第61話 皆は格好良いのに、主人公だけヤバい状況




「まあ属性がある核石は重宝するから構わないけどね」


「お願いします」


 今はそれだけでいい、フミネとしてはそう考えた。ソゥドの属性研究については、フィヨルタに帰ってからだ。今、やらねばならない事をしっかりと心に刻む。



 さらに1日。一行はいよいよ『白金』の領域に到達したと実感していた。甲殻獣、特に白狼の密度が濃いのだ。大型個体は眷属とか取り巻きとか言われる同属種を従えていることが多い。『白金』は狩人の報告から、大型の甲殻白狼だと報告されている。


「いよいよですわね」


「とりあえず間引かないと、親玉に到達しても面倒になりそうだよ」


 オゥラくんはもう、背嚢を背負ったまま戦闘を続けていた。いちいち着脱するのが面倒くさい。アレッタとコボルは地面に降りて、小型を相手に奮闘している。


 木の密度が高いので、甲殻騎としては戦いにくい戦場だ、ってこともない。強者が操る甲殻騎は伊達ではない。木の間から襲い掛かってくる獣たちを、只つったったままぶちのめせばいいだけだからだ。細かいのは、地上の随伴歩兵がやってくれている。


 それにはっきり言ってここにいる11騎は、フィヨルトのベストイレブンだ。大公夫妻が駆る大型の『シルト・フィンラント』を筆頭に、大型4騎、中型7騎。当然その中にオゥラくんも含まれる。彼らはご丁寧に道を譲ってくれない。敵に到達して、倒して、公都に戻るまでが討伐なのだ。


「ガンガンいこうぜ!」


「がんがん、いきますわ!?」



 ◇◇◇



「なるほどこう来るんだ」


「大型上級1体、あれが『白金』ですわね」


「で、ついでに大型が3体くっ付いてきた、と。どうする? 全部いっぺんにやる?」


「わたくしは一向に構いませんわ!」



「流石に構うよ!」


 大公が大声で言った。


「クーントルト! 指示を出せ!!」


「了解! 閣下とお妃様は一番右を、サイトウェルとオレストラ、あんたがたは一番左だ。わたしが真ん中をやる」


 そう、例の第2騎士団長サイトウェルも、しっかり大型騎に乗って同行していたのだ。


「それ以外は、随伴と協働して中型と小型を蹴散らせ!! 余裕があれば大型を牽制遊撃!」


「わたくしたちはどうすれば良いのかしら?」


「お嬢とフミネ様は当然」


「『白金』に突撃!!」


 フミネが叫ぶ。クーントルトがニヤリと笑う。


「総員、役目を果たせ!」


 大公が命を下すと同時に、各員が役割を果たすべく運動を開始した。



 ◇◇◇



「くっ、押し戻されるか。オレストラ! 相手は風を纏っている!」


 サイトウェルが第5騎士団団長、オレストラ・グラト・ジェイカー子爵に叫ぶ。オレストラもまたライド派に立っている。だからこそクーントルトは2騎をペアにしたのだ。


 オレストラが騎乗するのは中型騎である。二人は暗黙のまま、オレストラが牽制しサイトウェルが強襲するという連携を取った。


「俺が止める。卿はそこを突け」


「出来るのか」


「出来る出来ないじゃない。お嬢様方の戦場だぞ。無様など出来るものかっ!」


「同感だ!」



「君とこうして戦うのは久しぶりだね」


「そうですね。執務で鈍ってはいませんね?」


「この間、義理の娘に叩きのめされたのを、君も見ていただろう。私もそろそろなのかもね」


「もう少し、もう少しだけ。フォルテかライドが後を継ぐまでは」


「分かっているよ、さあ、娘たちに倣って楽しく戦おう」


 大公夫妻の駆る『シルト・フィンラント』は大型個体に、踊るように襲い掛かった。


「それにしたって大型個体だ。ファインとフォルンに良い土産になるよ」


「ライドにも一騎造ってあげないと」


「確かにそうだね。じゃあ、私たちからの贈り物を刈り取ろうか!」


「ええ!!」



「ねえフィート、わたしはまだ、追い抜かされる気は無いよ」


「どうでしょうね。自分なんかはまだまだですけど」


「ぬかせ。自分には伸びしろがあるってことか?」


「まあ、そうですね。だけどお嬢たちは多分、とんでもなく伸びますよ」


「だねえ」


「お嬢にフミネ様が付いた。それにファイン様とフォルン様も凄い。さて、ライド様はどうなるやら」


「フィンラントが安泰なら、フィヨルトは大丈夫さ? 大丈夫なんだよな?」


「さあ、小官は政治に口を出すつもりはありませんので」


 第1騎士団の団長と副団長は、何だかよく分からない仲の良さで結ばれていた。ちなみに両者独身で、団長のクーントルトは15歳程、副長より上なわけだが。



「いやあ、凄いね」


「そう言えるアレッタが怖いよ」


「なんで?」


「いや、そう言いながら、狼、殴り倒しているじゃないか」


「コボルだってそうでしょう」


「どうにもアレッタに負けるのは気に食わないんでね」


「ふーん」



 といった感じで各所で激闘が繰り広げられていた。



 ◇◇◇



 肝心のフォルテとフミネは『白金』と対峙していた。


「いや、舐めてた。これはヤバい」


「ここで負けたら大恥ですわ!」


「いやその、勝ち負けどうこうより、逃げられなくない!?」


 彼女たちは結構、窮地に陥っていた。


「他の大型は、皆がやってくれますわ。集中しますわよ」


「了解! だけど、これはさすがに」


「悪役令嬢は!? 悪役聖女は!?」


「……負けない、高飛車で、高慢で、力強くて」


「真っすぐに!! フミネが言った言葉ですわ! 反故にはさせませんわ!!」


「……やるよっ!!」


「そうこなくては、ですわっ!」



 相手は実に、体長20メートル。甲殻を白金に輝かせ、その身に風を纏い襲い掛かって来た。


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