『通勤』 13


 『きみは、仕事に入りたまえ。』


 所長さんは、そっけなく、ぼくに言い渡した。


 『いえ、この方にも、ぜひ同席してもらいたい。』


 ロボット警官が、いくらか強く言ったので、所長さんは、やや恐縮ぎみに答えた。


 『わかりました。では、こちらに、どうぞ。』


 我々は、所長室に入った。


 図書館には、しゃれた応接室はないし、センター全体も同様であり、つまり、所長室が、応接室を兼ねているのだ。


 お陰さまで、かなりの広さはある。


 出先機関の所長は、所長室の大きさで、ほぼ、格付けが決まると言ってよい。


 例えば、フォボス分館の所長室の広さは、本所の10分の1くらいだ。


 ダイモスは、なぜか、所長室と言うほどの部屋はなく、申し訳程度の衝立の向こうに、デスクがあるというくらいだ。


 それでも、所長さんである。


 ぼくは、アルバイトの司書だが、オールマイティー司書さまの、僕(しもべ)に過ぎない。


 彼女の権力は、絶大である。


 早い話し、館長の地位は、オールマイティー司書さまの気に入るかどうかにかかるわけである。


 ぼくは、魔女とよんでいる。


 魔女さまは、ぼくの、奥さまでもある。


 これは、仕事中に、持ち出してはならないことがらであった。


 愛というものは、しばしば、おかしな現状を築き上げるものなのだ。


 

         🌹

    

 

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