第334話 光の神の子


神は高位の存在だ



尊く、敬われ、祈られる



初めから神として生まれたもの、精霊が神として昇華したもの、人が神に至ったもの


祈られ、恐れられた末に神と成るもの


多くの神がいるが神は信徒の数が多ければ多いほど力を増す


人の祈りが神を力付ける



信徒はその神の権能が益をもたらすがゆえに信仰する



戦神であれば、戦火から家族を守れるかもしれない


火の神であれば暑さから身を守り、火山近くであっても平静に暮らせるかもしれない


獣の神であればその獣から友として扱われ、土地神であればその土地を守ってくれるかもしれない


復讐の神であればその復讐の一助となってくれるかもしれない・・・



大神レアナーは愛と癒やしの女神


愛に真摯に向き合う女神である


他宗教であったとしても夫婦が夫婦となる儀式に夫婦の祝い事では必ず祈られ、何気ない日常においても祈られる


怪我や病に苦しむ時、家族が、夫が、妻が、子供が心の底から祈る



そうして神は成長する


人が神を成長させ、神は人を助ける


人に加護を与え、その権能の一部を使えるようにする



作物を実らせ豊穣を約束する、人に助言し寄り添う、災害を鎮める


様々な形で人と神は関わる


人に興味のある神もいれば人に興味もないものも居る



全ての生命にかかわる特別な神が存在した



光と善の神レミーア



かの女神は光をもたらし、人々に善の心を植え付けた


人にとって光は恩恵である


光によって人は育ち作物は芽生え、命が栄える


他の神に祈る前にレミーアに祈るのは当たり前


なぜならその神こそが人々の過去を、今を、未来を創り出していくのだから





―――――・・・・・いつしかその神は力をつけすぎた





気が付いたレミーアは自らの身を裂き、他の神々を作り出し、増えた権能を分け与えることで力を削った


それでも追いつかなくなった


世界に夜は来ず、眩いばかりの光は全てを見えなくした


かの女神の善意も人々を幸運にするものから不幸を撒き散らしてしまうようになった


そして彼女は神々に自分を裁かせた


自身では力を多く削るにも限界がある


その身を幾重にも刻み、他の神々にも手を借りてその身を削った



二度と自らの力で信徒が困らぬように、人の世が光と善で溢れるように



自らの権能を自らの創り出した神に明け渡し、名を変え、自身は神の座から降りて小さな存在となった


女神の誤算は1つ


それまでに自らの力を減らすために創り出していた存在まで廃棄するように言われたことだ


まだなんの権能も与えていない、創り出して自我もない子を殺すように言われてしまった



女神はせめて人の身として1人だけでも生かすことを約束させた



既に彼女から生まれて権能を得ていた神は幾柱も大神として世を司っている


それらの神が成長したように、レミーアのように成ってしまうやも知れない


他の神々からすればこれ以上レミーアの二の舞いになる芽を潰しておきたかった


彼女自体が善であるとしても新たに育った神が善となる保証もなく、自らの権能を侵さないとは限らない



そして1人の人間が作られた



名前を付ける間もなく、廃棄されるはずだった神々を詰め込まれて作られた1人の王


彼女は女神レミーアが生み出した最後の子



生み出された子は幸多かれと、定められた玉座につけられた



愛多き国では己が利よりも他者への愛が優先されていた


国家である以上、際限なく施しはできないはずが女神レアナーが助けようとすればそれが全て通ってしまう


たとえ困窮していなくとも、愛のためであればどんな問題でも通る



更に熱烈な神官であれば他国でも同じように振る舞う



倒れている人がいれば助け、愛のない結婚であればぶち壊し、親兄弟が殺し合っていれば棍棒で殴って説教する


多くの者にとっては善なる宗教であるが国によっては厄介者であり、まさに邪教である


貴族の子弟が「結婚が嫌、愛する人が居るの」とレアナー教に相談しようものなら政治的問題など完全に無視し、花嫁や花婿を奪おうとする


彼らにとってはそれは正しい行為であり、危険など無視して命すら捨てることのできる、愛の手助けこそが人生の喜びとするもの大勢居る危険な団体


世界の悩みの種だ



そこに歯止め役ともなる王が君臨した


人としてレアナーに心酔しているわけでもなく、レアナーを叱責でき、常識的な範囲で裁定してくれる



他国からも、レアナー教国でも喜ばれた



邪教徒や賊を積極的に狩る、権力者相手でも突撃してくるレアナー教徒に歯止めができたのだから


彼女は常に完璧な王であった



だが人の心がわからない、人の心よりも最低限の人の命に重きを置き、淡々と人を自らの手で裁く



その王は完璧であったが同等の存在はいなかった




数十の神の子を詰め込まれた一人の王は、常に孤独であった

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