第29話 わたしは、ファノト・フィンラントになる
「まいった。良くも生きていられたというのが正直な感想だよ」
「認めていただけましたか」
「認めるもなにも、私が君に2回負けたのは、紛れもない事実だからね」
「フミネ、フミネ! さっきの技はなんですの!?」
フミネと大公が互いの健闘を称えあいそうな空気を切り裂き、フォルテが突っ込んできた。
「ああ、音形のこと?」
「そうですわ! 『オトカタ』ですわ!!」
「やったことは単純だよ。全力で腕を旋回させて、相手の打撃を弾いたの」
「弾く?」
「うん。だけど腕をどんなに捻っても1回転がいいとこでしょ。だからタイミング、機会が重要なの。あと、弾くだけの力もね」
「機会と力……。わたくしにもできますの?」
「そりゃ、フォルテならわたしより凄いのが出来そうだけど」
「やりますわ、習得しますわ!」
「それはいいけど、音形からフォル・ザンコーを繋いだら、本気で相手が潰れるから、それだけは注意してね」
「もちろんですわ!」
フォルテなら、無音で相手を浮かせて、無音で、いや、グシャって音だけを残して、相手を叩き潰しそうな気がするフミネであった。
◇◇◇
「ああ、盛り上がっているところを悪いかな」
「どうして閣下がいらして、模擬戦をやることになったか、ってことですか」
「察しが良くて助かる。実はフミネ殿、君の情報がそろそろ漏れ始めている」
「渓谷への行きかえりは気を付けていましたわ。それでも」
フォルテも会話に参加してきた。
「うん。『渦巻き団』と『天秤団』の可能性は無いと確信している。可能性があるのは、兵士の一部、中央派、中央からの草、あとは例の中隊くらいだね」
「当たり前だよ」
「当然ですわ!」
ファインとフォルテも自分の団には自信を持っている。当然だと胸を張った。
「でも『渦巻き団』のライド派が、考えたくもありませんわ」
「それも大丈夫だよ。フォルテを売るようなことをするわけがない。絶対に大丈夫だ」
「お父様……」
「では、養子会議ということですね」
お妃、メリアが察した。
「養子会議?」
「その前にちょっと整理しておこう」
大公が語り始める。
現在のフミネの存在をまとめると、黒髪黒目、ニホンから来たと言い、フサフキを名乗る。しかも先代聖女の面影を持つ女性だ。ちなみに美化された方の肖像画に近い。フミネの体形はスレンダー側なのだ、そういうことで普通に聖女だと思われるだろう。
「では、それが中央に漏れたとしたらどうなるだろう?」
「えっと」
フミカの身分は現在の所、フィンラント家の客分であるが、あくまで平民である。これで仮に士爵や男爵令嬢であれば、それでも中央はやるだろう。なにをって、身柄確保だ。
なにせ先々代はフォートラント中興、言わば連邦へ連なる歴史の教科書があれば、絶対に登場する人物だ。
そして、先代聖女は癒しの力を持ち、フィヨルト歴史上最大の甲殻獣氾濫を打ち破った立役者だ。しかもニホンの知識を活かし、原初の甲殻騎フィ・ヨルティアの原案まで提案してみせた。
「そう。聖女というのは、なんというかこう、凄い人物なんだよ」
「うえぇ」
紗香さんとかーちゃんは何をやってくれてるんだ。というのがフミネの素直な感情である。
「つまりはだ、以前確認したように君がフォルテと共にあるためには、今の段階ではフィンラントの養子、つまり、フミネ・フサフキ・ファノト・フィンラントになってもらう必要がある」
「ファノト・フィンラント……」
「相続権を持たないフィンラントということだね」
「わたくしはフミネと姉妹になれるなら、とても嬉しいですわ!!」
「ぼくも!」
「わたくしもですわ!!」
「そうですね、娘が増えるのは楽しくなりそうです。それがフミネさんなら尚更」
フィンラント家一同が賛同してくれる。
「もちろん打算もある。フミネ殿がフォルテの翼になれる事、新たなフサフキの可能性、ニホンの知識、どれもだ。だが君が……」
「いいですよ。なります」
「いいのかい?」
「その打算は全部、わたしの希望と同じです。それにフォルテの事情は聞きました。中央やら王太子やら、弟さんは救いたいですけど、あっちの都合になんて絶対乗ってやりませんから」
「そうか、ありがとう」
「それで養子会議っていうわけですね。さっきの模擬戦といい、なんか条件があるわけですね」
「本当に聡いね」
大公が笑った。
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