第361話 教国と仲間と軍と神々とザウスキア


聖王様からは異世界から数時間おきに手紙が届く


聖王様には情操教育が足りていない、神の世界の事情によって作られた歪な存在



そしてそれは聖下にも言える



彼がこちらに召喚されたのはまだ子供で、レアナー教ザウスキア支部の神殿によると召喚の不具合か頭を割って瀕死だったようだ



親を失ったばかりで記憶も危うい、とても不安定な子供



世界を託された最後の勇者、なのにあまりにもちっぽけでか弱い存在



あやふやにしか物事を覚えていなかった



だが親への愛は本物だった



親の復活を釣り針にかけ、神々は彼を釣った



その針は彼を大きく傷つけただろう



運命の神ユーレウラギスと私の最愛の神レアナー様の加護を授かって、魔王を斃す旅に出た


ユーレウラギス神の加護は呪いとも言われる


人の器を広げ加護を授かる限界を越える


人が授かれる神の加護は多くても2神分か3神分


しかしユーレウラギス神の加護を授かればその上限は無くなりはする



以前聖域で神に聞いたことがある



人の体を一つの家として加護を授かるのはその家に神が住むということらしい


もちろん神にも住みやすい部屋や好みがある


神はその家を自分好みに作り変えるし、どうしても受け入れられない場合はその部屋を壊すこともある


相性が悪ければ入る前から焼いてしまうこともある


藁の家に火の神は入る前に燃やし尽くしてしまい、泥の家に水の神が住めるものではない



そうして神の加護が器を壊すことはよくある


腕や足をなくすもの、肌の色が変わるもの、髪の色が変わるもの、寿命がなくなるもの、人種ごと変わることもある


その家に複数の神が住めば喧嘩を起こしやすくなるし加護で器が傷つく


加護を授かれても1神分が普通は限界だ



神との相性が悪ければ人はそれだけで砂となるかも知れない



だけど魔王がこの勇者を倒されれば今いる善神には後がないと神々も知った


加護を与えるのに神々も我慢して『しぇあはうす』してくれて、神の加護を複数授かる者は急激に増えた


ユーレウラギス神の神の加護によって聖下の器は一軒家から巨大な集合住宅となった


神々も協力し、出来得る限り加護を授けようとしたがそれでも相性のせいか加護を授かるよりも何度も傷ついていた



肉が弾け、骨がむき出しになり、臓器がなくなる


身体に穴が空き、頭が鳥になり、何日も体が燃え、肌は石となって割れた



神々がそうしたくなくても、相性が悪ければどうしようもなくそうなってしまう


それを何度も何度も幼い聖下は耐えた


あの子の叫びは今でも耳に残っているが一度として諦めるとは言わなかった



とても痛々しかった・・・そして尊くさえあった



親への愛のためにどこまでも健気で、純粋で、無垢であった


運命の神の加護は器を広げるだけではなく、運命を引き寄せる


善きにしろ悪しきにしろなにか強い運命と死ぬまで出会い続ける



聖下は金を難民に使い、贅沢もしない


異教徒貴族に拷問されようとも、その純粋さは変わらず、たゆまずに歩き続けた



聖下は歪だ



加護を授かった者たちは神の影響がでる


それは聖下もそうであるし旅の伴もそのはずだ


加護持ちばかりの旅の勇士達は恐ろしく性格がねじれきれているというのに・・



そんな中、よくも歪まず良い子に育ってくれたものだ



愛と命を尊重し、祈りを忘れず、ちゃんと下劣な貴族と悪漢を容赦なく打ち据える


聖下の帰りし異教の地はイセイケ神殿長によると神なきその世界にも信仰は慎ましやかにも残っている


レアナー教の布教は上手く行っていないようだ



聖王が王らしからぬ『感情』を初めて表に出し、聖下のもとに嫁ぎに行った


手紙でよく教えることにする


聖下の服は剥ぎ取っちゃいけません、痛みを味あわせるのは駄目です、目玉を舐めるなんてやっちゃいけません


異世界のレアナー教についても心配だったし幼い2人のことも気になっていた・・・・レアナー教徒として幼い子の愛を見守るのは当然!!


急ぎ惚れ薬を作らせていますがあの2人は神格を幾重にも詰められた人間と、加護を何十も授かった人間・・・どれほどの効果が出るのかが問題である



心配だし手紙でのやり取りは密に行っている



数分ごとに手紙が来ることもある



その中で、異世界のレアナー教の扱いはイセイケ神殿長の報告を遥かに超えていた


仮の神殿は元老院のような国の中枢機関の人物によって捜査が入り、レアナー教の財物を蓄えた建物は焼き討ちにあった


更に城は国家機関によって襲撃にあい、戦争の手前のような状況らしい


聖王の誘拐騒動から聖下と聖王のことは包み隠さずに世界の神々と神官に公開している


聖下に加護を与えた神々、連合軍、聖下の仲間と勇者領地の勇士達、更には魔王に苦しめられた国々の反応は素早かった


強欲なザウスキアの侵犯行為で軍の支援は既に準備されている国は多かったがせっかく帰った聖下を異世界人が無碍に扱っている点に皆怒り狂っている


魔王の侵攻が決まっていれば聖下のいた異世界もいずれ滅んでいた


加護を授かるということは尊いことであるのに、更に苦難を乗り越えて偉業を成し遂げた聖下の扱いがひどすぎる



そして助けられたとはっきりと自覚のある国々は聖下への恩義を感じているのもあるだろう



国際連合軍も聖下の発案から生まれたものであるし幾つの国が相手であっても侵略し、聖下に居場所を、国を作ろうという計画がされている


我がレアナー教国でも最大限の助力をする予定だ


ザウスキアの勇者領地への攻撃によって準備が整っていた連合軍が各地より集結してきている


神々の協力もあってわずかな期間であるにも関わらず、すぐに集まってくれた



「諸君、戦争の準備はいいかね?」


「「「「「「おぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!」」」」」」



見渡しても見きれぬほど、地を埋め尽くすほどの大軍隊



おおよそ100万の大戦力、聖下の役に立てればいいが

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