第5話

「世界から飢饉を無くすなら開墾が必要だと思うのだけれど」

「それな! (働きたくないでござる)」


 どうも、アレンです。

 同情するならエッチさせてください。

 では、前回までのあらすじをどうぞ。


 資金が底を尽きかけた経済力皆無野郎、アレンは美人すぎる奴隷、シルフィ様から「豚は豚箱にいやがれ! 食料は任せな! 私が——新世界の神になる!」と主役の座を奪取。


 おかげで平日の昼間からゴロゴロ〜、ゴロゴロ。あーあ、「俺またなんかやっちまいました」できねえかな。


 不貞腐れていたそのとき。

 俺の頭に稲妻が走る。

 そう。異世界転生の醍醐味、現代知識チートである。


 植物の成長を促進できる【無限樹】を所有しているシルフィといえど、土に栄養は必要不可欠。

 かつて俺は植物なんて種まいて、水やって太陽当てたらあとは勝手に実が成ると思っていた。

 だが、小学生の植物博士に「お前は間違っている! 頭おかしいよ!」と論破されたことがある俺は知っている。


 農業とは自然じゃない。人工的なものだ。

 ぶへはははは! 思い出したらこっちのものよ。俺には秀才や天才たちが積み重ねてきた現代知識というハイパーインフレーションチートがある。

 ここで一発逆転だ。自然を愛するシルフィ様を横からスマートに支持フォロー

 見直してくれたらおっぱい揉ませてくれるかな……?

 

「面白い。私がやる」


 なんだァ? テメェ……。

 今なら肺活量だけでペットボトルをぺっちゃんこにできる気がする。


 どこからともなく俺の企みを嗅ぎつけたのはドワーフのノエル。知性を感じさせる圧倒的美少女。さらさらの銀髪が眩しい。

 彼女の興味関心は極端で、俺のことをデクの棒か何かと考えている可能性がある。言葉数も少なく、また圧倒的に短い。


「そう」

「わかった」

「感謝する」


 が彼女の語彙レパートリーだ。どうやって口説けばいいんだ……!

 そんなノエルさんが農業道具と肥料を作らせて欲しいという。

 このときの俺の心情は「うわーん! ママー!」である。


 大好きなおもちゃを横取りされた長男のそれである。

 だから俺は涙目ながらシルフィママに訴えかける。「あれ、僕の!」


「あまり駄々をこねちゃメッ! よ


 なんでそんなことするんですか⁉︎

「感謝する」

 キレてないですよ。俺キレさせたら大したもんですよ。


 以上が、前回のあらすじである。

 見た目は童貞、頭脳は子どもの俺は出番とやる気を搾取されてスネるしかなく、食っちゃ寝食っちゃ寝の生活をしていたところに、冒頭の台詞である。


「世界から飢饉を無くすなら開墾が必要だと思うのだけれど」

 

 言っとくけど、シルフィ様のお言葉は文字通りじゃないからね?

 彼女はこうおっしゃられている。「働いたら?」


 シルフィの怖いところはかつて俺がチキンになって真意を隠した偽りの目的を口にしたことだ。

 本当は彼女たちに肉をつけてもらって柔らかい感触を堪能したいだけだったのに、聖人みたいな、一ミリもそんなことを思ってない台詞。

 

 彼女だって俺の下心には薄々気が付いているはず。なのにそれを口にした。

 アレン知ってる。これ嫌味!

 ノエルがせっかく、鍬を作ったんだから使いなさい。外に出てさっさと土をひっくり返して来なさい。てめえが飢饉を無くしたいって言ったんだからな?


 くくく……。

 俺はシルフィに見えないように俯きながら真っ黒の笑みを浮かべる。

 計画通り……! 残念だったなシルフィ。貴女のその言葉はIQ85の天才アレンさんにはお見通しよ。


 というのも俺には【再生】がある。

 これは【回復ヒール】の上位互換だと思ってくれれば理解が早い。

 よもや蘇生という圧倒的チートを『地面を耕し肥沃ひよくな土を地表に出す』重労働に使用する日が来るとは思ってもみなかった。だが、俺はやる。やるといったらやる。


 シルフィはきっと重たい腰を上げた俺のことを褒めてくれるだろう。

 もっ、もしかしたらまたお手手握ってくれるんじゃ……?

 うっひょおおおおおおおおおおおおおお!

 しゅしゅぽっぽしゅしゅっぽっぽ!


 おりゃァァァァァァァァァァァァァァァ!


 ザクザクザクザクザグザグザグザグ【再生】ザグザグザグザグザグザグザグザグザグザグ【再生】ザグザグザグザグザグザグザグザグザクザクザクザクザグザグザグザグザクザクザクザクザグザグザグザグ【再生】ザクザクザクザクザグザグザグザグザクザクザクザクザグザグザグザグ【再生】ザクザクザクザクザグザグザグザグザクザクザクザクザグザグザグザグザクザクザクザクザグザグザグザグザクザクザクザクザグザグザグザグ!!


 まるで何かに取り憑かれたように開墾する。俺だってやればできるんだぜ?


「凄いわねアレン……!」

「凄い。わたしも頑張らないと」


 圧倒的開墾力を見せつける俺に二人が珍しく絶賛してくれる。そうそうこれこれ。こういうの欲しかったの。

 俺の活躍にヒロインが全肯定してくれるやつ。気持ち良ぃ。超気持ち良ぃ。できればもっと気持ち良いこともしたいな。チラッ。


「「ひそひそ」」


 期待の眼差しを向けると二人は秘密話をしていた。

 うん? どうったの?

 後になって思い返せば、女に甘い性格はここから始まったんだと思う。

 と同時に始動。

 ここから俺は三年未満という、尋常じゃない速度で魔王候補に仕立てあげられることになる。


「お願いアレン。私たちをに登録してくれないかしら?」


 いいともいいとも。美人と美少女のお願いを俺が断るわけがない。


 諸君、起点である。もしくは伏線だ。

 ここから致命的なすれ違いが始まった。

 俺はシルフィのことを童貞を手玉に取る魔性の美女だと勘違いし、彼女もまた俺が上に立つ者だと信じてやまないという、全く噛み合わない、嘘みたいな成り上がり魔王譚である。

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