第13話 ポーション

 

 さっそく戦利品のポーションをノアさんにあげることにした。

 薬を飲ませる時のように軽くホールドして飲ませようとしたら嫌がったので、何となく小皿に中身をあけてやると、そのまま飲んでくれた。

 しかも、美味しそうにピチャピチャと音を立てながら舐めている。思わず、手の中のポーションをまじまじと眺めてしまった。


「ポーションって旨いのか?」

「分かんないけど、ノアさんの口には合ったみたいね」

「うん、やっぱり効いているみたいね。だるそうだったのに、食欲もでてきている」


 あぐあぐとドライフードを口にするノアさんを北条兄妹が嬉しそうに見守っている。ノアさん込みで、なんとも微笑ましく麗しい光景だ。


「怪我とかはないけど、俺もちょっと疲れてるからポーション試してみていい?」


 好奇心に満ちた目で甲斐が見上げてくる。


「……仕方ない。効用も気になるし、みんなで飲んでみる?」

「そうね。飲んでみたいわ」

「私も飲みたいです」


 全員一致の回答に笑いがこぼれる。みんな、どれだけ興味津々か。私もだけど!


「じゃあ、せーの、で」

「いただきます」


 一息にあおったポーションの味に、私たちは目を丸くした。回復薬の類だ。てっきり苦味があったり、飲みにくい物なのではと思っていたが、予想を裏切ってそれはとても美味しかった。

 さわやかな甘さと喉の奥で小さく弾けるような、この味は。


「……ラムネ?」

「それだ!」

「懐かしい味だと思ったら……」

「んまいな。ただ量が少ないからおかわり……」

「却下! ステイ、カイ!」


 子供の頃、夏休みによく味わった、懐かしい、あの味とよく似ていた。

 これはぜひ、冷やして飲みたい代物だ。


「どうりで、ノアさんも美味しそうに舐めるわけね」


 くすくすと笑う奏多さんには、ノアさんの鑑定の結果が良いものだと教えてくれている。弱っていた内臓にポーションはちゃんと効いたのだ。


「良かったです、ノアさん。毎日一本ずつ飲んでいこうね」


 食後のグルーミングに余念がないノアさんの頭をそっと撫でる。ふわふわの毛並みに口元が綻んでしまう。かわいいな。 


「ノアさんもだけど、俺らも疲れがとれたよな?」

「ですね。ピッケルを振り下ろし続けて、ちょっと筋肉痛のあった腕の痛みもとれてます」

「ほんとだ。私も腰の怠さが消えてる」

「ただ、めちゃくちゃ腹がへってる」

「それ」


 思わず全員で顔を見合わせてしまう。

 そう、ダンジョン内でお弁当を食べたばかりなのに、もう空腹なのだ。


「やっぱり、スキルや魔法を使うと、お腹が空くのね」


 ダンジョン内では魔法に慣れるため、物理攻撃の他にも魔法を使っていた。

 あいにく水魔法はスライムとの相性が悪かったので、攻撃には使わなかったが、魔法操作に慣れるため、水球を浮かべたりと魔力はかなり使ったと思う。

 ゲームみたいにHPやMPが表示されるわけではないので、自分たちの状態が分からないのが少し歯痒い。


「意識したら、さらにお腹すいてきた」

「私も」

「お腹ぺこぺこ」


 空腹を訴える欠食児童を前に呆れた奏多さんがため息を吐いた。


「仕方ないわね。少し早いけど、ご飯にしましょうか」


 わっと歓声が上がった。

 急いで炊飯器をセットする。欠食児童は四人。迷いなく一升分の米を投入した。余ればお握りにして冷凍しておいてもいいし、……むしろ足りないかもしれないが。

 あとは戦場だ。キッチンでは戦力外通告された甲斐は畑で野菜を収穫中。

 ギリギリ戦力として認定された晶さんは兄の指導の下、野菜炒めを作っている。

 ご飯が炊き上がるまで我慢出来ないと判断した私は冷凍うどんを湯がいていた。

 料理をしながらお腹をきゅうきゅう鳴らしている。この飢餓感は異常だ。魔法やスキルは頼もしい力だが、燃費はものすごーく悪いのかもしれない。


「うどん湯がけた! とりま、生卵と醤油ぶっかけて、釜玉うどんで食べよう!」


 丼ぶりを手渡すと、お行儀が悪いが、みんな立ったまま無言でうどんを啜った。熱々のうどんに絡んだ卵が濃厚で最高に美味しい。

 白身の部分が熱で少しだけ固まったところもいい。夢中で丼ぶりを空にして、ようやく満ち足りた息を吐けた。


「はー、美味しかった……」

「うん。シンプルだけど美味しかったねー……」

「でも全然たりねぇ」

「それも分かる」


 とりあえず切なく泣き喚いていたお腹の虫も少しだけ満たされたようなので、あらためて昼食作りに励んだ。

 結果、バケツいっぱいに収穫した野菜と肉一キロ、一升分のお米は綺麗に消費された。


「エンゲル係数……」


 今後の食費を考えて、ぞっとした大家の私は、ダンジョン内にどうか美味しいお肉を落とすモンスターがたくさんいますように、と心の底から祈ったのだった。

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