『通勤』 15


 『きみ、これが正式文書だ。受付はコンピューター処理済みだ。回答をすぐ出したまえ。』


 所長さんが言います。


 『わかりました。10分くらいお待ちください。』


 すると、ロボット警官さんが言います。


 『5分にしてほしい。』


 『すいませんが、ここの事務の大半は人力です。』


 『あ、そりゃ、失礼。人間は、万事、同時進行は下手ですな。』


 ぼくは、カチンと来ましたが、相手はロボットさんです。


 すべて、データ的に計算された行動です。


 よけい、腹が立ちますが。


 ほんとうは、閲覧カードのコピーなんかしたくないです。


 図書館の利用者にしてみれば、事実を書きたくなくなるかもしれません。


 しかし、そこは、本人の申告をそのまま受け付けるのが、基本です。


 あまりに変なのは、ちょっと困りますが。


 しかし、この、ヴォイニッチ手稿データの閲覧希望者さんは、地球の都市部を離れた、辺境地域の住所ながら、べつに、おかしなものではありません。


 戦争で焼け残った都市部は、かなり復興してはいましたが、幽霊さんが出るとか、ひとくいごきさんが出るとか、まあ、なにかと厄介なことがありまして、辺境地域に移住する方も少なくありません。


 ただし、経済的には、楽ではありません。


 だから、わりに、なにかの都合で資産を持ってる人がいましたし、また、銀河連盟に批判的な反体制派の人もいました。


 近所付き合いしたくない人も、わりに多かったのです。


 そこに、電話が入りました。


 なんと、オールマイティー司書さまです。


 彼女は、いうのです。


 『そこの警官に、データを渡してはなりません。』


 そんなこと、ぼくに言われたって困る。


 『所長に代わりますから。ちょっと待って。』


 『あなたが伝えればよろしい。火星司書特権を行使すると言いなさい。あたくしの指示であると明言してよろしい。』


 『な、なんと? 内部戦争になりますよ。』




    □□□□□□□□□□


 


 

 


 

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