第34話

【アレン】


「やっ、やったか……?」


 女神「アレンさんの手札で最強の『お酒に頼る』も効果なし! 爆炎から姿を現す強敵と同じでシルフィさんは無傷、処女のまま! 意味も効果も皆無です!』


「嘘だッ……!」

 アレンが鳴く頃である。

 

 いや、だがしかし、これは一体どういうことだ……?

 当然だが、シルフィさんとえちえちした記憶はない。というか同衾することになった経緯さえも思い出せない。

 いや、待て。そもそも俺は一体誰なんだ?


 女神「変態ドスケベさんです!」

 違うだろ! いや、違わない、のか……?

 クソッ、全否定できないところが妙に悔しい。


 おちケツ。いや、落ち着け。まずは辿れるところまで記憶を遡ろう。どこまでだ。どこまで俺は覚えている⁉︎

 ナニをした? いや、何をした?

 まさかとは思うが悪酔いして痴態を晒してしまったのではなかろうな? 心パイ、いや心配になってきた。

 クソがッ……! さっきからチラチラと視界に入るネグリジェのシルフィさんがえちえち過ぎて脳内言葉がHワードに自動変換されやがる! 


 お美しい顔ですやすや眠りおって!

 寝息を立てる度にたわわが! たわわがすごいことになってますよシルフィさん! 

 処女雪の肌。芸術品のようなライトグリーンの髪。スーパモデルのように長い脚(おふとぅんからはみ出てます! 脚長い!)。

 そんなスケスケのネグリジェいつの間に用意してたんですか⁉︎ 初めて見ましたよ!

 ダメだ! 刺激が強過ぎる! 

 

 息子「いくぜ相棒!」

 俺「うん!」


 いや「うん!」やあらへんがな。安心しきった顔で眠る美人襲うとか、ど畜生じゃねえか!

 息子「性獣の前に半裸のいい女。据え膳だぜ相棒!」

 俺「いや、だから食おうとするなよ。落ち着け! まずは何があったのか思い出せ」


 息子「あいぼおおおおおおおおおお!!」

 うるせえ!


 でも起こす振りして揉み揉みぐらい……いや、何を考えてやがる⁉︎ これでは息子と同じではないか! 俺は父親。節操がない子どもを叱り教育する立場。

 チンチンばかりしてくる出来の悪い息子にお座りも覚えさせなければ!


 むぎゅっと歪むお胸に伸ばしていた手を引っ込めようとした次の瞬間。

 パチリ、と。

 シルフィさんのお目目がぱっちり開く。

 瞬き。

 言葉を失う。頭真っ白。

 視線が合う。

 余裕が全くない俺に対してシルフィさんは寝惚けていらっしゃって。

 なんと俺を抱き寄せ、顔におっぱいを埋もれさせてきた!


 うっぴょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 柔こぉ! 柔こぉぉぉぉぉぉぉぉ!! なっ、なんじゃこれりゃあああああああああ!

 半狂乱である。突然発生したラッキースケベに理解が追いつかない!

 むにゅうって! 頬に幸せな感触がむにゅうって! しゅぽおおおおおおおおおおお!


「よく眠れたかしら? ——アレン


 くん⁉︎ えっ、あの、くん呼びですか⁉︎

 もしかしてそういうプレイでしょうか! シルフィさん貴女という人はショタ好きですか? ショタものは変態ドスケベの俺もちょっと……って、ん? んんんん?

 

 違和感。それもとてつもなく強烈なやつである。

 幸福過ぎてお胸さまの感触を堪能していたが、いくらなんでも顔面がすっぽりと谷間に収まるわけがない。常日頃、埋もれパイなどと考えているが、押しつけられパイが現実の限界だろう。情報源は魔眼【全部視えてるぜ】だ。

 いくらシルフィが美巨乳といえど、俺とて大きな子どもである。当然、中に収まることなど不可能。

 しかし、なぜか今の俺はすっぽりと入れてしまっている。そもそも抱き寄せられた時点でおかしい。

 

 俺の両脇に手を回し、抱きかかえられた現実。恐る恐る谷間の中で顔を動かし片手を視認。

 結論から言う。

 

 ——俺は幼児化していた。


 女神「頭ならいつものことでは?」

 頭じゃねえよ! か・ら・だ! 物理的な方! 最近息をするように毒吐いてんな!


 女神「えへへ。数少ない長所の一つですから。褒めてくださってもいいんですよ?」

 褒めるかァ! だいたいそれ長所じゃねえし!!


 女神「見た目は子ども。頭脳も子どもw」

 お前、いま草生やしたろ。


 女神の爆笑をよそに俺は記憶の海にダイブする。いや、マジで本当に何があった——⁉︎

 たしか俺は日本酒を完成させてから——、


 ☆


 さかのぼる。


 くくく……! ぶあはははははははは!!

 酒が、日本酒があればあとはこちらのものよ。なにせこのあと控えているのは宴だ。

 それも新たな仲間、新たな種族である鬼との親睦を深めるためのもの。さらに無能村長の帰還祝いも兼ねられている。

 

 俺、ご主人様。みんな奴隷。

 つまり「ワシの酒が飲めんのか!」とパワハラし放題である。

 さらに「いかん酔いが回って変なところに手が」と適当な言い訳を口にするだけで手は谷間や太ももに潜らせることもできるだろう。セクハラし放題である。


 これをセパ交流戦と言います。そして俺はセパ二冠制覇します。やってやりますよ! アルコールのチカラを使ってね!

 

 もちろんお酒が苦手な女の子に強要するつもりはない。あくまで飲める子たちに対してである。味見させた感触だと、奴隷全員が大絶賛だ。

 娯楽品を開発する前までこの世界には酒かセックスぐらいしかすることがなかった。

 そして十分な量の酒は貴族にしか手が出せない贅沢品である。奴隷だった彼女たちは飲みたくても飲めない身分だったはず。


 ついついお酌が進んでしまっても無理はない。いや、もはや必然である。本当に苦手な子は別にして、たいていはお酒を飲めること自体に好感を持つ者が圧倒的だろう。


 諸君。俺がなぜ奴隷全員に日本酒を味見させ、その反応を伺っていたかわかるかね?

 それはね、辻褄の合わない発言を封じるためさ!

 無能ご主人様から注がれる日本酒を拒否しようものなら、「あれ、チミ、味見のときは頬に手を当てるぐらい絶賛してたよね?」と詰め寄るためである。


 くくく……! 全て意味があったのさ。

 興が乗れば飲み比べ勝負も全然アリだ。

 なにせこっちは【再生】持ち。酔いとは無念のチート野郎である。

 一人、また一人の根を上げるに違いない。立ち上がり、歩くこともままならない奴隷たち。介抱する振りをしながら軽快な足取りでお持ち帰りラッシュである。

 娯楽品で勝つにはまだ時間がかかる。将棋でも金銀歩以外全落ちでもようやく王手がかけられるようになったところ。

 ハンデなしで勝利する頃にはお爺ちゃんである。下半身の方が使い物にならない。いやそれも【再生】があるから比喩ではあるのだが、要するに間違っていたということだ。


 勝てないことで土俵に上がるからダメなのだ。

 勝てるときだけ土俵に上がるべきだったのだ。

 ぶははは! 真理に辿り着いてしもうたわい。俺は自分で自分が怖い。IQ85の天才はやはり伊達ではなかったか。


 さあ、いよいよ俺の約束された勝利の息子エクスカリバーを色んな意味で抜くときが来たようだ。僕はね、正義の、いや性技の味方になりたかったんだ。


 この身体は——、








 ——無限の性欲で出来ていた!!!!


 ☆


【ティナ】


 こんにちはティナです。

 今日は拷もn——じゃなかった。シルフィさんから聞いたアレンさんの魅力18時間コース(なんと地獄の12時間+6時間ですよ⁉︎)と、村長さんの凄さについて語りたいと思います。


 とりあえず声を大にして言っておきたいのはこれ以上武勇伝を作らないで欲しいということでしょうか。

 いえ、村長さんに罪はありません。恨みや不満なんて微塵もありませんよ。むしろ尊敬と感謝の念が積み重なるばかりです。


 ただ、アレンさんが本領を発揮すると、その、シルフィさんがその、自重しないというか、暴走するというか。

 とにかく「私の彼やっぱりすごいのよ。私の人生——金と時間と労働力全てを捧げて推すわ」と力の入れ方が狂い始めておりまして。

 

 エルフたちの間であれは病気だと、『アレン狂い』だと病名をつける方も出始めるほどでして。

 これ以上武勇伝を作られては、こちらの身が持ちません。12時間コースでもギリギリだったのに、+6時間の18時間コース。

 エルフ奴隷たちから殺気が立ち始めるのも無理はないと思います。私? 私は右脳と左脳を交互に寝かせる技を習得しまして、なんとかシルフィさんにナイフを向けずに済んでます。

 

 さて、半分冗談の話はおいておくとして、村長さんがまたやってくれました。

 なんとまた誘拐されてしまったんです。

 私が証言するのも違う気がしますが、結界と蜘蛛さんの【振動察知】により修道院は強固の監視環境です。


 連れ去られてしまうという現実そのものがまずありえません。

 これが意味するところは、アレンさんはこの監視環境を潜り抜けられる天才に拉致されるほどの逸材ということです。


 村長さんがやってくれました。シルフィさんの話によれば、なんと鬼に誘拐されていることを理解しながら、無抵抗のまま連れ去られたそうです。

 意味がわからないと思うでしょうが、事実ですからそういうものだと落とし込むしかありません。

 そもそも村長さんの領域に最も近いシルフィさんですら驚愕したのですから、ただのエルフである私たちに理解できるわけがありません。


 村長さんの武勇伝はここからが凄かったです。

 彼は九桜さんが誘拐した理由に理解を示すと倭の村の病人を診察し、【再生】を発動することなく、対応してみせたとか!


 ごめんなさい! 私、村長さんが天才の片鱗を見せ始めていることを理解しながら、真に凄いのはエンシェント・エルフのシルフィさんやエルダー・ドワーフのノエルさんで、本当は何もできない、ただの無能なんじゃないかって、思ったこともたまにあったんです。


 だって、いくら奴隷だからって女性に働かせてご主人様はリバーシばかりしてたから。

 本当にごめんなさい!

 周囲に恵まれてご本人は全然大したことがないなんて疑心暗鬼になっちゃって、ごめんなさい!


 でもでも悪気はなくて……心の底から尊敬していますし、感謝も本物です。

 私は日本酒という、村長さんの叡智が詰まったお酒を口に含みます。

 

 淡麗、でしょうか。


 鼻を突き抜ける爽快感。美味しい。語彙力が死んでいますが、どうかご容赦ください。

 私たち奴隷たちはお酒を口にできるほど贅沢な生活はできませんでしたし、知りませんでしたから。


 それを新しい仲間の加入、親睦を兼ねて帰還のお祝いで好きなだけ飲んでいいとのことです。

 

 私はもう一度周囲を見渡します。

 高級品である塩が盛大に振られたポテトチップス。ふわふわ、もちもち。口に含んだ瞬間、パリッと心地よい音が響くパン。

 奴隷とは思えないおしゃれな衣服。それも新品かつオーダーも自由。色や刺繍も蜘蛛さんたちが応えてくれます。


 私の大好きなわらびもちには、ほっぺたが落ちそうになるぐらい砂糖がたっぷり。前回も思いましたが、贅沢の域が貴族、いえそれ以上の生活水準になっています。


 しかも労働時間は一日二、三時間程度。日によっては一時間程度もザラにあります。

 大して疲労も残らない【発成実】や全く苦にならない【水創造】

 なのに給金は使い切れない、桁がおかしいな大金です。

 唯一労働と呼べるものがあるとすれば、風魔法の結界、修道院の監視ですが、これも無理のないローテーションが組まれています。

 しかも緩和もしくは廃止の方向で調整が進んでいるだとか。

 

 諜報や気配察知などで右に出るものがいない鬼の皆さんが加入されたからですね。


 この修道院は快適すぎます。天国にいるようです。恵まれ過ぎています。

 唯一の欠点『アレン狂い』による魅力語り18時間コースさえ目を瞑れば永住したいほどです。ここで働き続けたいと心の底から願います。


 そんな私の内心などお見通しなのか。エルフ奴隷が集められます。シルフィさんから指示されたのでしょう。ノエルさんもドワーフのみなさんを集めます。


 我れがボス、アレン狂いさんは言います。

さいは投げられたわ」と。

 おそらく全員が「始まった」と思ったことでしょう。凶悪化バーサーカーモードです。いい加減にしてください!


「アレンはサイコロを振らない」「時は満ちた」に集約される語りをコンコンと聞かされます。

 ですが、みなさん、今回ばかりは真剣に聞き入っています。


 なぜなら今こそ命令権の使いどころだと、シルフィさんが熱弁されていらっしゃるからです。

 宴では全員アレンさんにお酌をしに行きましょう。そこでここに残りたいと願う奴隷はアレンにそうお願い、いや、命令をしなさいとのことでした。


 ごくりと全員が息を飲み込みます。

 この修道院にずっといられる……?

 想像します。そんな未来を。滅多に男らしいところを目にできないものの、魅せるところでは絶対に外さない、この修道院の代表アレンさん。

 無能なのでは、などと思ったこともありますが、やはりメスとして惹かれないわけがありません。それは目の前のアレン狂いさんが身をもって証明してくれています。


 もしもここに働くことが許され、住み続けることができるなら。

 お酒のチカラで一夜の間違いを犯してしまったら。男女の仲になれたならば。

 メスという生き物は男性のみなさんが思っているよりも打算的でずっと多くのことを考えています。したたかな生き物なんです。


 もちろん最初に召し上がっていただくのはシルフィさんでなければなりません。彼女のお許しがなければ露骨な誘惑は難しいとは思います。ですが帝国は一夫多妻制。

 そして言葉の節々にシルフィさんはハーレム形成を歓迎、許容しているように感じられます。


「——この瞬間から色じかけも許可するわ。この修道院に残りたいなら全力を尽くしなさい。使えるものはなんだって使えばいいの。もちろんそこには女の武器も含まれているわ」


 いい女過ぎないでしょうか。さすがシルフィさん。さすフィです。

 どうやら先に痺れを切らしていたのはアレン狂いさんの方でした。枕大歓迎だと。

 興味はあるのに一向に手を出そうとしないヘタレを落としなさいと、堂々どおっしゃられました。


 こうして私たちエルフとドワーフの奴隷たちは緊張しながら、宴を迎えることになりました。


 やるぞ、と決意が固まった私たちでしたが、なかなか上手く行かないものですね。

 全く想定外のが発生しました。


「シルフィお姉ちゃんちゅき! 大ちゅき〜! うわー、おっぱい柔らかーい♪」


 えっ、あの——、


 そん、ちょう、さん……?

 お酒弱すぎませんか? 幼児化してますけど——!

 って、ああ! ああああ! シルフィさんが、アレン狂いがお酒で幼稚化した村長さんに【退行】の魔法をかけてお持ち帰りしようとしています!

 

 戦争勃発です!!!!

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