第一章ー4:エ○フとのワクワク(?)面談

*天馬視点です


「ふむ、この扇とやらは気に入りました。この材質や模様、私に相応しく綺麗に作られておる」


「気に入っていただけて恐縮です」


今朝進呈した扇をエルウェミニア殿下は体操気に入ったらしく、卓に座りながら扇を広げたりして模様を観察している。けれどその視線は冷めていて興味を持った程度にしか思えない。


これは俺が知っているエルウェミニア殿下の人物像とは違うとも言えながら違わないともいえる。覚えているゲームの知識では彼女は南に位置するオセアニア帝国の皇族だけど、オセアニアのダーク・エルフと北欧のフォレスト・エルフの混血児で皇宮では腫物扱いだった気がする。だとしたら今の我儘な性格が腑に落ちる。


とは言っても学院に入学してからの事件で主人公に助けられるとツンツンのデレデレのチョロインになっちゃうんだよね~。俺に対してはツンデレになってくれないよな~、愛称のエルウェンと呼びたいし。


この面談でエルウェミニアと話せるからラッキーと思ったんだけど、後ろの二人のせいで空気が妙になるから全然エルウェミニアと話も進まないし!何か視線が増えているし!


後ろに視線を向けるとそこにはこの数日間を覆すような奇抜な空間があった。一番奇抜な雰囲気なのは昨日の猫追いかけ事件からキャラが崩壊している武義だ。昨日のは捕まえて飼う事にしたらしく、今はなぜか首輪や尻尾のアクセサリーなどで漫才をやっているようにしか思えない。


「これはどう?」


武義の周りには物凄い量の猫用アクセが散らばっていて、その中でもとびっきり大きくギラギラした首に結べるリボンを黒猫に差し出す。黒猫の方がやや人間性がにじみ出るようなしれーっと仕草で却下している。


けれど武義は諦めず今度は尻尾に括り付けるシンプルな鈴のアクセサリーを手にする。


「この類は?」


「あんたもういい加減にしなさいよ、陽菜も自分が同じように迫られるのか気が気でないじゃない」


「陽菜もこういうアクセサリーをした方が可愛いと思う。その白い毛並みならこういう赤や青の色の濃いのが合うと思う」


ジャンヌは卓で座っている俺の斜め後ろで座布団に正座している。その横には武義から隠れるように陽菜と呼ばれた白い猫が縮こまって明らかに警戒している。陽菜の尻尾は股の間に隠しているみたいだ。


そこで月詠はうんざりしたのか諦めたのか、今まで猫特有のしゃがみこんだ佇まいから無数のアクセサリーの方へ歩いて行った。その小さな山を見つめて数秒、月詠は二つ鈴が付いている質素な深紅色の細いリボンを二つ加えて武義のもとに戻った。


「なるほど、二ともにお揃いのアクセサリーか。月詠が選んだのなら陽菜もいいか?」


「ほら貸して、私が陽菜のを付けてあげるからあんたは月詠のをやりなさい」


ジャンヌは月詠が置いたリボンを手慣れた仕草で陽菜の尻尾に括り付けた。武義も少し苦労しながら月詠の尻尾につけ終わり、ジャンヌの横にある座布団に正座する。


やっぱりこの二人は俺にとって異様に思えてしまう。勿論ゲームからの偏見はあるけど二人の性格と表向きの態度から考えてもこの世界の普通とはかけ離れていると思う。


ジャンヌはゲームでは無口無情で冷徹な悲劇ヒロインだったのに武義以外には突き放すようなギャルっぽい性格で、本人に対してはそっけない口調だけどいろいろと気遣っているのがわかる。武義は普段から無表情で何を考えているのか読めないし敬語以外は使ったところを見たことない。たまぁ~にジャンヌやなぜか猫の前で普段の性格がぐらつく程度だ。


猫のアクセサリー大選挙を一部始終微笑ましく見ていたエルウェミニアのメイドと執事も当然かもしれないけどゲーム内では登場していない。おそらく後の学院生活でエルウェミニアの過去を聞くからにしてこの人たちに何か酷い事が起こるのは知っているが、そこは詳細があまり語られていなかった。


俺の視線に気づいたのかアルレントというメイドがクスクスと笑いながら話す。

「天馬様の護衛達は個性豊かですね」


「あ、そこ訂正するね、私たちは護衛じゃないから。私は辰の上の養女でそこですまし顔をしている猫好きは...ってこれ言っていいのかしら」


「あっ、すみませんでした!ジャンヌ様が辰の上家のご令嬢だとは知らずに!」


慌ててぎこちなく頭を下げて謝ってくるアルレントに対してジャンヌは構わないと簡単に許す。あまり気にもしていない様に見えるが、なぜ武義が婚約者だと言わなかったのか少し疑問に思ってしまう。


なぜかジャンヌは目にもとまらぬ速さで武義を小突いたような気がする。


あ、悶絶してる。


「ふむ、やはり卓でこの様にお茶を飲むのは億劫だ。そこの縁側で私の接待されよ」


「殿下、ここは皇宮ではありません、そして殿下は国の代表と言っても過言ではないのです。もう少し言動に気を付けられた方がよろしいかと」


「くどいぞ、アルフレッド」


ジャンヌとゆかいな仲間たちのアクセ選び大団円には目もくれず、エルウェミニアは扇を閉じて縁側に移る。アルレントの方は慌てているがアルフレッドは小言は言いつつも彼女のそばにお茶と茶請けを手の届く範囲に置く。目配せをされたが恐らく合わせてほしいのだろう。


「エルウェミニア殿下はヤマトで他に何か興味がわきました?」


縁側に俺も移って話しかけてもやっぱりエルウェミニアにはガン無視されている。むしろゲーム内では好きだったヒロインにこういう対応されて夢がボロボロ崩れてしまっている。


大人のムフフなシーンを考えたら...いや、横にいる人物を考えれば全然思い浮かばねぇ。...本当に皇女なのか?物凄い我儘なんだけど。


いろいろと面倒臭くなってきたので反対側を見ると猫たちが日向ぼっこしている。というか正座しながらも目をうっすら閉じているジャンヌと武義も一緒になって日向ぼっこしているようにしか思えない。


そっちはそっちでまったりしているな、おい?!


「して、武義様、つかぬ事をお伺い致しますが、よろしいでしょうか?」


「構いません」


エルウェミニアをアルレントに任せたアルフレッドが武義にさぞ普通に接する。対して武義はピクリとも動かず、目も開けずにアルフレッドに答える。


「あなた方様が龍神学院で紫苑様の役目を引き継ぐとは本当ですか?」


明らかにその質問は予想外だったのか、武義とジャンヌ二人ともがアルフレッドとエルウェミニアの様子を伺っている。公開していい話ではないのは紫雨さんから聞いているからわかるが、屋敷内で他国の重要人物が耳を立てていな方がおかしいじゃないかと思う。


「そう警戒しなさんでくださいな。紫苑様とは学院生の頃から縁がありましたのでその時に偶然知ったのです。出来れば明日のリョースヘイム皇国の第三皇女との会談での警備についてお話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「明日の警備に関してはもう決まっている筈です。一体どのような話...をする必要はありませんね」


「ああ、そうでした、私とした事が。申し訳ございません、年を取ってしまうと忘れがちになってしまうので」


縁側で行われている唯一の会話に耳を傾けていると横から急に声がした。


「おい、そこの男子」


「ちょっ?!殿下、以前説明したように彼は辰の上家の次期当主です。いずれ殿下の同級生にもなりますので穏便に!明日の会談では彼も代表として顔出しをするのですから!」


はぁ、とため息をついているエルウェミニアの斜め後ろに佇んでいたアルレントは慌てふためいていて可愛い。とは言っても苦労人なのがちょっとかわいそうだ。


あと小声で話しているつもりなんだろうけど少し怒っているせいかアルレントの声がまるまる聞こえてしまう。そのせいで考えたくない明日の会談の事を思い出させられた。


「あの女との会談に顔を出さねばならんのは億劫なのだが...天馬とか言ったな?私が何か興味わいたかと聞いたな。明日の会談の前にバッティングセンターやゲーセンとか言うのに私を連れていくがよい」


「「「...へ?」」」

「は?」

「...」


エルウェミニア皇女殿下は庶民の娯楽を経験したいらしい。

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