第4話

 アレンぽよ。

 前世の妹に言われて最も衝撃的だったのは「汚い顔してるでしょ? ウソみたいでしょ? 生きてるんだよ。それで」です。


 だから俺は妹にタッチ! タッチ! してあげた。

「ちょっとお兄ちゃんセクハ……あはは!」とこちょこちょこ攻撃。美月みつきちゃんは元気にしているだろうか。

 異世界転生でそれだけが唯一の心残りだ。


 さて、ここまでのあらすじから始めよう。

 天才的頭脳を持つ俺、アレンは巧みな話術と機転を利かしてエルフとドワーフの奴隷をぼったくり価格で購入。全財産の九十%を失う。


 シルフィとノエルは希少種で【再生】後は『己が何をさせられるのか』と警戒心MAX。

 おかしいな。奴隷ってすぐに『ご主人様素敵! 抱いて!』になるものとばかり思ってたよ。Web小説の読み過ぎかな。


 シルフィとノエルはとびっきりの美人(美少女)で【再生】後はまともに視線を合わせられないまま、共同生活がスタート。

 諸君。コミュ障、ヘタレのまま奴隷を購入することなかれ。エッチしたいってどうやって言えばいいの? 教えてチャラい人!!


 というわけで、帝都の山奥に荒廃した修道院を発見した俺はそこを拠点にし、二人との絆を深めることにした。


 いずれはえちえち展開を期待している俺は二人に肉をつけてもらおうと食料を調達。

 エンゲル係数爆上がり。アレン、ピンチ。治療院に出稼ぎに行かないと、ヒヤヒヤし始めたちょうどそのとき。


「気持ちは嬉しいけれど、貴方の負担になっているじゃない。穀物や根菜、豆は私が用意するわ」とシルフィさんからのご提案。

 奴隷商人から預かった【鑑定紙】によれば彼女は【無限樹】と呼ばれる固有スキルを所有しているとのこと。

 魔法は『感知』が命で、また根幹を司る心臓——に近い左腕と両目を失っていたシルフィは宝の持ち腐れになっていたとのことだ。


 しっ、知らなかった……!

 奴隷の管理は当然ご主人様の義務。

 シルフィは胸中でこうおっしゃられている「私の能力も使いこなせねえのかクソ野郎。いい女に野宿&不味い飯を食わせんじゃねえよ!」


 一撃必殺。

 資金が底を尽き、女の子に野宿を強要し、スーパーモデルのような美人に「食わしてやらあ」と宣言されるダメ男はどこのどいつだい? あたいだよ!


 全く予想だにしていない農業チートの始まりに俺の肩身はどんどん小さくなっていく。こういうのって普通、俺がするもんじゃないの?

『農業スキルを極めたら有能領主になっていた件』の主人公枠をあっさりシルフィに奪われた俺は発想を転換した。


 ピンチはチャンスだ。

 農業には連作障害といって同じ作物を栽培していると栄養素が足りなくなることを知っていた俺は農業道具、肥料、輪栽式農法(農業生産が上昇する画期的な方法)を提案!


 現代知識チートである。

 主役の座を一瞬で奪われたにもかかわらずこの切り替えの早さ。惚れ惚れするぜアレン。

 このときのように最初は俺も『ご主人様凄いです! 天才です! カッコいいです!』と活躍しようと努力していたことを主張しておきたい。


 


「面白い。私がやる」


 切り替えの速さが功を奏し、二人の美人(美少女)から肉体関係を迫られるという、男のドリームが詰まった妄想をしていると、ノエルが興味深そうに目をキラキラさせていた。


 いつも俺を見つめるときは路傍の石ころとしか思っていなさそうな彼女が、である。

 そこで俺は危機感を覚えた。本能がギンギンに警笛を鳴らしていた。

 まさしく緊急事態発生! 緊急事態発生!である。


 またまた失念していたが、彼女、ノエルはドワーフ。それも希少種であるエルダー・ドワーフ。モノ作りの天才、いや大天才である。

 そこに俺が持っていた前世の知識が混じり、無機質な瞳の奥にやる気を呼び起こしてしまったらしい。

 ざわ…ざわ…。勝たなきゃ誰かの養分。

 そんな格言が脳裏によぎる。


 農業道具と肥料に興味津々のノエルは鼻息を荒くして俺を凝視。

 こっ、こいつ……! 俺の活躍を奪う気満々だ!


「いや、あの、これはですね……」

「私も恩を返したい」

 悪いけどあだァ! それ恩じゃなくて仇だァ!

 クソッ、奴隷から恩を仇で返されるとか……どんだけ噛ませ役なんだ俺は。最近流行りのWeb小説じゃねえか!!!!


「でも俺がやった方が——」

「——問題ない」


 問題大ありィ! 農業だけじゃなく工業まで出番を取られたら、俺が男としての威厳を見せつけられるのって、本当に最初だけになっちゃうでしょ⁉︎


 しかも【再生】だって俺が凄いんじゃなくて能力がチートなわけで。つまり誰でもいいわけでしょ? やだやだやだ! 俺だってチーレムしたいもん! 可愛い女の子や美人から称賛されたいもん! 全肯定して欲しいやん?


 俺は助け舟の出航をお願いするべく、ついつい視線を逸らしてしまうシルフィの顔を見る。

 言え! いや、言ってください! アレンにやらせましょうノエルって言ってくれ!


「あまり駄々をこねちゃメッ! よ

 なんでやねん! なんで俺が駄々こねてることになっとんや。人差し指をビシッと立ててウインクの破壊力も凄いけど、それ以上に俺の心が滅びのバーストスト◯ームだよ!


「感謝する」

 何を⁉︎ 何を感謝したんやノエル⁉︎

 チミには罪悪感ないんか⁉︎ ご主人様がモノ作りTUEEE! しようとしているところを邪魔しようとしてるんやぞ!


 嬉々として農具&肥料作りに取りかかるノエルの背中を追いかけようとしたとき。

 俺の手に柔らかい感触。

 HA☆NA☆SE!

 シルフィさん……貴女って人はここで女の武器を行使するんですか! しゅごい! お手手しゅべしゅべー!


「ふふっ」

 美人の微笑み破壊力ありすぎぃー!

 パリーん!! 俺の心のメガネが割れた。いや、意味がわからん。


 結局俺はお手手の感触だけで行動不能になってしまう童貞野郎であることを露呈しただけでなく、森に生えている木とノエルが隠し持っていた【真銀ミスリル】から鉄製の鍬を錬成。

 完成品を手渡してくる。


「これでアレンの作業も楽になる。褒めて欲しい」

 なっ、ななな⁉︎ アレンの作業も楽になる⁉︎ おのれノエル、さてはキミ、モノを作るだけで開墾や土を耕すのは俺にさせる気か⁉︎

 搾取や! こんなん搾取やでぇ! ご主人様の方が搾取されとるがな!

 しかも褒めて欲しい? 図々しすぐる!


 不当な扱い断固拒否! 俺はシルフィを見つめて抗議する!


「ふふっ、褒めてあげたら?」


 嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! むしろ俺を褒めてよ!!!!!!

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