第3話 病院 / 整体

  2000年9月頃に 私は 交通事故の後遺症の腰痛と膝痛に悩まされていました。


 症状が酷い時は その痛みで身動きがままならなくなり まるで見えない有刺鉄線が足腰に巻かれているようでした。


 幾つかの整形外科医院を訪れ 腰部のMRI撮影画像から 脊柱管狭窄症の診断を受けた私は 手術も覚悟しましたが 思いとどまり 別の方法を考えることにしました。



 ある日の午前9時頃に 私は 自宅から自転車で3分程のところにある整骨院を訪れました。

  

 5階建てビルの1階にある整骨院に着くと 近くに自転車を停めて 引き戸の入りを開けて入ると受付窓口から「診察お願いします。」と言いました。 


 窓口の向こう側にいた 40歳代、中肉中背の先生は「どこが悪いんですか?」と聞きました。


 私は「交通事故の後遺症で腰痛と膝痛があります。」と言うと 先生は「中へどうぞ。」と言いました。


 幅5メートル奥行き8メートル程の診療室には 4名の高齢の先客がいて 彼等は それぞれの診療装置に掛かっていました。


 先生は 私を診療台に仰向けに横にすると 足首を動かしたり 膝を曲げたり 足を上げ下げして痛みの有無を確認しました。


 私の状態を確認すると先生は「まず体を解しますので こちらへどうぞ。」と言って 近くのローラーベッドに案内しました。


 体を解す機械は 幾つかの回転するローラーが上下するローラーベッドと 体を左右に揺らす振動台と 腰を牽引する装置があり 私は 順番にそれらの機械に体を任せました。


 20分間くらい体を解すと 次に 別の診療台にうつ伏せになり 電極パッドを腰と膝に当てて通電する電気治療を受けました。


 最後に 別の診療台に うつ伏せになると 先生は 整体治療を始めました。   


 整体治療は 5分間程の時間で行われ トータルで40分間程の診療が行われました。


 治療が終わると 私は 診療室を出て 受付窓口で治療費を支払い 湿布薬を受け取りました。


 その後 私は 2ヶ月間 整骨院に通いました。


 待ち時間もなく 気軽に受診できる整骨院は  腰痛や膝痛の急場を凌ぐためには良いものでしたが 腰痛や膝痛に抜本的な対策にはならないと思い 別の診療法を試すことにしました。



 ある日の午前9時頃に 私は 自宅から徒歩5分程のところにある鍼治療院を訪れました。


 2階建ての建物の2階に構えた診療所に入ると 幅5メートル奥行き3メートル程の広さの待合室のソファーに10名程の客がいて 治療の順番待ちをしていました。


 私は 受付窓口に保険証を提出して「治療をお願いします。」と言うと受付の女性は 問診票を渡して「後ほどお呼びしますので そちらの席でお待ちください。」と言いました。


 問診漂に 腰痛と膝痛の状況を記入して受付に提出すると 10分間程して 治療室の戸が開き 中から出てきた看護婦さんに名前を呼ばれました。

 

 診察室へ入ると  机についてバインダーに閉じられた資料を見ていた先生はこちらを振り向きました。


 60歳頃、中肉中背、眼鏡を掛けた台湾出身の先生は 外国訛りのある声で「今日は どうしましたか?」と聞きました。


 私は 腰痛と膝痛の症状を説明すると 先生は「レントゲンを撮りましょう。」と言いました。


 別室で レントゲン撮影が行われ その後 暫くすると 先生の診察がありました。


 先生はレントゲン写真を蛍光灯に照らして腰椎の椎間が狭くなっているところを指差しました。


 その後 私を診察台にうつ伏せにして 腰周りと膝周りを触診すると 机に戻り 太い注射器を取り出して 薬液を吸入し始めました。


 先生の言葉遣いと太い注射器に不安を感じた私は「先生 それは何の薬ですか?」と聞きました。


 先生は「これは炎症を押さえる注射ね。」と言うと 私の腰の周りに打ち始めました。


 元々痛むところに注射を打たれ 酷い痛みを感じた私は「あいたた!先生 すごく痛みます。」と訴えました。


 すると先生は「目が覚めるねー。」と言いながら更に5箇所注射しました。


 その後 別室で電気治療と整体治療が行われ 最後に 鍼治療が行われました。


 鍼治療は 診療台にうつ伏せになって 消毒した後に 背中から足首までの10箇所程に鍼が打たれ 10分間程その状態を保持した後に鍼が抜かれました。


 鍼治療が終わると 先生は「次にあなたがこれる日を受付に伝えてください。」と言いました。



 鍼治療院を出た私は 歩きながら足腰にいつもと違う感触を感じました。


 いつもは500メートル程歩くと 腰回りに圧迫感と痛みを感じて 歩けなくなる間欠破行の症状がでていましたが この時は もっと歩けるように思えました。


 私は 嬉しくなって そのまま 川沿いの道に出て 1時間程の間に 5キロメートル程歩きましたが 間欠破行の症状が出ることはありませんでした。


 私は 普通に歩けることに これまでにない喜びを感じて 通りにある店舗のショーウィンドウに映る自身の歩く姿と 笑顔を見ながら 腰の手術を選択しなくて良かったと思いました。



 鍼治療の翌日の朝 私は いつもより酷い腰痛で目が覚めました。


 昨日の散歩の時に感じた腰痛からの開放感は たったの一晩で 過去のものになっていました。


 最初の鍼治療から1週間後に 私は 2度目の鍼治療を受けましたが 前回の様な劇的な改善を見ることはありませんでした。


 その後の鍼治療でも腰痛の改善は見られず 3ヵ月後に 私は 通院を止めることにしました。



 また 別の日の午前9時頃に 私は 自宅から車で1時間30分程の所にあるリハビリテーション病院を訪れました。


 病院の駐車場に車を止めると 先に到着した大型バスから大勢の高齢の受診客等が降りてきました。


 私は 遠方からの多くの受診客が訪れるのを見ると 期待感が高まりました。


 病院に入り 受付窓口で渡された問診票に症状を記入して提出すると 1時間程して 診察室から出てきた看護婦さんに名前を呼ばれました。 


 案内された診察室へ入ると 50歳中頃、中背、がっちり体型の先生は 私のこれまでの通院履歴を確認すると「うちでは 違う治療をやってみましょう。」と言いました。


 先生は 私を診療台に乗せ 足腰の動きを確認した後 5分間程 背中から腰のあたりを解しました。

 

 その後 先生は「これから施術を行いますが それで終わりですかと思われるでしょう。」と言って 診療台に横になった私の腰周りを軽く触り始めました。


 1分間程 先生の指示に従い体の向きを変えたり足を曲げたりして 先生の施術を受けましたが それは弱い力で行われたので 私は振り向いて「もう 終わったんですか。」と言いました。


 先生は「この治療法は 仙腸関節の位置ずれを治すものですが 効果のある方とそうでない方があります。効果がありそうでしたら2週間後に来てください。そうでなければ 来ていただかなくて結構です。」と言いました。



 病院からの帰り道 車を運転していた私は 腰の辺りから両足のつま先に向かって 何か冷たいものが流れていく感じを受けました。


 家に帰り着いた時に 私は 腰痛が改善されたように感じました。


 2週間後に 再び リハビリテーション病院を訪れた私は 先生に 前回の施術後に感じたことと その日に腰痛が改善したことと その後 徐々に 腰痛が再発してきたことを伝えました。


 先生は「この治療法方は 即効性があります。暫く治療を続けて様子を見ますので また2週間後に来てください。」と言って 前回と同じ施術を行いました。



 その後3ヵ月間 私は通院を続けて 腰痛の変化を見ましたが 症状は改善したり 悪くなったりを繰り返しました。


 病院通いを始めて2年経った頃に 私は それまでに受けたいろいろな治療と 腰痛と膝痛の症状の変化を振り返りました。


 それぞれの治療法に それぞれの効果はあり 腰痛と膝痛の状況が良くなることもありましたが そその状況は長く続くものではなく 症状は 良くなったり悪くなったりを繰り返しました。


 その一方で 入院時にやせ細った右足は変わらず 元に戻る兆しは見えませんでした。


 私は 自身の腰痛や膝痛を抜本的に改善するためには 病院頼みだけでは足りず 何か他の取り組みが必要だと考えるようになりました。


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