第400話 英雄シーダリア


力の強さだけなら相手の方が上だろう


剣は鋭く、近付き難い



ならもっと近付きゃ良い!!



「ぐっ?!」



剣が俺の頭を割る前に、更に前に出て剣帝の全身に打ち込む


なかなかに強い相手だったが俺のほうが強かった



「うぉおおおおおおおおおおお!!!」


「「「「わぁあああああああ」」」」



闘技大会での勝利、名のある者共を打ち倒せた


これで金が手に入る


故郷の仲間を癒すのに大神官を派遣してもらうのだ



「いやぁお強い!」


「さっさと金よこせ、殴るぞ?」


「ちょっ!?ま、待ってくださぃ!!これは慣例でして・・」



面倒くさい


だけどこういう儀式や慣例は大切にしないと賞金自体がもらえないかもしれない



「慣例?」


「そう!大会の勝利者には豪華な料理と酒!そして賞金!さ・ら・に!!我が領地の騎士の受勲なども!!!」


「さっさと金だけよこせ、騎士とか冗談じゃない」



この貴族はアホではなかろうか?


俺はさっさと金が欲しい、条件は満たした


なのによこさない



「ま、まぁそういう方もおられますが・・コホン、とにかく賞金は明日の授賞式で渡すこととなっております、今日のところはゆるりとお過ごしください」


「今よこせよ」


「大会ではやはり負傷者も出ますし、大会の翌日までは治癒してもらって武具や賞金の授与式を行います・・・彼らにも名誉もありますれば」


「ちっ、わかった」



明日には金が手に入る


戦った者にも礼を尽くすべきだし、それに戦士としての名声も悪くはない


戦士としての名が上がればそれだけ軽く見られないことを意味する


戦争で雑兵相手に使い捨てのコマにされるのは耐えられない



やるのなら強者と戦いたい



この苦しい時代だ、どうせ死ぬのならせめて役に立って、生きた果てに死にたい


まぁやることはやった、あとは金を貰って帰るだけ


この地にはダンジョンもあるらしいし行ってみたい気もするがとにかく金を届けることを優先するべきだ



・・・・・・・なんて思っていたのだけど






チャリリ





「起きたのか?ようこそ、生き地獄へ、長生きさせてやるぜ?」



体が重い


何か盛られたな


身体を確かめる


あるべきものがなく、入るべき力が入らない



舌が・・・無い!!!?????



拳も握れず、足の筋が絶たれている



ゴスッ



「まずは調教なんだわ、まずはここのルールを教えよう」



ゴッ



「ここでは長生きすること」



グチャリ



「大人しく言う事を聞くこと」



ゴキッ



「たったそれだけだ、おっと治してやるから落ち着いておけ」




メイスで壊されては不完全な治癒をされた


俺のような存在は何人もいた、同じように片目を潰され鎖に繋がれている


知ってるやつも居る、皆英雄やそれに準ずる者たちだ


みんな死んだ目をしている



何なんだここは



まだかろうじて目の光が失われていない白エルフが目の前に並べられた


わずかに足を揺らして肌をぶつけることでエルフに伝わる暗号法で会話を試みる



-ここは?-


-新人、地獄よ-



まばたきと肌の接触でなんとか通じたがここは魔王の部下のやっている英雄をつかまえるための牢屋であり、あの闘技大会自体が仕組まれたものだった


このダンジョンの中は加護をくれた神も見通せない


この領地にはダンジョンもあると聞いていたからそれに潜っていると神は考えるのだろう


流石に死ねば神は加護を与えたものが死んだことを理解するがそれをさせないように監視が居る



加護は神の力を分け与えるものだ



であれば加護を与えることで神は力を分散する、加護を授かった者が死ねば神の力はじきに戻る


だからこうやって闘技場で加護を授かったものを集めて、生かしている


生かすことで魔王を脅かす英雄を世の中から減らせる






っクソが!!!!







クソクソクソクソクソ!!!!!!!








何が賞金だ!何が貴族だ!!何が英雄だ!!!!!!!





この空間では絶対に逆らうことが出来ない


生き続けることができればどこかの神が察知してくれることもあるかもしれない


加護を授かった者が命を自ら断つなんてことも赦されることではない



だから皆待っているのだ、いつか来るかもしれない好機を




だが長くいればそれだけ毎日体をぐちゃぐちゃに壊され続ける




何度も骨を潰され不完全な形で無理やり治され、生きるために残された歯と片目、命令を聞くために残された鼓膜以外、まともに使い物にならない


手足もなんとか動く程度



特に俺は素手で殴り合う加護を授かっていて念入りに壊された



加護も神から一方的に力は送られてくる


素手という条件であれば無類の強さを誇る俺は諦めずに何度もここを脱出しようとした


全身を何度も焼かれてぐちゃぐちゃの肌、肉自体を削ぎ落とされては治され、ゴブリンよりも醜くなってしまった化け物


あまりに反抗する私には残った目も焼きとじされてしまった



名前もわからないが狼のような獣と白エルフに面倒を見られた



これ以上は生き恥だと死のうしてと飲まず食わずでいれば腹から胃に穴を開けられ、直接入れられる



いつの間にか俺は助けを求め、祈ってしまっている



武人としてこれほどの屈辱があるだろうか?

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