第30話 戦利品


「すげぇな、コレ全部くじの景品?」

「ダンジョン外でも幸運の効果がつくんですね……」


 大量の戦利品を前に、甲斐は大喜びだ。

 晶さんも驚いたようだが、自作のアクセサリーの効果が純粋に嬉しいようで、こちらも喜んでくれている。


「気楽に喜んでくれているけど、大変だったんだから!」

「そうね……。途中から店員さんに凄い目で見られていたわよね」

「あれは絶対に疑われてましたよね……」


 だが、自分たちが触れていたのはガラポンのハンドル部分だけ。転がり落ちた玉には、指一本触れていない。


「途中で止められて、ガラポンの中身を確認された時はドキドキしちゃいましたよね?」

「まあ、タネも仕掛けもないから、疑われようもなかったけれど」


 半信半疑な様子で現場の責任者らしき店員さんが何度かガラポンを回して確認し、納得した状態で再開したのだが。


「また上位当選が続いて、凄かったよね。お客さんが殆どいなくて良かったけど、しばらくショッピングモールは行かない方がいいかも」

「そうね。しばらく買い物はネット通販にしましょ」


 今回大量に買い溜めしたので、しばらくは問題ないだろう。魚介類は通販に頼ることになりそうだが、甲斐と晶さんに買い物をお願いしても良い。


「それで、景品の内訳はどんな感じなんだ?」

「そうね。ガラポンは五十回挑戦して、特賞の電動アシスト自転車とギフトカード十万円分を当てたわ」

「おお! 買い物金額は十五万円だっけ? これだけで回収できたんじゃないか?」


 電動アシスト自転車は日本製で、検索してみたところ十万円以上の値段が付けられていた。

 甲斐の指摘通り、この二点だけで既に私たちにプラスな状況だが。


「それだけじゃないよ。まず、一等のギフトカード五万円分、二等のギフトカード一万円分を三回。同じく二等の国産ブランド和牛肉一万円分が二回、カツオまるっと一本が四回、ずわい蟹セットも四回当たりました」

「まだまだ。なんと三等のお米十キロ分が三回、ビール詰め合わせが七回、ご当地ラーメン食べ比べセットがなんと八回も当たったのよー?」


 その凄まじさに、さしもの二人も言葉がないようで。奏多さんがとても良い笑顔で追加を指折り数えている。


「その他にも、高級フルーツ詰め合わせとかキャビア缶もあったわね。今夜頂いちゃいましょ。うふふ、楽しみ」

「あと卓上ガスコンロと電気ケトルも当たりましたよね? 何気に嬉しいです。四等が何だったかな。ああ、カップ麺だ! 人気ラーメン店のちょっとお高いやつ。あれも楽しみですよね、夜食に食べたいなー」


 居間の大きめのテーブルいっぱいに積み重なった景品は、あらためて見ても冗談にしか思えない。

 幸運のアイテムの効果を知っていた自分たちがここまでドン引きなのだ。

 店員さんたちには悪夢だったに違いない。


「さすがに申し訳ないから、あそこのショッピングモールのオンラインで必要な物は通販しよっか」

「そ、そうだな。俺も何か欲しいもんあったら、あそこに行くわ」

「私もモールの手芸ショップでたくさんお買い物しますね」


 金券だけで十八万円分当ててしまっているので、しばらくはそれを使うことにはなるだろうが。


「でも、電動アシスト自転車は嬉しいな。通勤用に使わしてもらってもいいか?」


 甲斐はさっそく自転車を楽しそうに撫で回している。いくら【身体強化】スキルがあるとは云え、毎日ジョギングで牧場に通うのはキツいのだろう。


「もちろん良いわよ。と言うか、カイのために二人で狙った景品なんだから遠慮なく使ってね」

「そうそう。鍛錬にはちょうど良いって言っていたけれど、牧場から貰った乳製品を守るためだと思って、使ってくれる?」


 にっこりと奏多さんに微笑まれて、甲斐は慌てて頷いている。

 牧場で働いている甲斐はよくお土産を貰って帰って来た。消費期限の近い乳製品が多く、プリンやヨーグルト、生クリームを良く譲って貰っている。

 牧場で作られた乳製品はどれも美味しくて皆大好きだったが、無造作にリュックに放り込まれて持ち帰るものだから、ぐしゃぐしゃに潰れていることが多かったのだ。


「自転車も揺れるけど、多少はマシになるでしょ? さすがに」

「う……。気を付けます……」

「よろしい」


 その他の景品も、どれも欲しかった物ばかりだ。ブランド和牛肉は最近全く口にしていなかったので、素直に嬉しいし、カツオやカニもダンジョンでは得られない海産品。

 ビールは幾つあっても問題ないし、お米やラーメンもダンジョン帰りで飢えた身には飲み物なみに消える食べ物だ。


「卓上ガスコンロがあれば、ダンジョン内でも使えるわね? カップ麺を持参して、休憩時に食べるのもありかも」

「カナさん天才ですか? アリですよ、それ!」

「いいな。あったかい物が食えるのはありがたい」

「ふふ。そのうちドロップしたお肉でバーベキューを始めちゃいそう」


 晶さんがくすくす笑いながらそんな風に茶化したが、三人とも「その手が!」と感心してしまったので、その内実現しそうだ。



「あ、そうだ。晶さん、これお土産です。ハチワレ猫さんのぬいぐるみ!」

「えっ、いいの? かわいい……」

「えへへ。晶さんのキーホルダーのおかげでゲット出来たので! カナさんには猫さん印のホットサンドメーカー。カイにはタオルね」

「ん? 俺にもくれるのか?」

「うん、皆にあげてるからねー」

「そっか。ありがとな」

「ミサちゃん、ありがと。可愛くて美味しいホットサンド作るわね」

「楽しみです!」


 さりげなく手渡した猫さん模様のタオルだが、甲斐も気に入ってくれたらしい。

 晶さんはうっとりとぬいぐるみを抱き締めている。気になったらしき、猫のノアさんが寄って来たので、後でカツオの刺身をお裾分けしよう。


「書店くじでも狙っていた上位賞がゲット出来たし、スクラッチくじも一等は無理でしたけど、十倍以上の金額になりました」

「そんなに?」

「あ、じゃあキーホルダーを着けて宝くじを買ってみたら億万長者になるんじゃ?」


 ぱっと顔を輝かせる甲斐に、奏多さんが咳払いして割って入ってきた。


「ごめんなさいね、期待しているところ。私も今気付いたのだけど、どうもこのキーホルダー、引き寄せた幸運の大きさによって劣化しているみたいね……?」

「え?」


 劣化とは。慌てて、ポケットに入れていたラビットフットを取り出した。奏多さんが私のキーホルダーもじっと見詰めている。


「鑑定によると、残りの使用回数があと五回、とあるわね」

「使用回数……?」

「幸運を引き寄せられる回数が決まっているみたいね。【鑑定】のスキルレベルが上がったのか、詳しく見られたのだけど」


 奏多さんによると、晶さんが作ってくれた、この『幸運のラビットフット』は合成レベルが低く、引き寄せられる幸運の大きさと使用回数が決まっているらしい。


「あ、だからスクラッチくじも一等は当たらなかったのかな?」

「でも、ガラポンくじは10万円相当の景品がぼろぼろ当たっていたよな。じゃあ、上限がそのくらい?」


 ならば、まだこのレベルのアイテムでは、ドロップ率を引き上げたり、ちょっとしたくじ運を上げる程度の幸運しか引き寄せられないのか。


「じゃあ、宝くじは無理かー…」

「いえ、ラビットフットを大量にドロップして上限まで合成すれば、宝くじで一攫千金も狙えるんじゃ?」

「意外と晶さんが乗り気だ!」

「乗り気にもなりますよ。高額な当選金があれば、今後の人生がより豊かに過ごせますからね」

「それはそうか。今までと変わらずに働くにしても、億単位の貯金があると思えば、心に余裕もできそう」

「いいな。俺も宝くじ当てて、家族に持ち家を買ってやりたい」

「そうね。私も自分の店を持つ夢は諦めていないから、そのうち挑戦してみたいわね」


 四人で顔を見合わせる。

 誰も宝くじを当ててシェアハウスを出て行くとは口にしなかったことが、何となく嬉しい。


「うん、いいね。じゃあ、しばらくは二階層でのうさぎ狩りを頑張っちゃう?」

「おう! あ、でも鹿肉も欲しいから、三階層も行きたい」

「一階層のポーションも忘れずにね?」


 

 その日の夜は、景品のブランド和牛を使ったすきやきとビールで舌鼓を打ち、高級フルーツを堪能した。

 翌日からのうさぎ狩りのため、大いに英気を養ったのだった。

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