第53話

 キャンタマが縮こまる……!

 

 どうもみなさんこんにちはアレンで——ひぃっ! 


 ——ドドドドドドドドドドドドドド!!


 頭上から漆黒の弾丸。

 全力疾走!

 ギリギリのところで躱すアレンさん。

 弾丸の正体は羽根である。空中から激しい雨のように降り注ぐ。


 誰かぁー! 誰か助けて! ママー! 

 シルフィママァァァァァァー!!

 もう嫌だー! だから言ったじゃん!  

【調教】スキルがカンストするような女の子なんか碌なもんじゃねえって!

 天使族のウリエル——愛称、ウリたんはやべえよ! こいつやべえって!!

 

 筆おろしはウリたんにお願いしようと考えた俺がバカだった!


「ぎゃはははははははははははははは!! 壊れちゃえ、みーんな壊れてちゃえ!」


 ウリたん、貴女が壊れておりますよ。

 俺はシルフィさんが展開している結界、【四方聖樹】にヘッドスライディング。急死に一生を得る。

 ひとまず安全が確保されましたので、改めてウリたんを見上げる。

 天使族の彼女は豹変し、堕天使状態になっていた。

 これはあれかな? 惨殺されたあと「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪」と共に【再生】する流れかな? わかる人いる?


 とはいえ、彼女はすでに俺の奴隷になっている。なんとかしなければいけない。

 奴隷紋を解除すれば完全な堕天使になって、さらに手が追えなくなるそうだ。

 九尾さん……! あんさん、なんちゅう爆弾を俺に預けてくれたんや……!


「私を大切に想ってくれる人なんか一人もいないんだ! だからぜーんぶ壊してやる!」

 頬には一筋の涙。どけんかせんといかん。俺は自他共に認める変態ドスケベマンだが、それは仮の姿。

 裏の顔は女の子の涙は絶対消したいマンである。


 女神「女の子に絶対泣かされるマンの間違いでは?」

 うるせえ! いま主人公できるところなんだからチャチャいれてくんじゃねえよ!

 さーて、どうすっべ。

 俺はどうしてこんなことになったのか、思い返しながら、作戦を練り始める。

 

 魔物の大暴走スタンピード? 

 あー、それね。それなら始まって五分で解決したかな?

 どう思うみんな? 押し寄せる魔物の数、ざっとよ? この大群を五分で超スピード解決ってやばない? 

 もちろん俺の功績じゃありません。現在空中で自我を失っているウリたそのお蔭です。

 

 とりあえず回想をどうぞ! 俺も現実逃避したいので!


 ☆


「口元に米粒がついてますよ村長」


 と新たな奴隷——天使族のウリエルが言う。愛称はウリたん、もしくはウリたそ。異論は認めない。

 綿毛のような金髪がふわりと舞う。あっ、いい匂いがしゅる……!


 ウリたんは俺の口についた米粒を摘み、ニコッと笑ってみせたあとパクリ。

「えへへ……美味しいです」

 太陽のような笑みときた。

 可愛い。なんだこの子は。とてもじゃないが【調教】カンスト娘には見えない。小こくて、出るところは出ていて、色白で——種族通り、純白の天使やないか!


 ウリたそは修道院で珍しいロリ系美少女である。

 ノエルさんたちドワーフはロリというよりは無機質系美少女? 漢字で表すなら『氷』に近い感じ。

 ちょっと無愛想なところも彼女たちの魅力である。もちろん大好物です。


 一方、ウリたそはロリ巨乳。さらに漢字で表すなら『陽』である。

 後ろに着いて離れない後輩系といえば印象が伝わりやすいだろうか。

 前世時代、俺の青春はアオハルではなく、クロフユだった。(これを玄冬げんとうと言います)


 なんとウリエルは大人verのアレンさんにも愛情を持って接してくれる可愛い女の子です。


「村長さんがお爺ちゃんになっても私が看護してあげますね♪」

 そのときはシモのお世話もお願いします。 

 遅れてやってきた青春とでも言えばいいでしょうか。楽しいです。

 やあ、こんなところにいたんだね。探したよ。僕はアレン。よろしくアオハル!

 

「天使族は仕える主人に愛着を抱く種族なのよ〜」

 とネク。

 

 彼女の話によればウリエルはとある事情で天使界から追放。

 縁あって【色欲】の魔王軍幹部、ネクに引き取られるようになったそうだ。

 数年おきに森を荒らされる魔物の大暴走を鎮めるため、ウリたんのカンスト【調教】スキルは重宝するだろうという判断。


 ただし——、

「私を拾ってくださった村長さんのために、私いっぱいいっぱい頑張りますね。ご奉仕も任せてください!」

 むにゅん。

 横乳が腕に絡みつきように歪んでおります。

 うっぴょ。最高。しかも可愛い。マイスイートエンジェル確定である。

 

 諸君。女に甘い性格と先送りは場合によっては死に至ることを忘れるな。

 ロリ巨乳。それも美少女。慕ってくれる女の子と傍にいられる代償なんて安い安い、と思っていた時期がありました。


 結論から言いますと、ウリたんが天使界から追放された理由はある日突然備わった固有スキル【凶悪化バーサクモード】モデル【堕天使】が原因だそうな。


 堕天使とは書いた字のごとく、堕ちた天使≒悪魔である。

 天使界と悪魔界がバチバチに火花を飛ばし合っている図は容易に想像できる。

 正直者のウリたんは秘密にしておけず【凶悪化】を打ち明けてしまい、現在に至るそうだ。

 天使界の内情を知るウリたんはすぐに悪魔——【憤怒】の魔王に声をかけられるも、心は天使のままであり、丁重にお断りしたそうだ。天使として生きたいという想いが強いとのこと。


 さらに【凶悪化】も完全に暴走してしまうというわけではなく、主人の熱い抱擁により解除されるとのことである。

 本来はネクが主人となる予定だったが、【再生】持ちの俺の方が相性が良いだろうという論理だ。


 えっ、暴走する度に抱き着いていいんですかー⁉︎ とは九尾やネクからウリたんを引き取るときの心情である。


 さすがに下心見え見えかなー、と周囲を窺いますと「さすがアレン。さすアレ」のような雰囲気です。

 えっ、なんで?

 いや、まあその方が都合が良いので追及しませんけど?

 あれかな? 見ようによっては居場所を失った訳ありの少女を躊躇することなく引き取ったからかな? 

 

 おっ、村長。懐大きいじゃん、みたいな感じ? でもウリたんを養うお金はみんなの稼ぎから捻出されるわけで。

 いや、都合が良いから追及はしないけど。


 諸君らはこういう愚痴を聞いたことはないだろうか? 

 男友達から俺の彼女笑えば可愛いんだけどさ……という不満である。


 これには大罪がいくつも孕んでいる。

 こちらは年齢=彼女いない歴の童貞であり、マウントに対するイラァッ! である。

 次に笑わないと可愛くないのか、というイラァッ!! である。

 最後、笑えば可愛いなら、一生笑顔で過ごさせてあげればいいじゃん、という男気である。

 

 どうやら【凶悪化】スイッチのONは手動とのこと。すなわちそこに己の意志が介在する。制御できないのはOFF時である。

 主人に抱擁してもらわないと切れないらしい。

 

 ということは、だ。

 そもそも発動させなければいい。そうすれば可愛いくて、純情で、純白のウリたんを堪能できる。

 IQ85は伊達じゃない。やはり俺は天才だったか。

 どぅふ! エッチ、スケッチ、ワンタッチ!


「作戦を説明するわ〜」


 とネク。


 九桜の諜報によると発生する大群の数はざっと。大切なことなのでもう一度言いますね。押し寄せる大群は

 

 メンツがメンツである。ならば【色欲】の魔王抜きにしても対応可能ということで、九尾は【怠惰】の魔王推薦のため魔王会議の準備に戻るとのこと。

 懐刀であるNo.2の空狐もお供することとなった。


 よって、主力メンバーは【色欲】の魔王軍幹部No.3と4、天狐とネク、さらにラアも参戦してくれるとのことだ。

 アレン陣営はシルフィ、アウラ、ノエル、九桜、凛ちゃん、それから【無限樹形図】を描出されたエルフ、ドワーフ、派遣された鬼。

 

 先頭に天狐とネクが立ち、押し寄せる大群を間引く。漏れた先で控えるのはマイスイートエンジェル、ウリエルである。

 彼女は神短鞭しんたんべんを具現化、ペチペチと魔物をしばき叩くことで【調教】、テイムに近い形で沈静化していくとのことだ。


 ウリエルは天使族の元エリートであり、その実力は【色欲】の魔王軍幹部No.3〜4に匹敵するらしく、三千匹の規模であれば、三名で十分らしい。


 その後ろにエンシェント・エルフやエルダー・ドワーフ(高速錬成並びに土魔法による落とし穴などで応戦)、ハイエルフに幻鬼、黒鬼と過剰戦力とも言える戦力である。


 俺? 俺は最終防衛ラインを任されました。最後尾です。絶対に前に出てくるなとキツく言い含められました。

 違う言い方をするとこれは戦力外通告もしくはベンチ外。スタンドから声援を送ります。


 しかし、初めてと言ってもいい異世界転生の醍醐味——イベントに気分が高揚します。ハイです。闘争です。


 ——二週間後。


「後ろは俺に任せて。だからみんなは好きに暴れておいで。さあ、いこうか」


 女神「どの口が言っとんねんw」


 魔物の大暴走スタンピードの開幕は謎の大量発生により三千→三万となりました。

 諜報の鬼、九桜でさえ直前になって異変を察知するという、きな臭い展開です。


 ポキポキポキ。パキパキパキ(指の関節を鳴らす音)。

 さーて。面白くなってきましたね。やってやろうじゃないですか。


 ……とりあえず撤退命令かな。


 これ帝国滅んじゃうじゃない?

 でもみんなの命には変えられないし……。

 悩んでいる暇もなく、即断が求められる中、ウリたんから【風の知らせ】が送られてきました。

 いえ、俺は魔法が発動できないので、すぐ傍で伝令役としてエリー、ティナ、レイが控えているわけですが。

 

 エリーはウリたんから発信される音声を風に同調させ、再生してきます。

 アレンさんの足元から何か、こーう、よくないものが駆け上がってきます。

 

 ——尻拭いは主人の役目。そんな言葉が脳裏によぎります。


「村長さん! このままじゃ間違いなく帝国にも甚大な被害が出ます! 私……人が傷つくところを見たくないです!」


 悲痛の叫びである。天使族は万物の保護【土】を司る種族。

 さらに彼女は希少種の熾天使。

 俺のようなスケベ野郎にも愛情を持って接してくれるウリエルは人間をこよなく愛している。


 ここで俺が撤退命令下すということは侵攻先の帝国に甚大な被害をもたらすことを意味する。

 つまりウリたんの副音声は『【凶悪化バーサーク】の発動許可を!』である。


 エリー、ティナ、レイたちの視線が俺に全集中。

『アレン(様)!』

【風の知らせ】によりシルフィ、ノエル、アウラ、九桜、凛ちゃんの声が重なる。

 なんとネクと天狐まで俺に判断を委ねる始末。

 後ろは任せて、などと大口を叩いたことが悔やまれる。


 なんでなん? なんで俺の思うような展開にならへんの? 

 この非常事態に【色欲】の魔王不在とかいうお約束はしっかり守られてるのにさ……どないなっとんねん俺の異世界転生は!


『アレン(様)!』


 うるせえ! 考えてるよ! こっちはみんなの命を預かる身分、ご主人様なんだからさ! 少しは考えるに決まってるじゃん!

 いや、その時間が惜しい、一刻も早く決断を下さないといけないんだろうけどさ!


 でもこっちは思ってたのと違う展開なんだからそりゃ狼狽えるよ! 態度には出さないけど! それしたら不安が伝播しちゃうからね!


「——ウリたん。キミのことは必ず俺が元に戻してみせる。だからみんなを——守ってもらえる?」

『! はい! 必ず護り通してみせます! ありがとうございます! 私、村長さんのこと信じてますから! 【凶悪化バーサークモード】モデル【堕天使】!』


 はぁーあ! 

魔物の大暴走スタンピード編』の主人公枠はウリたん、チミかいな。その台詞や役割、本当は俺のやで?


 刹那——、










 





 ——闇が舞い降りる。


 降臨したのは文字通りの堕天使。

 ふわふわの金髪(ミディアム)は銀髪ロングに。雪のような肌は褐色に。

 穢れを知らない真っ白な二本の翼は六本になり、漆黒に染まっていく。


「——止まれ」


 決して荒い言葉を使わないウリたんがなんと命令である。

 なんと心優しい平和を愛する性格まで変わってしまうという。


 筆おろし筆頭候補者から圏外にランクアウトした瞬間である。怖すぎる。スイッチをONした途端、あの豹変ぶりである。



 俺はエリーさんたちに風魔法を発動してもらい、ウリエル(闇)とその周辺を観察。

 なんと彼女の言霊一つで三万もの魔物が突撃を停止させる。

 しかし、命知らずの闘牛型モンスターがウリたん(闇)の命令に背き、突進を再開。

 地上に舞い降りた彼女目掛けて猪突猛進。

 

 ——あの牛、死んだな。


 一歩引いた、どこか冷めた気持ちで動向を見守る俺。ウリたん(闇)は神短鞭しんたんべんをぎゅっと握り、目にも止まらぬ速さでそれを振るう。まるで蝿を始末するかのような仕草である。


 ——バッチン!!!!!!!!!!!


 闘牛は破裂した。一瞬で破裂した。血の海と肉塊が広がっていく。

 その光景に俺ドン引き。突撃を控えていた闘牛を始め、多岐に渡る種族の魔物たち涙目。

 このあと彼女に抱擁しなければいけない俺も涙目。失禁しそう。


「止まれって言ってんだろうがぁぁぁぁ!」


 ブチ切れのウリたん(闇)。

 豹変しすぎではないだろうか。ほら、魔物たち萎縮してんじゃん。圧倒的な支配圧に気圧されてんじゃん。

 彼らに同情するレベルである。


 殺戮という一方的な【調教】が始まった。

 三万もの魔物の大暴落スタンピードはたったの五分で片付くことになる。


 ——のだが。


「アレン。迎えに来たわ。早く彼女を元に戻さないと。


 と風に同化したシルフィさんがどこからともなく現れる。


 戻って来れなくなるのはウリエル(陽)かそれともアレンさんか。

 諸君らはどっちだと思う?

 あの惨殺現場に行かないといけないの……? ……こっわ!

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