第377話 彼を追いかける
働けるようになって先生の事務所を訪れたがもうその建物は無くなっていた
少しがっかりしたけどいつか会える、会えなくても立派になった私を見てもらうんだと頑張れた
バイトして、勉強して、弁護士資格に向けて一生懸命頑張った
元杉先生のいる弁護士事務所で働きたかったけど別の事務所でバイトし、修行を積んだ
別の弁護士先生に世間話で何故弁護士を目指すのかと聞かれて元杉先生のことを話した
「昔助けてもらった先生でずっと会いたいんです」
「ほう」
「会ってお礼が言いたくて・・でもどうせなら弁護士資格をとってから会ったほうが良いかな?なんて思ってたりもします」
「立派だねぇ興信所なんかで調べなかったの?」
「施設に預けられたのでお金がありません」
「ネットで調べたら?まだ弁護士業を続けるなら出てくるでしょ」
「え?調べられるんですか??」
あ、そうだ
そういう調べ方をしている先輩も居たはずだ
だけど私はお茶くみに掃除に、子供の世話、お茶菓子の買い出しに観葉植物の世話、書類のコピーと資料の整理、会議室のセッティング、予定の書き込みに電話の受付、次から次に舞い込む雑務
それだけで必死だったので考えることも出来なかった
「時間はかかるかもだけど調べられると思うよ、今はネット社会だしね」
「教えてくださりありがとうございます!!」
名前とおおよその年齢しかわからない
都道府県ごとにある程度調べることが出来るしそれからの日課でポチポチと調べることにした
日課、いや、違うな、自分の空いた全ての時間を使って調べた
同じ名前のヒットがいくつかあって困ったが調べていくとネットに写真が載っていた
胸が痛い、顔が熱い、腕に力が入ってしまう
モニターから目が離せず、あの頃よりも歳をとった彼に目を奪われてしまった
私を地獄から救い出してくれた彼
調べると精力的に活動していて、マリンスポーツや釣り、登山なんかも趣味にしているようだ
私も体を鍛え始めた
とは言っても施設で子供の面倒を見て毎日働いていて、事務所で暴漢対策なんかのレクチャーを受けていた私はそもそもよく鍛えられていた
また会える日を夢見て、私の日々は充実していた
「こんにちは絵美ちゃん」
「こんにちは」
ネットで調べるといいと教えてくれた弁護士先生が近くに来たからとお茶菓子を持ってきてくれた
来客用のお茶を出す
絵美ちゃんというと馴れ馴れしいが単純に事務所に村田が三人いるからだ
「絵美ちゃんの探してた先生の事務所なんだけどさ、これからその事務所に書類を持っていくんだけどついて来るかい?」
「でも仕事中ですし」
「大丈夫、いつも頑張ってる絵美ちゃんのためだって言ったらすぐにOK出してもらえたよ、少し遠いけどね」
「行きます」
夢にまで見た彼と会える
涙が勝手に出てきそうだ
胸が鳴りすぎて煩いとまで思う
いや、今日は姿を見るだけ、先生に断って廊下の影でこっそり姿を確認した
彼の左手の薬指には指輪がはめられていた
不思議と悲しくはなかった、むしろ誇らしい
あれだけ素敵な人なんだから結婚していて当然だろう・・・少しだけ胸がチクチク痛んだけど
私の初恋はいつの間にか愛になっていた
彼が幸せならそれで良いのだ
弁護士の資格を取って働き、やっと貯められるようになった金で美容整形を考えた
物を投げられた時に首筋を切った痕を消して、全部とは言わないまでも見える位置の傷ぐらいは綺麗にしてから彼にお礼を言いたかった
そんなとき、魔法というものが世の中に現れた
弁護士の伝手でも条件は聞こえてきたが・・怪しすぎた
聞いたこともない神様、お布施のような形でとられる高額な金銭
入信や月々の給料から金銭をとられるそうだ
酷いと思う、人の弱みに付け込んで悪いことをする
私のところにも相談が来るかもしれないな
いや、ここまで盛大に放送されればすぐに捕まるだろう
気になったのは魔法少女の判明した名前、元杉洋介
先生と同じ姓の屑がいたことが腹立たしい
次々舞い込むニュース、スポーツ選手が治ったと聞いて本気で驚いた
その中で更に驚いたことがある
治療された中に、彼がいた
私の愛している彼が重度の癌で入院していた
足元が崩れたような気がした
もう少しだけ私の生活が安定したら、顔を出す予定だった
大学は特待生とは言え全てのお金を返せていたわけではない、再来月の給料でようやく真っ当にすべての金銭の処理ができるはずだったのに
全く知らなかった
もう、治ったと聞いて心から安堵した
しかも治したのは詐欺師の屑だと思っていた魔法少女元杉洋介であって、しかも康介さんの甥っ子だった
すべての仕事を終わらせてレアナービルに向かった
ビルごと光ったとか眉唾な情報があったものの情報通り行列ができていて、強面な人間が多い
中は普通の雑居ビル、怪しすぎる
康介さんはいなかったがニュースで出てきた・・彼の甥である元杉洋介とは話すことが出来た
条件通り、私の持つ全ての金銭の半分を支払うことにした
7万2千936円
私にとっては大金だ
けどこんなに安くても良いのか?
私はまだ返すものが多く、金銭だけであればこれしか持っていない
初めて出会った神様はなぜかにやけながら「大丈夫ですぅ」と言ってくれた
半透明だったのに普通に話しかけてきて不思議な気分だ
信徒になって、給料から1割ほどとられ続けることも了承する
康介さんも信徒だしね、もしも治らなくても康介さんの目を覚まさせることが出来るかもしれない
信徒でない状態から治療を受けるのに全財産の半分、信徒であれば毎月仕事で入った金銭から1割、大きな治療のたびに少しお布施しないといけない
元は信徒でも月に2割3割と厳しかったらしい
どうやら神殿の経営方向を迷っているらしく「これからもっとアオキチキューに条件を合わせたりして内容も変わるかもしれない」なんて言われたが・・・信徒になった途端にここまで話しても良いのか?
女神様と話して心配になってしまう
私がお金について色々聞き出そうとしたからか内情まで話してくれたがとにかく治してもらうことになった
「いくよー」
杖を振った魔法少女くん、本当に女の子みたいだけど男の子なんだよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます