第46話

【アレン】

 

 どうも眠りのアレンです。

 おねんねしている間に難事件が解決に導かれておりました。

 麻酔銃で強制退場させられているおっちゃんの気持ちが痛いほど理解できます。

 あれ、犯罪やからなメガネ。

 本人の意思を無視して麻酔銃を首筋に打ち続けるとか、どんな神経しとんや。


 ですが、奴隷のみなさんからの評価は悪くありません。

 ペニシリンを発見・生産したのは間違いなくシオンではあるのだが、「本当にすごいのはアレンさ」とナイスアシスト。

 よくよく考えたら睡眠の反動リバウンドは不可避のため、あそこで仮眠してしまった俺の方に落ち度があるような気がする。


 むしろ俺の方がよほど裏切り者だろう。自己嫌悪。涙目。


 シオンの研究者を体現した言動により『村長もやるときはやるかもしれない』という熱気が生まれました。

 バブルです。バブルですよ、みなさん。


 女神「いつか弾ける哀れな泡ですね」

 うるせえんだよ! ファック!


 大人アレン——白衣メガネの不評が嘘のようです。

 そうそう。

 第一次『遊郭編』が完了しましたので、白衣とメガネを没収されました。

 シルフィさん曰く「狂わせるから」とのことです。


 何を? 何を狂わせるの?

 見ただけで頭痛と吐き気がするぐらい体調が狂うということでしょうか? 

 信じたくありませんが、そうだとしか考えられません。


 オブラートに包むことなくストレートに言ってのける精神力。畏怖です。畏怖でございます。

 ストップ安である俺の評価株。

 紙切れ当然のそれを伝説のトレーダーシルフィさまの圧倒的手腕により評価株が上昇しております。


 神算鬼謀はシルフィと呼んでください。

 表記はこうなります。

 

 神算鬼謀シルフィ


 どういうことか説明しますと、彼女は【色欲】の魔王を欺くことを選びました。

 怖すぎる。

 なぜ俺がそういう結論に至ったか、論理を補足しますね。

 彼女たちのご主人様、アレンは眠りの迷探偵。無能かつポンコツである。

 

 初回は誘拐事件による約束ブッチ。

 今回は寝坊。


 示しがつきません。しかし、馬鹿正直にそれを伝えるわけにはいきません。なにせ彼女たちは一応、俺の奴隷である。

 主人の罰則は奴隷も連帯責任となります。

 まさか奴隷で居続けるデメリットをこのような形で被るとは夢にも思っていなかったでしょう。


 そこで神算鬼謀さんは考えます。


 舐めプ野郎一人が処刑されるのは良いが、そのとばっちりを喰らうのは御免だと。

 食っちゃ寝リバーシとネグリジェ日替わり同衾しか能のない男と道連れは死んでも嫌だと。

 

 気持ちは、まあ、分からなくもありません。むしろ同情を覚えます。

 そこでシルフィは逆転の発想をします。

 

 今回はアレンをデキるリーダーにしてしまおう、と。

 ただの鼻から風船野郎をカリスマ上司にしてしまおう、と。

 痺れます。目の付け所がシャープです。あれ、実はすでにスローガン変わっていると知ってました?


 幸い俺は遊郭の到着前に性感染症について把握している情報を全てシオンに移譲し終えている。

 しかも後になって考えてみればペニシリン発見に必要な諸々が概ね揃っているという奇跡。神は俺を見捨てていなかった。


 女神「当然です! アレンチャンネル登録者を舐めないでください!」

 女神ちゃん……!

 

 つまり、説明次第では——別のストーリーにすり替えることができるということ。

 おそらく神算鬼謀さんは葛藤もしたことでしょう。


 優秀な部下を信頼し、仕事を任せるリーダー。影の中バックでドーンと構える姿勢。まさしく理想の上司である。


 ただの寝坊野郎をカリスマリーダーにすり替え。

 正反対の印象を【色欲】の魔王軍並びに奴隷たちに植え付けることになる。

 大事なことなのでもう一度言うが、葛藤しただろう。


 だが、そこはシルフィさんといえどエルフの子。我が身可愛さには抗えない。

 無能なご主人様不在による罰を受けるぐらいなら、理想の上司に仕立て上げる方を選んだ。苦渋の選択、苦渋の決断。

 あのシルフィさんが血涙を流したところがありありと想像できる。


 それからその報いを受けることになるのかと思うと俺も血涙。


 そんなわけでアレンさん偽り武勇伝、目も当てられないストーリーが完成しました。


 遊郭に足を運ぶ前に驚異的な先見性を発揮

 ↓

 本件の適任者(才覚、本人の意思、意欲も含めて)シオン選出。影の中で叡智を授ける

 ↓

 適任者、奴隷で部下であるシオンを信頼し、上司かつご主人様は影でドンと構える

 取った行動は、寝たふり

 ↓

 部下、見事に期待に応えてみせる

 上司、「信じていたよ」

 

 シルフィさん貴女という人は……!!

 これは俺からすれば諸刃の剣である。

 一時的に奴隷たちの評価株は高くなる。


 しかし、メッキはいつか剥がれる。

 金だと思っていたら、実はうんちだった。

 発覚すれば大暴落である。


 アレンショック。アレンショックである。

 バブルというものはいつか弾ける運命にある。

 つまり、甘い汁を吸うには現在しかない。いつか消えてなくなるなら、美味しい思いを今のうちにしておかなければいけないということだ。


 第一次『遊郭編』がひとまず落ち着いたことでシオン研究所に新たな研究員が加わった。

 妖狐とサキュバスである。

 表現を変換すると女狐と歩くセックスだ。


 修道院がさらに華やかなになっていた。

 具体的に言えば、目が、鼻が、耳が、手が幸せになっている。

 

空狐くうこどす。よろしゅうね村長さん」


【色欲】の魔王軍No.2、空狐。色気がヤバい。醸し出す雰囲気が人間離れし過ぎている。

 俺は彼女に舞妓の着物を贈ると心に決めている。


天狐てんこです。この度はお招きいただきありがとうございます。学ばせていただく身ですが、お役に立てることがありましたら遠慮なく言ってくださいね」


【色欲】の魔王軍No.3、天狐さん。歳上系お姉さん来ました。ウマー!

 彼女には巫女服です。最優先事項です!


 やべえ! やべえよ! 九尾、天狐、空狐、ネクといい、巨乳美人ばっかじゃん!

【色欲】を司るのは伊達じゃないってことですね!


 さらに、

「コン♪」

 諸君。お待ちかね。もふもふです! もふもふ来たコレ。

 友好の証として妖狐の一瞬、金狐が贈られてきました。

 ただのもふもふ要因として侮ることなかれ。なんと日の象徴である。

 九尾を頂点にして妖狐たちは【火】のスペシャリスト。


 今後、シオンは所長——トップとして生命の研究に当たる。もちろんそこには性感染症も含まれる。

 研究成果である情報や抗生物質を提供する代わりに、魔王軍幹部が派遣され、身の回りのお世話、主に【火】方面で役に立てるとのことである。


 さすがシルフィ。略してさすフィである。

 よもや【色欲】の魔王軍とずぶずぶの関係を構築しようとは。このまま夜の方もずぶずぶになりたい所存である。


 諸君。『遊郭編』のお次は『泡沫うたかた編』である。

 いつ弾けるか分からないアレンバブル。

 正直に告白すればいつ大暴落するかが気になるが、俺は数少ない長所を使おうと思う。


 来い! 楽観的思考! キミに決めた!

 これを発動した者は目先の利益を追及し、幸せを享受できる!

 課題を先送りにすることで幸福で過ごすことができる優れものである。


 将来抱える問題はそのときの俺に委ねると割り切ることで至れる境地だ。


 宴だ! みんな宴やるぞ! 妖狐とサキュバスの歓迎会だ!

 くくく……そのあとはお待ちかねの温泉! 混浴! 浴衣! うなじ! である。

 なんと狐美人さんとサキュバスまで!

 確変である! 温泉で日本酒を晩酌してもらおうではないか!


 よし。そうと決まれば陰の黒幕シルフィさんに申請だ!


 ☆


【ティナ】


「そこで彼、なんて言ったと思う? 寝たふりをしていた甲斐があったよ。どう思うティナ?」


 その話、今回で二千八百九十三回目ですシルフィさん。もういい加減にしてください!


『アレン狂い』に私たちエルフを巻き込まないでくだ——ああっ! エリーさん! 卑怯ですよ! 私に話が振られた隙に逃げようなんて! 裏切りです!


 だっ、誰か助けてください。


「あっ、いたいた! こんなところにいたんだ。ねえ、もしよかったら空狐と天狐、それからサキュバスの歓迎会も兼ねてパーティーしようよ? ダメ、かな?」


 あっ、アレンさん! やはり貴方は救世主だったんですね! 『アレン狂い』が全然監禁を解いてくれなくて……ありがとうございます!

 

【シオン】


 アレン。本当に面白い人間だ。

 おかげでこれから楽しくなりそうだよ。

 これからは生命の研究で好奇心を満たしながら彼の役に立ちるよう尽力したいね。

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