第26話 揺れる辺境大公国




 そうして、『金の渦巻き団』は、一人ひとりと去っていった。


 残された二人と一騎。如何にもといった感じで谷風が吹き抜けていく。


「もどりましょう。そしてもっと、もっと」


「うん。強くなろう。誰にも手出しできないくらい強くなろう」



 ◇◇◇



 フミネとフォルテの日課は続いた。午前中は奥の訓練場での修練。そして、午後からはオゥラくんを駆っての甲殻騎訓練だ。


 現在、フィヨルトの貴族層と呼ばれる者たちの意見は割れている。辺境派と中央派、言い換えればフォルテ派とライド派だ。前者は元々フォルテが中央に嫁ぐ事を面白く思っていなかった武闘派であり、ここには『金の渦巻き団』の大多数と『金の天秤団』が含まれる。実は多数派だったりする。


 逆に中央派は、フィヨルトと中央フォートラントの結びつきを強くし、次大公をライドとして血統、流通両面を強化するという派閥だ。裏に多数の辺境派を押しのけ自らが台頭したいという思いはあるものの、連邦の一辺境国としてはひどく真っ当な考え方でもある。


 要は、フィヨルトも一枚板ではない、ということだ。


 だが、フォルテの婚約破棄により、中央派は苦境に立たされている。よりにもよって、王太子側の我儘が原因であることも伝わってしまっている。はっきり言って、いかな中央派と言えどもフォルテに悪意を持っているわけではないのだ。フォルテが将来、連邦のナンバー2になることを望んでいた。ランドが絡んでいたというのもマズい。すでに中央派から辺境派へ乗り換えようとしている者すら出始めている。


 これでもし、フォルテが何らかの形で左翼を得てしまえば、一気に趨勢が傾きかねない。



 だが、そのような中央派の悩みと、また同じ苦さを味わっている者がいた。他ならぬ大公だ。


「そうか、順調なのか」


「はい。お嬢様がフミネ様と組めば、かなりの水準で甲殻騎を操縦出来ることははっきりしました。努力家のお嬢様のこと、今後はおそらく」


「フミネ殿はどうなのだ?」


「お嬢様に負けぬほどの情熱を見せています」


「口だけではないということだね」


「お嬢様の翼だけに留まりません。未知のフサフキの技を伝授してくださり、現行の技の修正点まで示してくださいました。私も年甲斐もなく心が揺さぶられております」


「フィヨルトに在る者であれば、そうなるのも仕方ないな」


「決して手放してはいけないかと存じます」


「強制は好きではないよ。だが、フォルテだな」


「ええ。フミネ様とお嬢様の相性は甲殻騎だけのものとは思えません。人としての相性と感じます」


 大公は苦い顔となり、セバースティアンに命じた。


「となると、その先まで考えなくてはならないね。メリアを呼んでくれ」


「かしこまりました」



 ◇◇◇



「お待たせいたしました」


「すまんな」


「いいえ。将来の話と聞かせられては」


 セバースティアンを伴い、お妃、メリアが入室した。


「で、メリアはどう思う?」


「多数決を執ればフォルテでしょうね」


「それはそうだろうね。個人的には?」


「今のライド次第ではありますが、ライドが大公、フォルテが元帥、そうなれば最上だとは考えます」


「なるほど、治世か。だがフォルテを女大公とし、ライドを宰相とする手もある。とかくフォルテは人気があるからね」


「それをライドが納得してくれれば、ですね。ヘタをすると国が割れる、いえ、欠けますね」


「フォルテの人気は人柄と強さの両立だ。ここは強さこそ正しさという気風がある国だからね」


 大公国の悩みは続く。



 ◇◇◇



 そして、フミネがこの世界に出現し、2週間が過ぎた。



「まだライドからの返事はこない、か」


「王太子殿下に取り込まれているのか、それとも別の要因があるかは調査中です」


 セバースティアンが調査といえば、それは信用するしかない。


「それと」


「なんだ?」


「フミカ様の存在が漏れ始めています」


「仕方あるまいね。逆によく2週間も持ったほうだよ」


「申し訳ございません」


「それより、フォルテとフミカ殿の仕上がりはどうだ?」


「甲殻騎に関しては万全です。恐らく上位10番以内には入ります」


「それほどか!」


 大公が立ち上がりかける。それほどフォルテの適性は低かったのだ。それがフミネという左翼を得て2週間で。


「フミネ様個人としてですが、さすがは元祖フサフキですね。技術に関しては申し分ありません。ですが」


「ソゥドか」


「はい、ソゥドに関しても技術的な部分では素晴らしい成長です。ですが、総量については」


「わかった。明日手合わせしてみよう。フィンラントに迎え入れるかどうかについては、その後考える」


「養子会議など、何年ぶりでしょうね」



 フミネとフォルテがいない所で、話が進みつつあった。


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