第2話

 元ヒョロガリクソ童貞、アレンです。

 女神様から【再生】というチートを授かりました。

 もしかして俺のこと「また何かやっちゃいました?」系の勘違い男だと思いました?

 ノンノン。俺はどちらかといえば無能を装いながら内政系で真価を発揮するタイプですよ?

 

 えっ、証拠?

 前世で漢字検定5級、算数検定6級、英語検定5級持ってましたけど何か? 万能者ジェネラリストでしたけど何か?


 ちなみに妹が中学に進学して間も無く全検定3級を総ナメし、「お兄ちゃんざこ〜い♡」と罵ってきたよ。クソが!


 はい。というわけでやって来ました奴隷商。帝国帝都には奴隷の売買が盛んに行われておりまして。

 IQ85、妹にボロクソ言われ続けた天才、アレンくんこと俺は閃いちゃったんだよね。


 上前をはねよう、と。

 奴隷からやりがい、金、性を搾取し、自給自足しようって。

 どんな怪我、病気も再生できるというチートを授かったものの、戦闘面で「ざこ〜い♡」俺は爪を隠し続けた。

 治療院を転々としながら下位互換である【回復ヒール】で銭を稼ぎ続けること五年。ようやく小金持ちに。


「ククク……奴隷商へようこそ。特A、A、B、C、Dランク——どれを見たい?」

 雰囲気バッチリの奴隷商人。正直不気味すぎる。キミ、瞳どうなってんの? なんか暗くない?

 呑まれてしまった俺は、案の定、

「ゼンブミセテヨ!」

 声が裏がっていた。恥ずい。帰りたい。


 ☆


 ふおぉぉぉー! しゅっ、しゅごい! 大金さえ稼げば、超絶美人を好きにできるの⁉︎

 異世界最高過ぎない⁉︎

 異世界に転生してから十八年。未だ俺TUEEEどころか、NAISEI未経験の俺は興奮を隠しきれなかった。

 日々、小銭を稼ぎ回ったかいがあったというものだ。


 とはいえ、だ。

 結論から言うと高い。異世界の奴隷は高過ぎる! 女優のように叫びたい気分だ。

 特Aの奴隷なんて話にならない。五年の稼ぎなんてミジンコである。

 クソッ、結局異世界も金次第ってか。前世で中卒だった俺の経済力はたったの3。雑魚め……!


 というわけで、あらかじめ温めていた秘策を切るときが来た。名付けて「売り物にならない奴隷、引き取りますよ」作戦だ。


「だいたいわかった」

 

 とりあえず何か頭良い系の台詞を吐いておく。こういうの雰囲気大事。アレン知ってる。


「気になった奴隷はいないのか?」

 と奴隷商。彼はきっと「なにがわかったんだよ笑」とバカにしているに違いない。

 どうやら俺に役者の才覚はない。能ある鷹は爪を隠す系主人公は俺には早かったようだ。

 しょせん俺は「バカですけど何か?」系主人公というわけか。嫌すぎるZE!

 

 もし商人が扱う奴隷がDランクまでなら用はない。

 それこそ帝都には腐るほど奴隷がいる。

 俺が狙うはあくまで掘り出し物だ。


「……他にはいないの?」


 意味深の表情で奴隷商人を凝視する。

 おいおい、てめえの本気はそんなもんか。俺の目はごまかせねえぜ。あるんだろ? とびっきりの隠し玉がよ、的なオーラを全身から放つ俺。ちなみに人はそれを体臭と言います。ただの臭い匂いじゃねえか! 凹む。


「!」


 俺の、全てお見通しデース。マインド・スキャン! 的な言動が功を奏したのか。

 こいつデキる……! と言わんばかりに目を見開く奴隷商人。

 おいおい、見くびるなよ。腰が引けてるぜ?

 

 問 奴隷商人の気持ちを答えなさい。

 答 バカ過ぎぃぃぃ! 

   不良在庫を押しつけてやれ!


 だったことを知るのはずいぶん後のことだ。


 そんなわけで連れて来られたのは、店の最奥——劣悪な環境だ。

 とてもじゃないが住めない。ここで取り扱われている奴隷たちに人権など存在しないことが五感でわかる。


「……彼女たちは?」


 若干、声音に軽蔑が入り混じったことは隠せない。

 俺は寝取られや陵辱、催眠系もイケるオタクだが、二次元限定だ。現実の女の子に酷い仕打ちをするのは萎えるどころか、殺意が湧く。

 

 目の前には二人の少女がいた。

 共通しているのは光を失っていること、片腕がないこと、痩せ細って骨が浮かび上がっていること。

 このまま放っておけば間違いなく栄養失調で死ぬだろう。


「耳の尖ったライトグリーンの髪の女はエルフでも最上位にランク付けされるエンシェント・エルフ。もう片方、銀髪の女はエルダー・ドワーフ。二人とも希少種だ」


 この世界には亜人と呼ばれる種族が存在しており、その中でも希少種がいる。

 それに該当する彼女たち、本来の価値は特Aを遥かに上回るだろう。健全な状態であれば。


「この奴隷二人をもらおう。いくらだ」

「では——」


 奴隷商人が提示してきた金額は俺の貯金が一瞬で吹き飛ぶそれだった。

 奴隷には人頭税がかかる。買主には衣食住を与える義務も発生する。

 希少種とはいえ、彼女たちを買うような人間はだろう。


 このときの俺はとにかく彼女たちに早く尊厳を与えてあげたく仕方がなかった。


 よもや二人の購入をきっかけに三年も経たない内に新たな都市が出来上がり、魔王にしだてあげられるなんて夢にも思わない。


 俺が勇者に危険人物だと認知されるまで残り1,000日——。

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