第339話 聖王っていうのは・・・


「もう戦う気はない?」


「無いです」



かなりイカれてるとは思ったけど話を聞いてみた


彼女は生まれてから教育を受けたこともないし対等な人は誰もいなかった


人との接し方など何もわからず、きっかけは何かよくわからなかったが気になった洋介に色々とやっていたようだ


洋介に聞いたことがある


『いきなり天井から現れたり壁や床をぶち抜いて現れる怖い人』ってこの人だな、魔物と間違ったとかの話じゃなかったのか


誰かの関心を引きたいから驚かすように現れてみたり、痛みによって覚えてもらいたい・・・のか?とにかく相手のことを知りたい、匂いも大好きとのこと


一部全く訳もわからないがわかり合える部分もありそうだ



歳上に見えるけど、この子は子供だ



情操教育がされていない子供、それも多くの人格が彼女の中にはあってとても情緒が不安定だ


普段は王として行動ができていたらしいがそれは生まれた日からそれが当たり前であった


すごく歪だな



「それで、それで・・誰かとこうやって話すのも初めてで・・・どうやって話したら良いんでしょうか?僕わかんな、いッス」




指と指を合わせて俯きながら私の顔をチラチラと伺ってくる


私もここまで殴り合ってからこんな話するのは初めてだけどそういうことじゃないだろう


収納袋からタオルを出して顔を拭いてやる



「わぷ」



血と泥で汚れた顔を拭いてやると首筋から顔、耳まで赤くなった


私も本気で殴っていたし肌が切れて出血していたもんね



「洋介に謝って、しっかり思いを伝えて、結果はどうであっても話してみるといいよ」


「うまくいくかな」


「それはわかんない、けど、ちゃんと話し合おうね」


「はい」



洋介が止めてくれてよかった


槍に失敗したら最終手段を使う予定だったし・・収納袋の中のセーフティーの外れた拳銃と必殺ボールを取り出して確認する


こちらの怪物は私達の常識を大きく飛び越えている


どんな相手でも倒せるように奈美やスパイの人たちで話し合って準備はしていた


この子がもう少し強情だったら殺傷性の高い弾丸を使った拳銃と、カプサイシンカラーボールを使おうとしていた


取り扱いには防毒マスクが必要だけど洋介と奈美がいるし覚悟があればギリギリ何とかなる


共倒れ覚悟で顔面にぶつければあの豚の怪物でも・・多分どんな相手でも無力化できる


私も酷いことになるけどそこは必要経費だ、二度と味わいたくはないけどね



銃のセーフティを戻しておく、拳銃3つとも



ミネラルウォーターがあったので一口飲んでなんとなく頭からかぶって私も血を流す


じっと聖王がこちらを見ている


ほしいのか?



「いる?」


「あ、ありがとうございます」



新品のペットボトルを手渡すと物珍しそうに見ている


こっちにはこういう容器はないもんね


私が既に開けたものを蓋を締めて開けて見せる


聖王も真似して、小さく音を立てて開け、一口飲んで・・自分の頭にかけた


私が自分の頭にかけたのはほんのすこしだけだが聖王は全部かけちゃった



「へへへ」


「何やってんのよ」



何が嬉しいのか全部自分にふりかけた聖王は私を見て笑っている


私もなんとなく頭にかけた水だったけど自分用のタオルとこの子用のタオルを出して渡してあげると更に喜んだ


年上っぽい、いや明らかに年上でなのに、不思議な気分である


洋介のシャツが好きで匂いを嗅いでいるそうだけどそういうのはうちにも既に1人いるしな



「ところで洋介はなんであぁなってるのよ?」


「なんででしょうね?」


「え?」


「すいません、わからないです」



音は聞こえていないようだけど魔法を続けている洋介にこの結界を解け、開けろとボディランゲージを送る


なんで洋介はマッチョになってるのよ



っていうかよく見ると・・・透けてる??

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る