第12話
低スペック陰キャ、アレンです。
リストラ奴隷返済計画始動! ドドン!
それでは前回までのあらすじから行きましょう。
女の武器——涙を巧みに操るシルフィさんは俺の甘い性格に漬け込み奴隷を爆買い。
その勢い、まさしくインバウンド。そのうちご主人様であるアレンさんごと買い占められそうで怖い。冗談などではなく割と
五十人もの奴隷の生活を保証せねばならない絶対養われたいマンは足りない脳みそを振り絞る。
妹の実月ちゃんからは「お兄ちゃんの脳みそってカニ味噌だよね」とのこと。
ちなみにカニ味噌は糞も混じっているらしい。
つまり俺の脳みそはうんちということ。QED証明完了。ぶりぶりぶり!
しかし、どれだけ罵られようと何かしらの案は捻り出さなければならない。
妹の実月ちゃんからは「絞り出すためには、まず
アレン(前世の俺)は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の妹を除かねばならぬと決意した。
などと脳内で遊んでいる場合ではない。断じて否!
たしかに妹の言うことは正しい。しょせん俺は「バカですけど何か?」系主人公だ。認めよう。
もしかしたらシルフィとノエルに追放されてから俺の【再生】が覚醒するのかもしれない。
絶対養われたいマンの俺が奴隷五十人も養えるわけがない。
そこでまずは情報収集。
シルフィ曰く「娯楽品の売上の1%がアレンの口座に振り込まれることになっているわ」とのこと。「まだしばらくは収入が期待できる」とも。
驚いたのが「そうそう。近日中に商業ギルド
一体なにをどうやればわずか二週間で商業ギルドのトップ会員に上り詰めることができるのか。その才覚をちっとは譲りなさいな。
さらに吉報。
どうやら帝国皇帝は目新しいもの、未知のものに大変興味があるらしく、特許に近い制度(三年間は発明者の権利を保護する)も敷いているとか。
口座には100万ドール。
慎ましく生活すればしばらくは生きていけそうだ。
しかし問題を先送りしても最終的に絞まっていくのは自分の首だ。
危うく思考の荒波に呑まれて水死する寸前のこと。
一筋の光明が。
奴隷紋の解除。すなわちリストラである。
あっ、これ進研ゼミでやったところだ!
さらにノエルの農業道具&肥料錬成と自然に愛された種族、エルフの特性を利用した芋、麦、大豆の生産力向上、そして秘策『料理チート』三本の柱で新商品を開発、商業ギルド金会員を利用し、売り飛ばしてく算段である。
これをアレンミクスと言います。
正直に言えば申し訳ない気持ちは多分にある。
もう少し有能ならばまた違った方法を閃くことができたのかもしれないが、これが俺の限界だ。
この決定にシルフィは、
「……はぁ。貴方には慣れてきたと思っていたけれど、さすがに呆れたわ。それじゃ私も好きなようにやらせてもらうから」
呆れ果てていた。
はぁーあ! これでまたえちえちから遠のいちゃったじゃん。
ため息を吐きたいのは俺の方なんですけどー?
何気なくノエルを見る。
「シルフィに同じ」
無機質な瞳には俺の顔が写り込んでいた。
美人(美少女)奴隷たちとエッチする。ただそれだけでよかったんです……。
☆
【シルフィ】
やっ、やってしまった……!
きっと私はアレンの思考は辿り着けない領域にあることを再認識させられて、拗ねてしまったのだと思う。
恩人に向かって呆れたなんて……うう。しっ、失望されたかしら⁉︎
でっ、でもアレンもアレンよね? 私とノエルが買った奴隷たちはかつて私たちと同じように身体に欠陥があった娘たち。
活躍の未来を無慈悲にも奪われてしまった女の子ばかり。
だからこそお金も身体も才覚も求めないアレンの慈悲に彼女たちはすでに最大の感謝を抱いている。
お金も身体も才覚も求めないなんて無欲にもほどがあるわよ。
だいたい、彼女たちに付けられていた価格は損傷や欠陥を含めたもの。
負債は購入にかかったお金だけでいいなんてどれだけお人好しなのよ。
普段はぽけ〜と呆けている(ように見せている)くせにいざとなったら隠している【再生】を惜しみなく発動するなんて——そんな光景を見せられちゃったら……かっ、カッコいいって思っちゃうのも当然じゃない!
だから私が呆れてしまったのは仕方がないこと。こればかりはアレンが悪いわ。
これからは彼のことをちゃんと監視しておく必要がありそうね。無自覚に女をたらしていくタチの悪い災害みたいだもの。
奴隷商からやってきたエルフ——二十五人を集めてアレンの決定を説明する。
すると案の定、
「あのシルフィさん……恩人であるご主人様を疑うようなことはしたくないんですが、私たちに美味し過ぎてにわかには信じられないんですけど」
ほらね。やっぱりこうなるじゃない。半信半疑になって当然だわ。
一体どこの世界に奴隷を解放するために労働対価に給金を与えるご主人様がいるのよ。
「ごめんなさい。これがアレンという人なの。悪いけれど早く慣れてもらえると助かるわ」
余談だけれど新しく迎え入れることになったエルフを束ねるのは私で、ドワーフたちはノエルに、というのがアレンのお達しだった。
私が最上位かつ希少種であるエンシェント・エルフであることに気がついた彼女たちが様付けで呼んでくるのを急いで制止、さん付けさせる。
なにせアレンがみんなの【再生】後に「俺のことはアレンって呼び捨てで。最初は難しいかもしれないけど、フランクに接してくれる方が嬉しいな。できるかぎり相談やアフターフォローもしていくつもりだから、その……ね?」なんて言っているのに私だけ様付けさせるわけにはいかないでしょ。
……はぁ。これが頭痛が痛いというやつかしら。
「シルフィ様……いえ、親しみを込めてシルフィとお呼びしても?」
私と同い年でエルフの上位種、ハイ・エルフのアウラが聞いてくる。
彼女には私の補佐をお願いしようと思っていたから、向こうから踏み込んでくれるのはありがたかった。
もちろん返答はイエス。
「お話を整理しますと、わたくしたちはアレン様にご奉仕——つまり躰を差し出さなくてもいい。そういうことですの?」
「ええ。そうよ」
即答する私に集まったエルフたちから安堵の声が漏れる。信じられないのも無理はない。
私たちの種族は男女ともに容姿が整っている。だからこそ健康な状態であれば貴族しか手の出せないような大金で取引されることもしばしば。
【再生】後は遜色ないわけだから、男ならば当然そういう欲求が湧いてもおかしくない。
これに対していい迷惑だと思うのと同時に己たちが美の象徴であることを認識し、矜持がくすぐられるという矛盾した感情を抱いでしまう生物。
つまり、ご主人様とはいえ、見知らぬ男に肌を許さなくていいという安心感と性奉仕をさせるほどの魅力に欠けているのではないか——エルフとして屈辱を感じてしまう相反した気持ちになっている、といったところかしら。
だからこそここにいるエルフたちはどよめいている。
「もしかして女性に興味がおありでない?」
「それはない——とは思うわ。たまにだけれどその、胸やお尻、脚に視線を感じることもあるから」
アレンは基本的に私たちの目を見据えて話すことがほとんど。
ただ対局時の前屈みになったときに、チラッと視線を感じることはある。
むしろつかみどころのない言動のギャップが可愛くて、いけないとは思いながらもわざと前傾になったりもする。
あまり褒められた趣味ではないことは重々承知しているのだけれど。
もし一言「見せて」と頼まれたら——。
現在の私なら奴隷とか命令関係なく見られてもいいと思ってしまっているのは事実よ。恥ずかしいけど。
「信じられないことや納得できないことはたくさんあると思うけれど、ご主人様——いや、アレンは無意味に他人を傷つける人じゃないの。それはエンシェント・エルフとして、聖樹に誓うわ。だからみんなも騙されたと思ってついてきてちょうだい」
「それはもちろんですわ。ですが、一つお聞きしたいことがございますの。シルフィはエンシェント・エルフ。本来なら奴隷など相応しくない存在ですわ。貴方は負債を返済して自由の身になりたいと思わないんですの?」
私は妄想する。もしもご主人様と奴隷という関係ではなく、対等な立場になれたら。
アレンと肩を並べて彼を最も近い位置で支えることができたとしたら。
それはきっと幸せなことだと。そう信じられるぐらいには彼のことを信頼してしまっていた。だからこそその答えは決まっている。
「なりたいに決まっているじゃない」
「——でもそれはもっと先の話よ。まだ私は彼の下で見てみたい景色があるの」
☆
【アレン】
どうやら【再生】に隠されたもう一つの能力——再生を発動するときがきたようだ。誤字? いや、違う違う。多義語なのよねこれ。
説明すると、座標指定を済ませることで録音した音声を再生できるというもの。
一回の設定で録音できる時間は三十秒。座標指定は半径三メトラ(前世の単位でメートル)。再生は一度だけという超限定条件付き。
諸君、この再生の有効活用の仕方があれば是非ともご教授いただきたい。
現在の俺には女風呂を指定し、きゃっきゃうふふを音声で一度だけ楽しむという方法しか思いついてない。いや、もうマジでどうやってこれ使えばいいの。
スパイや暗殺者なら上手い使い道がありそうだよね。
まっ、それはともかくとして。
修道院長を出てからのシルフィとノエルの言動が気になっていた俺は、彼女たちの会話を盗み聞くことにした。
いけないとはわかってる。よくない趣味であることも重々承知している。
けれど悲しいかな、聞いちゃいけないと思えば思うほど、聞かずにはいられないのが人間の性ってものだよね。
というわけで、いざ再生!
『「お話を整理しますと、わたくしたちはアレン様にご奉仕——つまり躰を差し出さなくてもいい。そういうことですの?」』
『「ええ。そうよ」』
おいいいい!! ざっっっっけんなシルフィ! ご奉仕は必要でしょ!!!! なに肯定しちゃっての! キミにはつくづく失望した! いや、リストラしようとしている俺が言えた口じゃないのは百も承知だけどさ!
酷いよ! こんなのあんまりだよ!
『「もしかして女性に興味がおありでない?」』
大アリですけど⁉︎
『「それはない——とは思うわ。たまにだけれどその、胸やお尻、脚に視線を感じることもあるから」』
そうそう。シルフィって本当にスーパーモデルみたいで、ついつい視線が行っちゃ——ん? んんんん?
……いぎゃああああああああああああ!!
バレてた⁉︎ もしかして対局時に胸チラをチラチラ見ていたことがバレてた⁉︎
いやあああああああああああああああ!!
やはり人間悪巧みなんてするもんじゃないね! これからどんな顔をして見ればいいのさ!
『「信じられないことや納得できないことはたくさんあると思うけれど、ご主人様——いや、アレンは無意味に他人を傷つける人じゃないの。それはエンシェント・エルフとして、聖樹に誓うわ。だからみんなも騙されたと思ってついてきてちょうだい」』
『「それはもちろんですわ。ですが、一つお聞きしたいことがございますの。シルフィはエンシェント・エルフ。本来なら奴隷など相応しくない存在ですわ。貴方は負債を返済して自由の身になりたいと思わないんですの?」』
『「なりたいに決まっているじゃない」』
——俺は凍結した。
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