第261話 難民


人類の大半は魔王によって侵略された



魔物の群れが地面を覆い尽くし津波のように押し寄せ、緑豊かな山も作物の実った大地も無惨に踏み荒らされた


天災と同じく人にできることは何もない


当然、国の王も兵も黙ってみているわけではない


しかし止められるものはなく国は滅んでいった



しかし国は消えても残るものはある



破壊されなかった建物、生き残った生物、穢されなかった自然


そんな僅かに残ったものでさえ魔王は瘴気を撒き散らし、人の住める領域を破壊した


国から離れ、遠くへ逃げた人は文化も尊厳も無くなり、人はただ生きるために生きるようになった



瘴気は全てを害する



建物は朽ち、木々は枯れ、空気は毒となる


食べ物も飲み物もなく、国も失った生き残った人々は難民となる他なかった


国々が魔王の侵攻に抗い、人の領域はまだ健在であってもが難民を受け入れるような国は少なかった


人が瘴気に侵されれば治ることはない


瘴気に侵された人は高位の神官でさえ治しきれず、死ねばアンデッドとして敵対する


その上難民に魔族が混じっていたこともあり、難民を受け入れた国はそれが原因でいくつかの国は滅びた



ただでさえお荷物となる難民に救いの手は差し伸べられなかった



瘴気の増える世界において食料も減っていた


受け入れるのであれば自国の民が死ぬ



受け入れようがなかった






「そんなもんいるか!穢れたもん持ってくんな難民がっ!!」



金も使えない



「お前らにやるもんなんざねぇよ!さっさと死ね!!」



食料もない



「穢れが来たぞ!殺せ!殺せ!!!」



人としても扱われず殺意を向けられる




皆飢えていた


だからひとつまみの塩でさえも争いが起き、生きるために悪事に手を染めるしか無いものも出た


食うために魔王軍に情報を流すものさえいた


だから難民を狩るのは正義だと謳う貴族もいれば掃除と称して殺しにくるものもいた


逆に最後まで人としての正義を全うしようと魔王軍への餌となって貴族に使い捨てにされたものも居る




難民の受け入れをするという村に行けば



「大変だったねぇ、たんとお食べよ」


「うぅ・・ありがとう・・ありがとうございます!!!」



腹一杯とは行かないが食えるものを恵んでくれた



「ごめんね、儂らもやりたくてやってるわけじゃないんだ・・・あんたらの魂の救済を神に祈るよ」



僅かな食べ物には毒がはいっていた



その老人しかいない村は難民によって焼かれた



老人たちも口減らしだったのだろう



苦しい旅を生き残ったものは痩せていた


どこの国に行っても助けはない


目もかすみ、地面が揺れるように感じた


揺れているのは自分、脳裏に浮かぶのはかつて幸せだった家族との思い出



仲間は次々に減っていく



飢えて、怪我で、瘴気で倒れ



人に、魔族に、獣に殺された



死んだ仲間だったものを食うものもいた



それだけは出来なかった


それをやってしまえば獣と同じ、魔王と同じ、そして今も殺そうとしてくる人間と同じになってしまう



だから襲うことにした


ぶくぶく太った貴族から、物資を奪おうとした


大きな馬車で山のように載せられた食い物の数々、少しぐらいわけてくれてもいいじゃないか



だけど、目の前にしてももう体が動かなかった


ナイフも握れない


瘴気が体を蝕んで、飢えていた


兵が近づいて来た



「こいつ、生きてるぜ」


「殺しちまえ」


「あぁ」



これが最後か


こいつに殺されて、その分誰かが幸せになるんだろうか?


父さん、母さん


何も残せなかったよ



よく見えない目で槍の穂先がやけに輝いて見えた



ただぼーっと兵士の顔を見ていたのだけど兵士が殺しにくそうにしていた


目をつむろうか?


そのほうがこの人も気が楽だろう



「ごめんな」


「・・・・と・・う」




だけどその槍は刺さらなかった




「勇者様!?何を!!?あぁ血が!!!??誰か!誰かいないか!!!」


「生きてる?君は生きてる?」



物語でしか知らなかった勇者が僕を抱いた


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