かう・・が

それはすばやく手のひらで受けられてガードされる


「ボウン!」

その時 ぶつかったところから炎が溢れでて小規模な爆発をする

(わっ!)


完璧にガードをとって無傷のようだったけど 

(シュウウ・・、)

少し煙がでている手をみているゲンゴ


ゲンゴの手のひらは一つ年下の男の子とは思えないほど

皮が分厚くてよく修練を受けたとわかる手だった

(爪とかも非常に堅そうだった)



「これは普通のパンチじゃないな 炎属性のファイヤーパンチだな・・

やる前に結界はつけておいてよかったな」


「だが・・はじめだから我流なのか なんというか撃ち方に癖があるな

 風魔流が少し混じってるが普通の徒手格闘を少し教えてやる」


(ええ・・私のパンチはへんな癖だったのか・・)


「魔力のオーラの維持は続けてしっかりしておけ

見て覚えろ 少し実戦だ」


ゲンゴはそういうと


!!

アスラに接近して無遠慮なキックを繰り出した


慌てるリズ

(え・・!いきなり!ちょっと!こいつ)

「アスラ!」


「(ブワッ!)」

キックは一瞬でアスラの頭上を通っていき そこからさらにパンチを繰り出して

アスラの顔の前で風を起こして止まっていた

(ピタ・・)

アスラは少しびっくりしていた、が 

しっかり目を開いてゲンゴの拳を見ている様子だった


「逃げなかったな いいぞ だが次から軽く当てるぞ

できるなら対応してみろ」


「うん つよくなる」


ゲンゴのパンチが軽くだけど アスラの体に少しづつ当たり始めると

私はやっぱり止めようと思ったり


(ああ・・こんなはずじゃ)

私ははじめはハラハラしてかなり心配だったんだけど


(・・・・アスラ)

この子は穏やかに育ててみようと思っていたんだけど

「・・・・」

なんだかそうしているアスラがすごく楽しそうだったので

私は離れで立ち尽くして何も言えなくなってしまった


・・・・

「ぶおん!バオン!」

しばらくアスラとゲンゴは格闘をしていて たまに炎が飛び交っていた


(なんだか格闘をみていると私もちょっとうずいてくるなあ)


確かに心配もしていたリズだったが

少しずつリズのいかれた格闘ゲーマーの血も騒ぎだす

とはいっても右腕の血流がわずかに強くなった感覚があったけど 

それくらいだ


「・・・」

(でも私はこの世界では魔物に会わないと

本領が発揮できないんだよなあ

魔法で祝福モードを使ってくれれば なぜか力を発揮できるけど

学園内ではなかなかね・・


膨大な魔物由来の魔力があればいいのかしら

自分の魔力を使ってイヴの力の出力とかできないかしら・・)


でもそんなことをしようとすれば 

イヴの渦巻く莫大な力に

一瞬で魔力が干からびてしまうことが容易に想像できる


(やっぱ駄目ね・・)


また拳と拳がぶつかる

「びしい!バシイ!」


(・・・。)

少しじれったいリズであった


・・・


「・・そろそろ頃合いだな」


ゲンゴはそういうと

飛びかかってきたアスラの攻撃を軽くいなして体をキャッチすると

「ブン!」

アスラを私のほうにぶん投げてきた

(こいつ・・!投げ技まで・・! 嫌な記憶・・ やっぱオジキの孫なのね)


「リ、リズ~!」

(ぼふっ)

なんとか投げられたアスラを受け止める

練習していた魔力のオーラを維持していたので衝撃もあまりなかった


「っ、ちょっとあなたね・・」


「加減はしてある まあセンスはあるぜ このスライム

大会に出ればもしかしたら テイマーとして勝てるかもしれんな


お前の魔法もあればいいとこまでいけるぞ もったいないなあ」


(私は魔法できないんだってば・・)


・・・・

・・


そうしてオジキの孫ゲンゴとの秘密の訓練が終わり

少し休憩をする


リズが身支度で少し更衣室で時間がかかっていて

遅れてフロアに出てくると


テチテチ先に出ていって待っていたアスラとその近くにいたゲンゴが座っていて

なにやら一緒に床で小さな遊びをしている


「・・なにしてるの?」


「りず・・!」

「おお 遅かったな これは「独楽コマ」だ

こうやって回して遊ぶんだ」


(コマ・・!)


それは小さい木でできた、どんぐりのような形をしていて

そのおもちゃの木のコマを風で器用に回して

向かい合って覗き込むアスラに見せていた

「ちゃああ・・」

アスラはキラキラとした目で見ている


「 俺の里の子供は小さい時はみんなこれで遊んで育つんだ


いいか おチビ

強くなるのもいいが 子供はしっかり遊ぶのも大事なんだぞ」



アスラは風の魔法は使えないので

手で回す方法をゲンゴから教えてもらったらしく一生懸命回していたのだった


(へえ・・くるくる回ってる

そういえばあのオジキも最初ら辺は

風の独楽みたいな技を使ってきたっけ・・

子供の遊び、かあ・・)



(・・・。)



・・

そうして

講義をさぼったチョイ悪学生の私たちは施設の外にでてきたのだった


「いい暇つぶしにはなったぜ オジジにまた会ったらよろしくな」


そういうとゲンゴは飛ぶのかと思ったけど

別にリズの予想と違って翼で空に飛んでいったりはせず 

(あら・・)

今度は真面目に講義に向かうのか

歩いてスタスタと校舎の方に去っていった


「じゃあねー」

・・

訓練施設から出る時に

「お前はよく動くからこれはお前の首にかけておく 

これで動いても落とさないだろ 家に帰るまではつけておけ」って

ゲンゴにもらった紐の付いた布の巾着袋に小さい木のコマをしまって

首にかけてもらっていたアスラ


訓練の内容も満足いくものだったのか 

パタパタ手を振るアスラの機嫌はよさそうだった


前の勇者たちとの立ち話でアスラの機嫌がだいぶ損なわれていたので

ちょうどよかったのかもしれない


そう思ったリズであった

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