第246話 黒葉とミルミミス


起きると私はミルミミスさんに膝枕されていた


周りは荒野、何もない


きれいな人だ、だけどこの人、表情があんまり変わらないんだ


舐められた手の感触を思い出してちょっとゾッとした


じっと動かずまっすぐこちらを見ている



「おはようございます」


「うん、おはよ」



起き上がると、見渡せる景色は全て荒野だ、サボテンとかありそう


赤茶けた地面が見えているがそこまで熱いわけではない、直射日光がきついわけでもない


周りを見ても枯れた空気しかない



「遥達は?」


「落ちた」



落ちた?落ちた??落ちた???



「落ちたの?」


「うん」


「あ、あの、ルール!ルール達は?」


「追いかけていった」


「ヨーコは!?」


「追いかけていった」



なんと言って良いのかわからない


あぁ太陽が眩しい


空をよく見てみると他の星も見える、地球じゃないことは明らかだ



「・・・・・」


「・・・・・」



ミルミミスさんに何を聞けば良いのかわからない


じっとこちらを見ているミルミミスさん、危機感がないのか?


ここは何もない荒野だ、地図もなければどちらに進めば良いのかわからない前人未到の土地だ


日本人では・・多分、私だけだ


いや自分でもパニックになってるね


ブローチをしっかり握りしめて深呼吸した



「黒葉を任せられた」


「なるほど」


「うん」


「・・・・・」


「・・・・・」



余裕そうなミルミミスさんを見てなんだか気が抜けた


余裕そう、なんじゃない


きっとミルミミスさんにとってはこの状況は全く脅威などではないのだ


よし、落ち着いた



「私は黒葉奈美です、地球のレアナー教の大神官をしていて、元杉神官の婚約者です」


「幼子の?」


「幼子とは元杉洋介のことですよね?」


「うん、幼子」


「そうです、2人きりになったので改めて自己紹介です、ミルミミスさんのことも聞かせてもらえますか?」



地球では名前を聞いた程度であまり話していなかった


レアナー様のことを話せないヨーコの指示で言われるがまま動いていたし、こちらで話せるという事も言われていたのだけど離れてしまったのなら仕方ない


このミルミミスさんのことを詳しく知っているわけではないしまずは仲良くなろう



「ミルミミス、とか呼ばれてる」


「・・・・・」


「・・・・・」



ヨーコは以前とにかくミルミミスさんに質問攻めにしていた


聞かれた質問には簡潔にだけど答えていた


元々竜であるらしいしルールのように話しにくいのかもしれない



「えっと、元杉神官を拐われたので助けるためにこちらの世界に来ました、ミルミミスさんは手伝ってくれますか?」


「うん」


「まずはヨーコたちと合流するべきだと思うんですがミルミミスさんはどうしたら良いと思いますか?」


「わからない」


「ヨーコさんは人を見つける魔法や技術はありますか?」


「ない」


「ヨーコと遥とルールはどこにいるかわかりますか?」


「わからない」


「・・・・・」


「・・・・・」



どうしよう


荷物をチェックする、飲み物や食べ物、衣類に武器、愛用のムチ、杖色々とある


そうだ、収納袋の中に陸斗さんがいれてくれた便利道具があったはず


スタンガン、取り出せそうな場所に持っておこう、地面に置いておく


始めて見るものも多い・・・あ、トランシーバー!・・・・・使い方がわからない


色々触ってみるが遥が持っていて更に気が付かないと意味がないんじゃないのかな?



・・・スマホは役に立たなさそうだなぁ



モバイルバッテリーはすごく明るいハンディライトの充電もできる、うん、充電はMAX



「スンスン・・・」


「ミルミミスさん?」


「良い匂いがする」



食料の中にもいろいろはいっている


収納袋の中のものは元杉神官の【収納】と違ってなんでもいくらでも時間停止していれられるわけではない


入っているのは日持ちする調味料や食べ物お菓子が中心で、後はミートパスタが入っている


ミートパスタは遥の母さん、直子お義母さんの喫茶店の人気メニューだ


緊急事態ということで直子お義母さんが大量に作ってビルでも城でも食べれるようにおいていってくれたものだ


ミートパスタと言うよりは密封容器に麺もソースも混ぜられて入ってるしボロネーゼなのかもしれない


・・・いや、混ぜて炒めて作っているわけじゃないしミートパスタ?


すぐに食べられる密封容器の分以外は真空パックされたソースがいくつも入っている


わけられたものもあったけど私はこっちのほうが好きなのでこっちの容器を持ってきていた



「食べたいですか?」


「うん、いいの?」


「はい、ミルミミスさんは食べれないものはありますか?」


「・・・・・瘴気や毒は食べれない」


「言い方が悪かったです、一般的に人間が食べれるもので食べれないものはありますか?」


「・・・・・・・・・・・・・ない」


「じゃあ一緒に食べましょうか?」


「うん!」



容器にゴムのベルトで止められたフォーク


ぬるいけど常温でも食べれる、濃い目に作られていてとても美味しい


ひとくち食べていたんでいないことが分かったし私はお腹が空いていない



「はい、あーん」


「?」


「口開けてください、食べさせるので・・・このフォークを口から出すまで口を開けていてください」


「うん」



口を開けて瞬きを全くせずにパスタを待っているミルミミスさん、お肉をたっぷり絡ませて口に入れた



「噛まずに唇をしめてもらえますか?」


「・・・」



全く身体を動かさないが


「おいしーな!!」



表情の動かない美人なミルミミスさんだがとても美味しかったのだろう


元気な声にほんの僅かにこぼれるような笑顔が見れた



・・・・・何も解決していないがミルミミスさんが一緒にいてくれて本当に良かった



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