第196話 ロッククライミング


洋介たちと学祭を回るのは楽しい


学内には私を裏切った奴らもいるし今もナンパしてくるやつは絶えない


やはり同じ大学内だし「俺と付き合えよ」なんて言うクソどもがちらちら見える


ムカつくが「はるねーちゃんの大学のお祭り行ってみたい」といっていた洋介が楽しそうなので気が少し晴れる



まずマナー講義を受けに行ったのはちょっと驚いたけど私がよく注意してたからだろう


マナー講義は私も得るものがあった


奈美にもたまに注意されていた部分があったので自分を見直す良い機会になった


今日はレアナー教徒の仲間も一緒に学祭に来たので目立っている


裁判もあるし私は大学内では大人しくしているがこれでクソどもも少しは大人しくなるかもしれない


生きてるのに頭にウジが湧いているような連中だからどうなるかはわからないけど



うちの大学の学祭は地域の企業や学内外のサークルも参加するし規模も大きい



活動実績のために資料を展示するだけのものもいれば地元企業がPRをしにも来る


内容は良いものばかりではなく、よく言って玉石混交


毎年占いや心理相談、世界のゲテモノ屋にオリジナルラーメンなんて怪しいものもある


ゲテモノ屋は私が1年のときには鹿肉・猪肉・熊肉・カエル肉というラインナップだった


1年のときにはそれを食べてとても美味しかったのはよく覚えている


赤味噌と肉のクセがよく合うんだよね、熊肉美味しかった


だから2年、3年と楽しみにしていたのだが残念ながら1年の時が特別だっただけで虫ばかりであった


それも怖がらせるのが目的かと言わんばかりに生きてる状態のものも展示されていて・・よく今年も出店できたな・・・


ラーメン屋も毎年出てくるが本当に美味しい年もあるが、なにかこだわりでもあるのか旨いかどうかわからないものも出てくる


はちみつ入り醤油ラーメンなんて美味しかったけどさ・・絶対合わないと思ったのに



お化け屋敷に行くと洋介が【清浄化】をぶっ放した


もちろん仮装なので効果はないのだが入口を開けてすぐぶっ放した


もちろん止まらないわかりやすすぎる雰囲気づくりのBGMが聞こえていて「あれー?」って言って剣を取り出したから取り押さえた、どうやらお化け屋敷の意味を間違っていたみたいだ


入り口からして明るいお化け屋敷になってしまったのはなかなかに迷惑だろう


ちょっと申し訳なかったが「スゲー!」「やべーよ!逆に客引きに使えるぜ!!!」と屋台の前売り券やタダ券を渡されてとても感謝された


売れればなんでも良いタイプらしい



教室を使った脱出ゲームも気になるけどそれよりもロッククライミングに行く


体育館を2週間前から占領して設備を作って安全確認をしていた


学生の参加者は昨日と一昨日に初心者・中級者コースが開放されて賑わっていた


中級者コースと上級者コースをクリアできれば特設コースに行ける


特設コースを最優秀な成績でクリアできれば超豪華な賞品がもらえる



賞品はなんと車だ



登山部や他のスポーツサークルが盛り上がっている、間違いなくテレビも来るだろう


学生の中では今回の学祭の目玉だ


大学生にとって車を乗り回すのは一種のステータスだ


オンボロ軽自動車だって良い、自分の運転で友達とどこにでも行けるんだから


それが賞品が人気の車種で、それも国産の大きな車だ



学生が騒がないわけがないだろう



他にも2位がブランド牛1頭分、3位が米3年分だ


盛り上がってる体育会系たちは多い、柔道部とラグビー部などランニングの掛け声がここ1ヶ月「く・る・ま!く・る・ま!」もしくは「バー・ベ・キュー!バー・ベ・キュー!」になっている、さぞかし良い宣伝になっているだろう


ごめん、でも絶対に車もらうからね



洋介とは他のグループになったが今日は遊びに来たわけじゃない


車で洋介たちと走ることを想像していたのだが一緒のグループの初老のおじさんがふってきた


勢いはロープですぐに収まったのだが無意識に身体がおじさんの落下地点にいた



「・・・あ」


「危ないんでどいてくださーい」


「すいませーん」



いけない、考え事をして邪魔になってしまうとは


初老の方は私がさがってすぐにゆっくりと降ろされた



「やれやれ、ありがとうね、お嬢さん」


「いえ、邪魔になっただけみたいですし」


「思わず身体が前に出ちゃったんでしょう?そういう顔してましたよ」


「そうです、自分でも驚きました」



クッションに降りた初老のおじさんは尻餅をついて息を整えている、金具を外して手を差し伸べるとゆっくりと立ち上がった



「貴女は優しい人みたいだ、ありがとう」


「いえ」


「ところでここの学生さんかな?この企画をどう思う?」


「盛り上がってますよ」



運動部の掛け声の話をすると「そりゃいい!」と楽しげに笑っていた



「私も車はほしいので今から初級参加です」


「そうか、ん?昨日参加しなかったのかい?それとこの後」


「あー・・」



運動部で参加したい人は昨日に初級から上級までをクリアしている


運動部には通達があり、参加日が昨日と決まっていた


今日は18時までが一般参加者が参加することが出来る


一般参加者を連れての学生参加や時間が合わないものは今の昼の時間も参加は可能だ


この時間に参加する学生は「全く何も知らない」か「空気が読めない」の2種類が多いはずだ


私はあえて読まなかったが


学生で運動部でなくて時間があるものは18時から20時までの間に参加できる


今は昼の時間なので人は少ないが昼からは一般参加者は増えるだろう


だけど主催者の意向か、賞品が車ということは学生だけが知っていることだし一般には「豪華賞品」としかされていないことを考えるに一般参加者は少なくなると思う


きっと主催者側は車は学生に渡したいんだろうな


「この後」と、このおじさんが言うということは主催者側、いや、関係者なのだろう



「私は時間も合わなかったし、家族も連れてきたのでこの時間の参加です、おじさんは?」


「私?私は・・・そうだね、あまり時間が取れないくてね、関係者っていうのもあるけどこういうのも体験してみたかったんだ」



少し話してみたんだけどこのおじさんはしっかりして面白い人だな


私の番になり、指示通り石を一個ずつひょいひょいと進む



「このまま次に行ってもいいですか?」


「どうぞ、あそこの指導員さんに言ってください」



器具を外すのも面倒なので聞いてみるとそのまま次のステージに行けた


中級も上級も簡単に行けたので参加資格をゲットした


他の屈強そうな参加者さんが苦戦する中で私がスルスル進むのが目立ったのだろう


参加者さんたちの視線を浴びて最後には拍手までもらえた


洋介も拍手しててちょっと嬉しい



「経験者ですか?!」


「いえ、昔から山で動き回ってたので」


「うちのクラブにどうですか?!貴女が良ければ正規採用もあるでしょう!」



私はもう決まってるのでと軽く注意するが指導員さんの視線が胸に集中してるし興奮してるのが目でわかる



「それよりゴールって壁をけったり、飛んで手をついてもありなんですか?」


「そうですか・・・ゴールはスタート位置さえ守れば大丈夫ですよ、階段で2階まで上がって道具であそこまで行ってタッチなんてのはだめですが」


「流石にそんなズルはしませんよ」


「そうじゃないなら駆け上がっても大丈夫です、何ならジャンプでタッチしても大丈夫ですよ、よければこの後教えましょうか?」


「大丈夫です、ありがとうございます」



冗談のように言う指導員さんだが言質はとった!


ニヤける顔をなんとか抑えて礼を言えたと思う



「あ、あの、練習がダメならこの後食事でもどうで「いや~お嬢さん凄いねぇ!」



何か言おうと、いやナンパだろう、慣れているからわかる


ずっと私を見ていた初老のおじさんが割って入ってくれて助かった


殴って止めでもしたら参加資格がなくなりかねない



「次お願いします!」


「あ、はい・・・」



おじさんが間に入ってくれたことでスゴスゴと指導員さんが下がって、日焼けして体格のいい男性が上級コースに来てくれた


凄いねと言われたので茶目っ気で返しておこう



「いえいえ、私車狙ってますから!」


「ははは!頑張ってくれ!」



礼儀正しくも正しいおじさん、クソどもと同じ空間にいるからこそ思う


みんなこういうまともな人ばかりなら良いんだけどなぁ

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