第263話 まわりは敵だらけ


このまま全部うまく行けばいいなっていつも思う


不安を抱えた生活はうんざりするが少しずつは良くなってきている


だからこのまま魔王はお父様が倒して、瘴気もなくなって、みんなで生き残って・・・なんて神様に祈ってたけどそうもいかなかった



お父様が倒れた



加護も魔力も強くなりすぎて、身体が透けてきていた


肉体が精霊に近くなってきていた


武器も魔力に耐えきれずに壊れていたし戦闘どころか日常生活も出来ないほどであった



だから形式的な親子から改めて親子となった


結婚や養子によって正式に家族になればお父様の力が僅かだが引き継がれる


お父様の力は強大であるしその力の僅かに一部でも引き継ぐということはそれなりの危険もあった


体の一部が消し飛んだり、名前をつけられた瞬間に耐えきれずに死ぬかもしれない



だけどずっと前に死ぬはずだった俺にとってこれで死んでも悔いはない



助けてくれたお父様のためになれる



この領地を発展させてきた自負はあるしそれでここで生きれる人も増えた



誰かのためになれた



生きるためにただ生きていた俺に食べるもの、着るもの、住む場所、痛まない体をくれた



そして何よりも家族と生きる意味をくれた



仮に死んでも後悔は全く無い



二度目の名付け、今度はお父様のためにもなる名付け


望んで受け入れた


お父様は無事にまともな肉体になってまた魔王軍との戦線に復帰した


名前をつけられて何日も全身が痛んだがどうにかなった



勇者領は爆発的に発展を遂げた



俺だけではなく同じく兄弟にも名をつけられ、使い切れない魔力を得た


武器を作るものや技術革新を進めるもの、魔道具を作るもの、連合軍に協力するもの、連合国に加盟しない国への諜報、各国からの報酬でもらった各地の領地への派遣


強くはなったが皆、命をかけて働いた


領地は人は多く増えているが元は不毛の大地、食料の生産は全く追いついていない


お父様が報酬で頂いた別の国の領地も開墾させてそこで食料を作るなどの対策もしなければならない


全世界に食料が少ないのもあるが俺たちは嫌われ者の元難民だと知られている


今はまだ食料は高価でもお父様の報酬で売ってくれてはいるがお父様が魔王に敗れれば食料も売ってくれなくなるかもしれない


魔力が増えると少しぐらい食べなくても大丈夫になった


だがお父様みたいに食べる量が少ないのに魔力が成長し過ぎると大変なことになる


ほんの少しはマシな飯になってきたのに自らの足でもやってくる難民たちの食料をどうにかするためにまた不味いスープの頻度が増えた・・だけど・・・まぁこの不味さもいいなと思える



今は生きるために、生き残るためだけに生きているのではない


家族のために生きているし、このまずいスープも家族が生きるためだ


腹が膨れればそれでいい、最後に茎をかじれば最後の後味はましになる


お父様も「コーヒーとこうちゃを煮詰めて混ぜて薄い甘みと酷い青臭さと水っぽさを足したような味」って言っていたしお父様の故郷の味なのかもしれない



ダイドンの茎を齧ってる時のお父様はどこか遠くを見るような目をしているが故郷を思い出すのだろうか?


それとも似ていてもこちらの世界のものなのだからこれよりももっと美味しいものなのだろうか


開発部が頑張って美味しくしようとしているがなかなかうまくいっていない


生産した物体は俺でも吐き気がするがお父様は文句を言わずに食べている



異世界人的にはこの酷い味こそが故郷の味??



ある日、魔王との決戦も近いと連絡を受けたのだけどお父様の魔力がごっそりと減った


お父様が負けたかとも思ったけど魔王は討伐され、レアナー様も<よーすけはアオキチキューに帰ったですぅ>と言っていて驚いた



帰ったのは絶対に貴族から逃げるためだと思う、納得した、うん



魔王との戦いが終わればレアナー教国内のこの領地は取り上げになるかもしれない


各国から強引に連れてきた難民を自国の領民だと取り戻すためとでも言って攻めてくる可能性もあった


レアナー教国内の勇者領土だけど隣国がザウスキア、欲深く亜人嫌いの覇権国家だ



ザウスキアは勇者召喚を行って勇者洋介を召喚した国ではある



レアナー教国の不毛の大地に生まれた勇者領土だが勇者が住める土地を広げたし世界各国の難民には技術者も多い


勇者の報酬が惜しみ無く注ぎ込まれたその領地は世界の先端を競うほどに発展した



今では誰もが無視できない程に力をもっている



ザウスキアには「我が国で召喚した勇者の領地であるし我が国にこそ権利がある」という貴族も多い


領地は不毛の大地であったがレアナー教国寄りではある


先に魔王幹部の生き残りを倒すのに協力しろよって思う、暗殺したい



お父様はこれまで通り、たまに帰ってきてくれる


魔王を倒し、目標であるお父様のお父様とお母様、エイスケ様とシノ様も生き返ったんだからこちらに来る意味はない、はずのだけどよくこちらに来る


嬉しくてみんなで甘えた


聞いてみるとニホンでレアナー教を布教するのに必要なものがあるらしい



クソ不味いスープだ



・・・・・味覚が狂っているのかもしれない


食糧事情もましになってきたが作れるだけ買っていってくれる


ニホンのすごく美味しい料理やお酒、お菓子に服なんかをどんどん持ってきてくれる


お菓子には感動した、別の世界にはこんなに美味しいものがあるのかと



それで商売をしてなかなかに稼いでいる



クソ貴族に食わせるのはもったいないがその金で領地は潤った


異世界のものは色々と学べるものも多い、さすがお父様だ



突如領地にダンジョンが出来た



領地のど真ん中に、しかも奥からお父様とのつながりが感じられる


お父様は突拍子もない事をするがこれは違う



調査したがレアナー教国側の結界を越えている


これができるのは奴しかいない



すぐに神々に聞き、家族会議を開いた


逃げた魔王幹部を追いかけている国際連合軍に居る兄弟やお父様の仲間に連絡して協力を仰いだ


慎重にならざるをえない部分もあった



ザウスキアに周辺国家だ



助けを求めればすぐにでも国境を超えてくるだろう


交易はうまくいっていて経済特需と言わんばかりに勇者領地は盛り上がっている


その上、巨大なダンジョンが出来たのだ、魅力的すぎるだろうな


箝口令を出したがもはや兄弟だけが居る領地ではない


すぐにザウスキアにも伝わったのだろう、斥候が何人も来る


1人でも入れれば奴らのことだ、また何か難癖をつけて勇者領土は我が国の属国にするべきだなんて言いながら軍を進めてくるかもしれない



間者は殺すし、難民はこれまで通り受け入れる


魔王は討伐されたとは言っても瘴気で住む場所が無くなったものや身体を蝕まれたものはいる


今でもここを目指して人が来る


難民は助けたいのだが今の現状では慎重になってしまう、受け入れるのが方針というのは決まっているが間者が入ってくるのだ


難民を拒みたくはないのに・・・今では家族と難民を分けて考えてしまっている時がある、いやだな


ダンジョンだけでも厄介なのにこちらも対処しないといけない



常に家族が危険に晒されるし戦争したいし攻め込んできたい国が隣りにいるというのは本当に気が重い

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