第8話

 HRが終わって帰る準備をしていたら、廊下がざわついていて、何だろうと目を向けた。






 6時間目の授業はほぼほぼ耳に入って来なかった。






 だって、真鍋先輩が………真鍋先輩に………。






 教室についてすぐチャイムが鳴っちゃったから、透にも友弥にもまだ言ってない。






「新井、帰るぞ」

「はいいいいいいい?」






 ざわざわする入り口から現れたのは、今まさしく考えていた真鍋先輩で。






 ぽかーーんと、した。






 透と友弥がぽかーんってこっちを見てる。






 え、ちょっと、見てないで助けてよ!!






「早くしろ」

「え、ちょっと待って、先輩」

「待たねぇよ。行くぞ、鞄貸せ。ほら」






 またしても強引に僕から鞄を取り上げて、ほらって腕を掴まれて立たされる。



 助けてーーって透と友弥を見るのに、2人もぽかーーんと僕と真鍋先輩を見ている。






 送り迎えって、本気だったの!?



 いや待って、そもそも二人乗りってしちゃダメでしょ?






 立たされた僕の腰に、やっぱり真鍋先輩は腕を回して支えてくれる。



 クラス中の、っていうか他のクラスからも野次馬が来て、注目を浴びてて、本当に本気で恥ずかしくなって、顔が赤くなるのが分かった。






「透!!友弥!!」






 連れ去られながらも2人の名前を呼ぶけど、2人は苦笑しながら手を振るだけだった。






 何で助けてくれないのーーー!?











「乗れ」






 ズルズルと半ば引きずられるみたいに連れて来られた駐輪場。



 真鍋先輩がぶっきらぼうに一言そう言いながら、朝の自転車とは違うママチャリに跨がって、後ろを指差した。






「え?これですか?」

「クラスメイトと交換した。俺の自転車、荷台ついてないから」

「そ、そんなわざわざ!!」

「足、俺のせいだし。………マジ悪かった」






 そっぽを向いたまま、そんな風に言われて………ちょっと、ドキッと、しちゃう。






 真鍋先輩が、照れてる…………?






「それは、僕が飛び出したからで………」

「ま、そうなんだけどな」

「すみません…………」

「試合、出られなくなったって」

「え?ああ………それは………」

「マジで、ごめん」






 すごく真剣に、僕の目を見て、言うから。



 真鍋先輩が、かっこ良すぎるから。






 顔が……………熱くて。






「乗れよ」

「…………はい」

「で、掴まれ」

「掴まれって………」

「腰。掴まれ。落ちるぞ」

「…………はい」






 真鍋先輩の腰に腕を回して。



 僕はどうしてか。






 ずっとドキドキしていた…………。

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