第387話 怒られる元杉神官、親との触れ合い


信徒の軽い怪我を治していたらミルミミスさんに連れて行かれた



「ど、どうしたんですか!?ご飯!??」


「キュクルルル」



何かわからないけど服をしっかり咥えられて廊下を飛んでいく


ルールに乗った遥も来て、ドアの先で元杉神官がぽかんとしていた


落ちて燃えている、元杉神官の腕


私は元杉神官の腕がはえていることを確認して心配だったけど遥は自分を大切にしない元杉神官を怒り始めた


すぐに栄介お義父さんと詩乃お義母さんが来たのだけど詩乃お義母さんが泣いてしまった


私や遥が注意すると少しだけ改善されることもある



詩乃お義母さんが泣いて注意してのを見るのは初めてだった



「ごめんなさい」


「よーくんを怒りたくて言ってるんじゃないの、はるちゃんもなみちゃんもね」



ボロボロと泣いてしまった元杉神官


年齢は16か17、異世界の時間を考えればもっと上か下の可能性もある


11歳で異世界に行って交通事故で頭を強く打って頭蓋骨も割れたせいかそれまでの常識がふわっとしている


その時点を0歳とすれば今精神年齢は5歳ぐらいか?もう少しは上だとは思う



常識を学ぶのに親は重要だ



子は親の背中を見て育つというけど親の仕草や所作、常識を見て何気ない日常からも学ぶ


武将な関羽さん、多重人格で結構クレイジーな部分もあるけど大人しくなったせーさん、すぐ殴るシーダリアさん、マフィアみたいなビーツさん


彼らみたいな人達といてその背中を見て学んだのだとしたらどうだろう?


元杉神官の常識は平和ボケしていると言われる日本の常識とはあまりにもかけ離れている


貴族や法律は無視するし、自分が傷つくのも傷つく可能性も全く考慮しない


大柄な力村さんのパンチを顔面で受け、竹村さんの短刀での体当たりも、オーク相手に胸を槍で刺されて自爆したのも、ヨーロッパで銃をその身に受けたのも、本人は全く気にしない


食べ物もゲロ不味いスープをいつの間にかのんでしまう


痛みも味も感じるようだけど「慣れた」で済ましてしまう


ゆっくりといつも何かを食べているかと聞くと「体が透けてしまわないようにするのと戦うのにお腹空いてるのもいっぱいなのもよくないから」と言われる



痛みにも、吐き気のするような味にも慣れてほしくはない



戦うことを前提に生活しないで欲しい



遥の料理も微妙な顔をしながらも美味しいって言って食べてるけどもうちょっと自分を大切にして欲しい


ボロ泣きする元杉神官だけど詩乃さんたちとこうやって触れ合っているのを見たことがなかった


せいぜい生き返ってすぐの対面ぐらいでこうやってグズったり甘えているところは初めて見る


詩乃さんも「自分が危なかったら武力の行使はしてもいい」なんて日本の常識からは少しずれているけど元杉神官の現状からしたら必要だよね



コンコンと諭される元杉神官だけど普段私達の説教は通じないことがある、だから康介さんも遥も直子お義母さんも結構教育的指導をする


あれはあれで効果があるから、うーん・・・・これでもう少し自分を大切にしてくれると良いんだけどなぁ



<ちーん、うぅ、もっと甘えてると良いですぅ>


「私の服で鼻をかまないでください」



少し離れた場所で私にだけ聞こえるように肩にいたレアナー様が言った


でも、私は元杉神官は今のままでいい部分もあると思っている


だって頭おかしい仲間のいる中であんなにも人に優しく出来るのだから



レアナー様には本当に感謝している


『魔王を倒して、親を生き返らせる』その目標のためには別に難民を助ける必要はまったくないのだ


なのに倒れる難民を、困っている人に優しくできている


そして理不尽には塞ぎ込まずに立ち向かうことが出来ている



レアナー様が彼と一緒にいてくれて本当に良かった


『はるねーちゃん』も記憶の中で生きていて良かった



興味津々に色んな場所に行ったりするのは遥によく似てるよ



元杉神官が大きく泣いた後、落ち着いていると患者が次々と運び込まれてきた


たっぷりと栄介さんと詩乃さんに元杉神官は諭されていたんだけど仕事が舞い込んできて新たなお客さんを見に行くことになった



「元杉神官」


「なに?」



少し沈んだ元杉神官、私からもお説教されるとでも思ってるのかな?


子供に戻った元杉神官、可愛らしいし抱きしめたいがぐっと堪える



「大好きです、行きましょうか!」



元杉神官の手を引いて治療を待つ人に向かう


私も言葉にしたのが恥ずかしくて元杉神官の顔を見ることが出来ない


引いた手の体温を感じながら足早に廊下を進んだ

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