第332話 見せつける


「私が誰かわかりますか?」


「はるねーちゃん」


「そうです!いいこです!いいこ!!」



子供に投げられたゴムボールのように殴り飛ばされた関羽のことなど見えていないかのように自分たちの世界に入っている洋介と聖王



それを眺めている本物のはるねーちゃんこと、私、春日井遥



それよりも聖王とやらは自分のことを「はるねーちゃん」と言って、洋介の頭を撫でて、愛でている


起きている洋介の顔を見てはっきりとわかった



あれは洋介だ



私と偽る聖王を見る目が洋介だ


聖王はよしよしと機嫌良さそうに洋介の頭を撫でていて、洋介もそれを受け入れている








「・・・ふざけないでよ」









「いい夢は見られました?」


「うん?よく覚えてないや、怖い夢見てた気がする」












「止めてよ」

















「大丈夫だ、俺がついてるからな」


「うん、ありがとうはるねーちゃん」








少し膝を曲げた洋介に抱きついた聖王、洋介の肩に顎を乗せた聖王のその顔が、心底幸せそうだ






そんな洋介を見たくない






ギギギギギギギギギギギ










春樹と真莉愛の顔がちらつく





これまでの洋介との思い出が脳裏を駆け回る






パキッ





目がチカチカするほど怒りが湧いて仕方ない





洋介になにかされるのは、許せない








「<  よ う す け ぇ っ !!!  >」









身をすくませた洋介がこちらを振り返った





















勇者の体温、至福の時間でしたのに、あの女、邪魔だな


彼女を見て固まった僕たちの勇者様


わたしと一緒に居るのに、俺のことを見ていない



「ねぇ勇者様」


「・・・・」


「僕達のこと見てよ」


「・・・・」


「私のことを、愛してよ」


「え、あ、うん」



ゴシャ!!



え?


首がちぎれるかと思った



愛してと言うと勇者に顔を殴られた



本物のはるねーちゃんではなく、目の前のゆーしゃに



顔が酷く痛い



さきほどあの女にやられた一撃も効きましたが全くの別物



「どう?気持ちいい?」



近づいてきた勇者様に聞かれた


この感情はなんだろう?私のために私を殴ってくれて嬉しい?それとも殴られて悲しい?愛してくれてるのだろうか?この痛みが、愛?


この鈍くて、ズキズキと痛むのが、愛?



「ぃや」


「じゃあもっと愛してあげるね?」



胸、お腹、肩、顔


殴られて、ズキズキと痛む



「も、もういいから」


「え?そう?」


「あ、あっちの女も愛してあげて?」


「いやだけど・・・わっ?なにするのはるねーちゃん!?」


「黙って喰らいなさい!」



黒髪に赤い毛の混じった女、あれが本物の『はるねーちゃん』なのだろう


彼女が俺じゃなく勇者に殴りかかってきた



でも勇者は彼女のことをはるねーちゃんと呼んだ?



神器で私を『はるねーちゃん』と認識していたはずなのに?


私のモモ色の髪とは似てもいない髪の色なのに?



・・・彼をここから連れ出してもう一度神器を使わないと



本物の『はるねーちゃんに』に殴りかかられてひらりと逃げる勇者



ジャジャリッ!!



「行かせませんっ!!」


「邪魔ァっ!!!」



モーニングスターの鎖が私の足を巻取、トゲ付き鉄球が足を潰しました


マルディ王、旅の最中に勇者様の弱みに付け込んで結婚した悪女


大好きな女だ


私によくわからない感情をくれる


盾の魔道具を取り出して光の魔力剣を空中に幾つも出現させて飛ばしていく



「お馬鹿さんですこと」



闇がドロリと現れて剣が消えていく


鎖が引かれ身体が崩れたところで腿を斬られた



「このっ」



盾で押しつぶそうとしても思った場所からはするりと逃げて、僕の身体に剣を突き立てていく


小さな痛み、無視して蹴る



ジャリンッ!!



鎖が引かれ、両足の浮いた私は転け、腰を斬られた


光の剣を飛ばしてその間に起き上がろうと・・・またも鎖を轢かれ、もう片方の足が剣で縫い留められた


そのまま俺は水に沈むように床に広がった闇に身体が沈んでいく



「<どうして、どうして私達の邪魔するの!!!??>」



「貴女が邪魔するからでしょうが」



槍を逆に持ったマルディが上から降ってきて、闇に突き沈められました

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