第454話 ゆったりと・・戦闘訓練


オークションが終わって少し時間に余裕ができた


領地に帰って【清浄化】で後方支援してきても良いんだけど信徒に集めてもらってる食料の受け取りもあるし時間が出来た


あまり同じ場所に長く【清浄化】を打つと眩しくて周りが見にくくなるし仕方ない



ここのところ魔力がものすごく増えている気がする



以前よりも大きな【清浄化】や魔法が使えるようになったし


魔王討伐よりも前にこうだったら良かったんだけどな・・・


今であれば空も飛べるし詠唱も要らない


詠唱もいらないし壊れないこの杖にいくらでも魔力を込められる、聖剣もカジンの捕縛布も毒もある


以前とは比べ物にならないな


大人モードのほうがパワーが出るし、そろそろ使い慣れてきたから大人の姿で戦闘訓練でもしよう



「1,2,3!!」

「1,2,3!!」

「1,2,3!!」



修練場を覗く


ヨーコに習ったのか何十人かで武器を振っている


1で袈裟斬り、2で横薙ぎ、3で武器を持ったまま転がる


武器を持ったまま転がるって慣れれば簡単だけど慣れないと自分で自分の武器を踏んで武器を握った手を痛めたり、刃で肘や腿を切ってしまう


未熟であれば防具をつけていると地面に引っかかったりして転げなかったりもするが、熟練すると防具を利用してスムーズに転ぶことが出来たりもする


良い訓練だ



「あ、聖下だ!」


「「「「お疲れ様です!」」」」


「うん、頑張って!」



杖を取り出して【範囲治癒】と【範囲体力向上】をかけておく



「「「「ありがとうございます」」」」



僕も体を動かしたかったのだけどここはそういう空気じゃない


列を乱さず、部屋いっぱいに訓練してる横で身体が動かしたいんですって上司がいたら気が散ってしまうだろう



ひっそり鍛えたかったんだけどな


邪魔しても良くないし闘技場に向かう



闘技場でははるねーちゃんがせーちゃんと戦っていた


お互い、刃はついていないのだろうけど金属の武器をブンブン振っている


ここではいつも誰かが鍛えているけど、集団訓練はやってないみたいだし端で鍛えるのには良いかな



「あら?見学ですの?」


「たまには僕も身体を動かそうと思って」


「それではお相手願えますか?」



指導していたのかヨーコは泥だらけだ


こちらの闘技場はとても広い


危険な戦闘訓練はこちらでやっている




「止めとく、大きな体は力が強いから少し確かめに来ただけだし」


「・・では訓練を手伝ってはいただけないでしょうか?」



木剣を渡される・・・ん?



「元杉に稽古をつけてもらうといいでしょう!皆!準備なさい!完全装備ですわ!」



闘技場の端で固まっていた聖騎士候補の皆、一応聖騎士部は人も増えてきたけどまだ練度が足りていない


既に訓練後だったのか土に汚れた聖騎士候補の人達がノロノロと前に出てきた


はるねーちゃんたちも戦闘をやめてこちらを見ている



「僕、やるとはいってないんだけど」


「元杉、彼らは警察相手でも戦えてしまっただけに調子に乗ってしまっているのです、ボコボコにしてやってください」



困り顔のヨーコ、彼らが自信を持つのは良いことだと思うのだが調子に乗っているのであれば話は別だ


傲慢な態度を取れるまでに実力があるのであれば問題はない


だが未熟で調子に乗ってしまっては伸びるものも伸びず、腐ってしまうやも知れない



「全員低級ですが護りの装備をつけていますし大丈夫です」



なるほど?


たしかに向こうの軍隊で上役が命じているのにノロノロ動くなどありえないな


教官役に何人か連れてくるべきかもしれないな


今日は僕がやろう


前に出て木で出来た剣を少し振って、重さと耐久力を確かめる




「えっと、聖下・・・本気でやるんですか?」




前に出てきた一人が剣を肩に肩に載せながら問いかけてきた



「本気でってどういうこと?」


「だって怪我させちゃいますよ、俺達もう魔力の操作も慣れてきたんスから」



・・・・・ちょっと驚いた



本気で僕に怪我させてしまうと心配している


たしかに彼は30手前で筋骨隆々な身体をしている


きっと自信にあふれているのだろう



「・・・・・・・・・・へぇ?」


「だから、その、怪我させたくありません、俺の家族を治してもらった恩人ですし」


「聖騎士候補の山田さんですよね?」


「はい、山田薫です」


「じゃあ部下だし敬称はなしにさせてもらうけどさ、山田」


「なんでしょう?」



年上の人を呼び捨てって未だに慣れない


向こうでもそれが普通なんだけど、誰に対してもそうするのはなぜか慣れないものだ



「本気で来て、死なないように努力して欲しい」



ぽかんとしている山田、この手の人は多い


年齢というのは一つの判断基準になる


若いということはそれだけで経験不足がうかがえる


ヨーコのような長命の小人やエシャロットやビーツのような獣人であればその限りではないが人同士の戦いではそうやって見極めるのはよくある


若ければそれだけ力強く動き、歳を取っていれば弱くも見える


逆に年取ってるように見えるおじいちゃんが凄く達人に見えることもある


少なくとも年齢は経験値や実績を示すことがある、僕が弱く見えるのは当然だろう



「ほら来て」


「・・どうなっても知りませんよ?・・・行きます」



少し迷ったのか飛び込んできた


脇の高さ、腕のあたりを狙いに真横に剣を振ってくる


ここなら当たっても命に関わる怪我をしないだろう



刃の付いた剣だしね



飛び込むように振られた剣


なるほど、全体重を剣にのせることも出来る良い練度だ



当たる寸前、動かない僕に驚いた顔をしている



「っ・・・!!?」


「振り切っても良かったのに」



間に合ってない程度で寸止めしようとした山田の剣をつかみ取り、わずかに引いて体制が崩れたところに木剣を首筋にほんの少しだけねじ込んだ


飛び込んだ勢いをそのまま引かれたのだから目測がずれたのだろう


訓練期間にしては良い練度だ



「この程度の剣なら振り切っても僕は怪我しないから、ほら試しに腕に当ててみて」



何重にも張っている【魔力障壁】


その1枚も割れない



「思いっきりね」


「・・・・・はい、行きます」



ガィンっ!!



足を浮かせて全体重がのった剣、ただそれでもダメージにはならない


この人、さっきも思ったけど武器に自分の重みをのせるのが上手いな


剣は大きく折れた



「ほらね?体重のせるのは上手いね」


「あ、ありえな・・いえ、ありがとうございます」


「うん、次は僕も打ち込むから、思いっきり来てね」


「はいっ!!」



できるだけ優しくしないとね


やっぱり訓練でも事故で即死の可能性はあるし

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る