『通勤』 11

 クレームを付けてきたのは、同じ文化センターの敷地内にありながら、『火星文化保安協会』なる、謎の組織である。


 地球から流れ流れてきた、各種文化遺産の中でも、曰く付きの物件を扱っている。


 ただし、普通、本物しか扱わない。


 コピーとか、価値のない、模倣品は、通常扱わないのである。


 つまり、『ヴォイニッチ手稿』のコピーは、お呼びではないはずだ。


 ところが、なにを思ったか、協会長自らが、わが所長さんにクレームを言ってきたらしい。


 この協会の正体は、はっきりしないが、どうやら、銀河連盟の資金で運営されているらしいと聞いた。


 つまり、銀河連盟が、地球の遺産のなかでも、正式ルートに乗ってはいない、しかし、興味あるものを、ゲットして、保護したいらしい。


 保護したい、というのは、微妙な概念である。


 むかし、植民地の争奪に明け暮れた列強は、たくさんの文化遺産を自国に持ち帰った。


 たしかに、研究に役立ったとも言えるし、保護した、とも言えなくもない。


 まあ、そうしたあたりだろう。


 したっぱのぼくが、口出しする余地はない。


 協会さんは、その記憶媒体をよこせ、と、おっしゃいますのであった。



        👊

        


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る