第36話 フミネの歌はギリギリヤバい
「どわははは」
「いやあ、大物は美味い!」
そこかしこで笑い声が上がっていた。貴族全員と見届け人たちは、いつも間にかごちゃまぜになって酒をかっくらっていた。これぞフィヨルト風。
「ファイン、フォルン。わたくしの狩った『赤熊』で、あなたたちの甲殻騎を造ってあげますわ。もちろんフミネの許可もとってありますわ」
「いいの!?」
「ほんとですの!」
「もちろんですわ。フォルンが右で、ファインが左に適性がありそうですわね。15になるまで特訓して、学院の連中を驚かせてあげるのですわ」
大公家の姉弟たちは、穏やかに物騒な会話をしていた。『赤熊』の甲殻はオゥラくんに回さず、双子に使うようだ。さすがは武家である。
「いや、フミネ殿、お見事でした」
「あ、いえいえ」
新たなフィンラントになったフミネは、完全に取り囲まれて、自己紹介包囲攻撃を食らっていた。覚えきれるわけもない。すなわち飽和攻撃でもあった。
「聞けば22とか。どうですかなウチには20になる息子がおりましてな、第2騎士団で……」
そして縁談攻撃である。フミネから見ると、相手の目にソゥドが籠っているような恐怖すら感じる。
「あの、えっと。当面はフォルテと共に力を付けたいので、そういうお話は、暫くは」
回避、回避だ。そもそもかーちゃんが帰って来たわけで、フミネとて元の世界に戻れるはずだ。多分。
「いやいや、縁談よりも、先ほどのフサフキについてでしょう」
他の者が話を逸らしてくれそうなので、フミネはそれに縋りつく。
「ど、どんなことでしょう。何でもお答えしますよ!」
「我々の鍛錬が足りていない、とも思えることを仰っていましたが」
「あ、ああ、それについてはごめんなさい。言い方が悪かったと思っています。真意はですね」
この世界のフサフキは、ソゥドとの融合が主眼となっており、それなりの向上を得ていたのは事実である。だが、技術そのものを磨くということには無頓着であったことは否めない。
と、そんな感じの事を述べてみせたわけだ。
だがそうして、200年の間に研鑽されたフサフキ。それは決して間違ってはいなかった。すなわちフミネは言い過ぎである。あるのだが聖女補正もあって、皆の心につき刺さった。実際にフォルテが目の前で見せた技にも説得力がありすぎた。
「とにかく、その場のノリで言い過ぎました。ごめんなさい」
「いや、いいのですよ。なるほど確かに、技そのものの研鑽ですな」
「確かに、我々はフミカ・フサフキ様の原型を最上としてきました。それが究極であると信じ切ってしまっていたのかもしれません」
「なるほど」
フミネを置き去りに、勝手に技術革命に目覚めていく人々。フミネはワインをチビチビとやりながら、それを眺めていた。
◇◇◇
そして宴会、あいや祝宴は終盤を迎える。
フィヨルトの国家が鳴り響く。派閥など関係なく、それぞれが各々の思いを込めて歌詞を口ずさむ。いや、歌い上げる。フミネもまた、その波に押しのまれ、うろ覚えの歌詞をなぞっていた。
「うむっ、さあそれでは最後に新たな我が娘に、異界の歌を披露してもらいたいと思うのだが、どうだろう?」
うおおおおお!!
「無茶振り!?」
こんなのは式手順に存在していない。文句なしのサプライズだ。フミネだけに対しての。
「いやなに、先代聖女様も戦いの折、意気軒高のための歌を奏でたと伝えられているのだよ。どうだろう」
「いや、どうだろうと言われましても」
大公の言葉にフミネは呪う。何てことしてくれているのだ、かーちゃんと。
「分かりましたよ。分かりました。やりますよ。勢いのあるやつ歌おうじゃないですか!」
意を決して、フミネが息を吸う。そしてソゥドを載せる。声だって、意志の力で高められる。
◇◇◇
そうして歌い始めたのは、彼女が大好きな、とあるアニソンであった。
「ん~ぱ~ら~! ぱ~ら~! ん~ぱ~ら~れ~どりら~!!」
きっちりとイントロからだ。気合入りまくりである。観衆が唖然とする。
「ぱ~ら~! ぱ~らし~どれ~~!!」
長い。
「ん~~ぱぁっ! じゃん! あ~ああ~あ~あ~」
そしてフミネ渾身の絶唱が始まる。
「熱い~~……」
著作権上ここまでであった。しかし、その歌は熱く、歌詞は国を思い戦う戦士たちを鼓舞するものであり、リズムはこの世界では聞いたこともないものであったが、しかし心に響いた。フミネのアドリブでちょこちょこ歌詞も変えてある。「星に」を「国に」ってな感じで。
なんにしても、この歌はフィヨルトの戦士たちに、ざっくり刺さった。フミネ渾身のファインプレーであった。
某、ロボットアニメのOPではあったものの、甲殻騎のあるこの世界にはピッタリだったのかもしれない。
「そ~ら~に~……!!」
歌い終わったフミネは、汗を拭うこともなく顔を皆に向ける。
うおおおおおおおお!!
大喝采であった。しかも一発で耳コピした、妙に有能な連中が再びイントロを演奏し始めた。結果、もう一回、さらにもう一回。いつのまにか、その場にいた全員が、歌詞を、メロディーを習得してしまっていた。
以後、この歌は悪役聖女の主題歌としてフィンラントで歌い継がれていくことになる。
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