第11話 トレーニング / 自己免疫

 2005年前後 毎年 1月末から2月の後半にかけて 北西の風が吹くようになると 私は 同じような風邪に悩まされていました。


 風邪の症状は 朝起きた時に 喉の奥の乾いた感じから始まりました。


 私は 洗面所へ行って水でうがいをしましたが 喉の乾いた感じは治まらず 喉に痛みを感じるようになりました。


 喉の痛みが強くなると 今度は 市販のうがい薬でうがいをしましたが 翌日には 痛みは 喉の奥の方へ進行し 咳が出るようになりました。


 このまま放置すると風邪の症状が更に酷くなると思い 近くの内科医に見てもらうことにしました。


 病院の診察室で 症状を説明すると 医師は 額帯鏡を目に当てながら「口の中を見ましょう。」と言いました。


 大きく口を開けると 医師は舌圧子で舌を押し下げたので 私は そうなるだろうと予感していたように「おえっ!」と声をだしました。


 舌圧子を離すと医師は「喉が腫れていますね。」と言い「風邪ですね。抗生剤を2週間分出しておきます。」と言いました。



 2週間後に 再び内科医を訪れた私は 医師に「先生 どうも薬が効いていないようです。」と言って 喉の痛みが続いている状況を伝えました。


 医師は「そうですか。」と言って少し考えると「では 別の抗生剤を処方しましょう。2週間分を出しておきます。」と言いました。



 2週間後に 私の喉の痛みの症状は回復しましたが 薬を飲み続けたせいか 胃腸の調子が悪くなり 食欲がなくなり 体がだるく感じるようになりました。


 それから1週間程すると 別のタイプの風邪に感染したのか 38度の熱を出しました。


 同じ内科医へ行って 診察を受けると 医師は別の薬と供に胃薬を処方しました。


 それから1週間程すると 発熱の症状は治まりましたが 体が酷くだるい状態が続いていました。


 結局 私の体調が回復したのは 病院に通い始めたから 2ヵ月後でした。


 その間に 習慣にしていた運動を控えていたので その後も1ヶ月間程 体が重たく感じ 気力と体力の低下した状態が続きました。



 翌年も 私は 喉の痛みから始まる風邪に感染し 内科医に通いましたが 前年と同じパターンで数ヶ月間苦しみました。



 3年目に 同じ喉の痛みの症状が出て いつもの内科医を訪れた時に 私は 過去2年間の状況を話して「先生 今年は いつもと違う抗生剤をお願いします。」と言いました。 


 すると医師は「今年の風邪には いつもの抗生剤が効くようですから まずは それで様子を見ましょう。」と言いました。


 私は 医師の言葉に従いましたが 結局 同じ事が3年間続くことになりました。



 私は 風邪に掛かった時の 自身の体の変化について考えてみました。


 病院で最初に処方された抗生剤は 私の喉の痛みの原因となっていた第一の原因菌に効果が無く 次に処方された抗生剤は 効果があったものと思いました。


 これらの抗生剤の投与は 私の体の中で暮らす 多くの雑菌を死滅させてしまったようでした。


 その結果 私の体内で 保たれていた雑菌のパワーバランスと免疫システムが壊れてしまい 普段なら耐性のあった第二の原因菌の侵入を許してしまったものと考えられました。


 更に 第二の原因菌に対応するための投薬を続けたので 私に活力を与えていいたその他の雑菌をも死滅させてしまったようでした。


 

 「強靭で柔軟な心身体作り」を目指す私は 毎年かかる風邪に対して できるだけ自力で治す取り組みを始めることにしました。



 取り組みの1つ目は 風邪を予防することでした。


 私は 冬になると 外出時にはマスクを着用し 頻繁に手洗いとうがいを実行することにしました。



 取り組みの2つ目は 風邪を発症した時に 薬に頼らずに 自力で回復させることでした。


 私は いつもの喉の痛みの症状が出た場合に 自分ではどうしようもない時を除いて 自宅で安静にして 自身の免疫力で治すことを優先するようにしました。 



 取り組みの3つ目は 風邪を発症した時に その状況を記録することでした。


 発症した時期や症状や体調や回復にかかった日数等を できるだけ細かく記録することにしました。


 私は これまでに B5サイズの30枚綴りのノートに スポーツジムでのエクササイズや朝の鉄棒等の実施記録をトレーニング日記に付けていました。


 私は トレーニング日記の日付の欄の上の余白に 風邪や腰痛や膝痛の症状や 通院記録や 会社の行事や催し物の記録を書き込むようにしました。



 このような取り組みを始めて 最初の2月に 私は いつもの風邪に掛かりました。


 私は 今回 病院へは行かずに 安静にして 回復を待つ事にしました。


 私は ノートに 喉の痛みの状況を記録しながら ここ1週間の出来事を振り返りました。


 ノートには 先週の水曜日と金曜日に 会社の関係者の歓送迎会への参加が記録されていました。


 私は 歓送迎会への参加により 生活のリズムが不規則になり 冬の寒さに体温が低下し 免疫力が低下していた時に 風邪に罹患したものだと推測しました。



 この日 私は 自身の免疫力を落とさないように心がけ 体を冷やさないよう気をつけて 体を温める食事を取って 早く休むようにしました。


 布団に横になると ヨーガで取得した 深くゆっくりした呼吸を繰り返し 全身に酸素を送り込みながら体の中の全ての免疫システムに「がんばって 原因菌と戦ってくれ。」とエールを送りました。


 発症して5日目の朝に 私は 喉の痛みが 昨日の夜に比べて 弱くなっていることに気付くと 今回の喉風邪は峠をこしたと感じました。


 発症して10日目の朝に 喉の痛みはなくなり 私は 体調が発症前に戻ったと感じました。


 体の免疫システムは 原因菌に打ち勝ち その勝利は これまでの抗生剤を多用した時に比べて 体のダメージが少ないものになりました。


 私は 自身の免疫システムに感謝し「皆 よくがんばってくれた。ありがとう これからは体調管理に気をつけるよ。でも また何かあったら宜しく頼みます。」と声を掛けました。


 すると 自身の免疫システムは「リーダー! 自分たちに任せてもらった方が良いですよ。現場のことを知らない薬に頼ると 後始末が大変ですから。」と言ったようでした。



 ノートに記録を取り始めて 2年目の2月に 私は いつもの風邪に掛かりましたが 前回と同じやり方で 自力で治癒することを選択しました。


 発症して3日目の朝に 喉の痛みが緩和し 7日目に 完治しました。

私の全身の免疫機能は 前回の原因菌の攻撃を記憶していたようでした。



 ノートに記録を取り始めて 4年目の2月に 私は これまでと異なる風邪に掛かりました。


 ある土曜日の朝に 起き上がろうとした私は 頭痛を感じて そのまま横になって様子を見ていましたが 昼前になり 熱を測ると 38度5分ありました。


 私は 以前から発熱には弱く 頭がぼんやりとして集中力をなくしましたが 今回も薬に頼らずに 自力で対応して 自身の免疫力の更なる向上を図ることにしました。


 この日 私は 1日中自宅にいて 体を温かくして スポーツドリンク等で水分やミネラルを補給して 安静にして過ごしました。



 翌日の曜日の朝 私の状況は 変わらず 熱もありましたが 昨日より悪くなってはいませんでした。


 翌月曜日に 仕事で大阪への出張予定が入っていたので 私は なんとかして今日中に熱を下げたいと思いました。


 私は 自身の体と免疫システムに「今回は ちょっと荒療治したいと考えているんだ。それには 君たちの戦力が必要なんだ。協力をお願いします。」と言いました。


 そう言うと 私は 布団の横に 下着の着替えを5セット準備し 風呂にお湯を張り 45度の温度に調整しました。

 

 次に 私は台所へ行くと 鍋に火を掛けて 熱いうどんをつくり お盆に丼と七味唐辛子とスポーツドリンクを乗せて 直ぐに食べられるように準備しました。


 準備が整うと 私は 風呂場に向かいました。


 私は 服を脱ぎ 体と免疫システムに「これから荒療治を始めます。強靭で柔軟な体作りのために ぜひ 皆には協力して耐えてもらいたい。宜しく頼みます。」と言って浴室に入りました。


 左足先を浴槽に入れると しびれるような痛みを感じた爪先は「あつー! リーダー! 何をなさる。」と言って身を引いたので 全身に緊張が走りました。


 私は 爪先に「頼む。ここががんばりどころです。 先陣を切ってください。」と説得すると ヨーガの呼吸法で 全身の緊張を緩和させて 爪先の回答を待ちました。


 爪先は「そうですか。リーダーがそこまで言うのなら ひとつやってみましょうか。」と同意しました。


 爪先が納得したのを確認した私は 静かに爪先を浴槽の中に沈めていきました。


 お湯の表面を通過する部分に 刺すような痛みを感じましたが そこを過ぎると 痛みの程度はやや弱まっていくのが分りました。


 首までお湯に浸かると 首の部分は熱を感じる痛点が少ないようで 熱さに耐える事が出来ました。


 お湯に浸かって 静止している状態では お湯と皮膚の表面との間に 何らかの緩衝領域ができるのか 以外に 熱さに耐えることができました。


 お湯に浸かった状態で 私は 500まで数えると 顔面には 大粒の汗の玉ができました。



 その後 風呂から出ようとして体を動かすと 途端に 全身に刺すような痛みが走りました。


 私は ゆっくりゆっくりと体を動かして 浴槽から出ようとしましたが まるで お湯の熱が後から追いすがるようについてきて その痛みは 最後に浴槽から出ようとした爪先に集中しました。 


 爪先は 余りの痛さに「おわー!」と悲鳴を上げました。


 私は爪先に「辛い役回りだったけど よくがんばってくれました。ありがとう。」と言って労いました。


 爪先は「リーダー! いいってことよ。現場に最初に入って最後に出るのは いつも自分たち手足の役目ですから。」と言いました。



 風呂から上がると 私は 体にバスタオルを巻いたまま 床に横になり 呼吸に集中し 体の荒熱が取れるのを待ちました。


 いくらか落ち着くと 私は 用意していたスポーツドリンクを飲み 七味唐辛子をたっぷりと掛けて うどんを食べ始めました。


 一口食べると 口周りに痛みがはしり 顔面や首の後ろから 汗が流れ落ちました。


 食べ終わると 全身の汗を拭き 下着を身に着けると 布団に入りました。


 布団に入ると 私は 体中が 熱をもっているのを感じました。


 体が火照るのに任せて 私は 深い呼吸を繰り返しながら 頭の上から足の先までのそれぞれの部位に声を掛けて それらの状態を確認しました。


 汗をかくと 私は スポーツドリンクを飲み 下着を着替えて 体を温かい状態に保ち 免疫システムに応援のエールを送り続け また汗をかくと 同じ動きを繰り返しました。


 その内に体の温度が安定すると  私は眠りに落ちていきました。



 翌日の朝6時頃に 意識が戻った私は 頭がすっきりしているのが分り 熱も下がっていました。


 私は いつもの様に 朝食を取り 予定通りに 大阪出張のために 福岡空港へ向かいました。

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