第一章ー1:ネコ~~~ッ!!
*武義視点です
「なんで抜け出すんだよっ!」
「いや、ついてきたのはあんたでしょっ?!なんで私たちが文句を言われなきゃならないのよ?!」
「シュール、だなっ」
「いや和装で抜け出してきたのはお前たちだよ?!普通抜け出すなら動きにくい服装になる前に逃げだすのが常識だよね?」
と、さっきから何度も元気よく突っ込んでくれている辰の上家の跡取り様も面談をすっぽかしているけど。しかし意外にも身体強化の魔法とか体に馴染ませているあたり、‘転生’を果たしたにしても体が覚えているのか?あるいは先日言っていた美少女ゲームの知識をそのまま応用しているなら、それはそれでこいつは天才かもしれない。
とは言っても紫雨さんが追ってこない...面談なんて面倒だからそれはそれでいいけど。
<でもどうするの?あのババァの事だから絶対にこのまま逃がしたわけではないわよ?>
<まあ、面倒事を押し付ける本人が一緒に脱走したからなぁ...>
<それは確かに...なんかワンころみたいに懐いているわよね、私たちに>
ジャンヌは枝の上に静止して寛大なツッコミと全速力で走ってきた俺たちについてきた天馬を見て思う。
「というか着物って可愛い事は可愛いけど本当に動きにくいわね。なんか~あの傘妖怪みたいにぴょんぴょん跳ねないと速度が出ないからちょっと嫌だわ」
「その割にはジャンヌはかなり身体能力がいい方だと思うよ、そのような格好でかなりの速度出してたから。けれど武義は弓道のための服装みたいなの着ているのにそこまで息切らしているんだ?俺が言うのもなんだがもう少し鍛えた方がいいんじゃね?」
反論しようともいまだに息が整っていないから何も言えない...事が逆にあいつの言う通りだから反論ができない。いや、俺は凡人に毛が生えた程度の身体能力で魔法の強化もできないのに藪の中で身体強化をした二人に追いついてはいるんだから褒められるべきだ。
<はいはい、よくできましたねー、とは言ってもあんた鍛えてどうにか出来るわけでもないからね>
<まあ、それは女神様が言った通り迷宮でどんどん殺さなきゃいかんからのう...世の中厳しいもんじゃ>
<なぁ~に急に爺臭くなっているのよ...>
いまだに息を整えられず膝に手をつけていた俺の横にジャンヌは優雅に飛び降り、服に引っかかった小枝や葉っぱを取って綺麗にしてくれる。
<それでもあんたも私も強くなるには同じ人族だけでもなく魔獣や魔物をたくさん倒さないと。約束のためにも>
<ああ、あの人に会うためにな>
天馬は俺たちが無言無表情で佇んでいるのが物珍しいのか、さっきから不思議そうに俺たちに視線を送っている。もともと魔法で探知できない念話で話している以上、無言でジャンヌが息が整ってきた俺を世話しているのは妙に見えるのかもしれない。
...ーん
「ん?」
「どうしたの、タケ?」
「どうかしたのか、武義?」
「...何か聞こえなかったか?」
「いや、俺は何も」
<この敷地内に人や害ある魔獣とかが入れるはずがないわ、あのくそばばぁがいる以上。小動物じゃないの?>
...にゃー
「いや、何かいる!猫だ!」
「へ?」
「ちょっ?!せっかく身だしなみ整えたのに!」
猫の声がしたのは林の奥の方からだ。探し出して保護するために全速力で声のした方向に藪の中を突っ込んでいく。後ろからは俺の行動に慣れているジャンヌがすぐに追いつき、面食らった天馬が少しだけ遅れてから追っかけてくる。
にゃーぅん
「こっちだ、早く保護する」
「いやいやいや、ちょっと待って。なんで何事もないように武義は猫の鳴き声をそこまで必死に追いかけているの、そして何でジャンヌは当然の様に受け入れているの?お前もっとクールなキャラだと思っていたんだけど?!」
「ああ、言うの忘れていたけどこいつ普段はクールぶっておきながら猫に関しては目がないのよ。たま~に任務中で野良猫を助けたりして面倒事を起こしたしね...それ以外はウザいほどに面倒事を迂回するんだけど」
確かにあの時は面倒事になったけど猫が轢かれそうになったから救わざるを得なかった。猫は可愛いし可愛いは正義だから猫はもちろん正義で守るべき対象だ。
<だからそういうところが抜けているのよ...女神さまにも注意されているのに>
<いや、猫は可愛いからね!>
<だ~か~ら~無我夢中で追うなつってんでしょーがーっ!ほら、前>
「へ?」
ゴッ!
―――...
「...ってぇ」
「はぁ、だから言ったでしょ?あんたたまぁ~に周りを見なくなるし、右目見えないんだからちゃんと周りに気を配りなさいよ」
俺は多分死角から迫ってくる気に気が付かなくてぶつかったのだろう。ジャンヌの補足だと気を失って数分もたっていないみたいだ。
起き上がったら横から天馬が心配そうに覗き込んでいる。
「お前、大丈夫か?額割れてるぞ?」
「ああ、猫を保護してくれてありがとう」
「いや、そこかよ。つーかそれ手当した方がよくね?俺治療魔法使えねぇんだけど」
苦笑いしている天馬の腕の中には少し幼さが残っている顔立ちの真っ黒な猫がプラ~ンと垂れ下がっている。ただ、猫というより尻尾が二つもあるからには猫又の方が正解だろう。
「ああ、これぐらいならつばつけとけば平気よ。それっ」
パチンッ
ジャンヌは口に含んでいた水分反応型の応急絆創膏を額の傷に平手でつける。
「ああ、すまない」
<てめぇ、覚えてろ...>
「どういたしまして」
<いちいち手間かけさせんな、バァカ>
ジャンヌは目が笑っていない笑顔で内面を念話でぶつけてくる。
「おっとっとっと、どうしたんだ急に?」
「ん?おお、これは始めまして猫さん」
天馬の腕の中から捩って抜け出した猫又てくてくと俺のもとに小走りで寄ってきた。頭をこすりつけているからしてかなり人懐っこい方だが、念話を使っていない以上やはり幼い方だろう。
「どうかしたのか、猫さん?向こうに行ってほしいのかい?」
猫又は喉を鳴らしていらず、頭を擦り付けては林の奥に顔を向けて尻尾で膝辺りをテシテシ叩いている。
「にゃぅ」
と、肯定するかのように鳴いた猫又は林の奥の方に走っていく。
「追うのか?」
「無論」
<でも気が付いているわよね?向こうに何人かいるわよ>
<ああ、でも気配を隠していない以上よほどの馬鹿か今日のお客さんかもしれない。というか追いかけないと見失うからそれは遭遇したら考える>
と、猫又を追っかけているうちに見失ってしまい、林の中の空いている場所にたどり着いた。そこには桜の木が一本立っており、呑気にお茶をすすっている黒髪のエルフと警戒心を丸出しにしている女執事と表情が読めない老執事が佇んでいる。
猫又は姿を消していたけど空間を把握していたらわざとわかるような痕跡を残していた。けれど驚いた事に別の生き物をかばっているらしく、俺たち以外には警戒して姿を見せる気がないみたいだ。
<
<わかっている...>
<本当にわかっているの?さりげな~く自分だけ猫又とあの傷ついた魔獣を回収しようとか思っていないわよね>
<...>
<思っていないわよね...>
一回り声音が低くなった思念が物凄い圧と共に送られてくる。
「あなた達、もしや辰の上家の者でしょうか?」
「ええ、そうです。貴方様はエルウェミニア殿下とお見受けします。このような姿で出迎えることになってしまい、申し訳ございません」
「構わぬ。私はここが気に入ったからここで面談しても構わないぞ」
エルウェミニアという黒髪のエルフはその場を仕切るかのようにふんぞり返りながらお茶を優雅に飲む。
ジャンヌが応対している間に天馬がこっそり話しかけてきた。
(なぁ、あれメインヒロインの一人なんだけど...)
(今は辰の上家の客人で隣国のお姫様だからくれぐれも言動に気を付けてください)
(...猫追っかけてたお前が言うんかい)
と、話しているところに空から災いが降ってきた。
<5時斜め上に盾を展開>
ジャンヌは一瞬で反応し、魔力の盾を編み出した。
けれどそれはたやすく蹴破られ、ジャンヌは飛来する拳を両腕で防御した。回し蹴りは腕がしびれていたようなので魔力の盾を展開し、軌道をぎりぎり逸らしたが頭を少しかすってしまったみたいだ。けれど抵抗はそこまで見たいで後ろに回られてしまい、膝カックンされてしまった。
<アコレマズイ>
そして見事なジャーマンスープレックスをかまされた。
「あ、こっちもまずい」
空間把握の能力があるからこそコンマ数秒で襲ってくる脅威を感じてしまう。目の前から迫ってきているから身構えたら目では追いつけない速度後ろに回られてしまった。
ドスンッ
向こうにしてはただ背中を押しただけだろうけどこちらにしては肺の中の空気が全部押し出された気分になった。後ろを見るとスーツ姿の美女が物凄い迫力の笑顔で睨んでいた。
「ねぇ、貴方達屋敷から逃げ出してこのような場所で何をしているのかなぁ」
そこにはジャンヌと天馬の義理の母親で辰の上家現当主の辰の上紫雨が悪魔の笑顔で仁王立ちをしていた。
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