第177話 牢獄の格差


生活が安定してきた


どうやら俺の木工品や細工物は評価されているらしく優遇されている


毎日仕事をしているからか、作るもののセンスが受け入れられているのかもしれない


やっと服も靴まで最低限の一式が揃い、自分だけの個室ももらえた


藁のベッドもあるし俺が手を引き入れなければ他人がこの部屋に入ることは出来ない


ある日目覚めたら大部屋ではなくこの部屋であった


再び起きるとこの部屋であったことから間違いはないだろう



スープしか水分がなくて掃除もできなかったのだが紙に要望を書けば少しずつではあるが改善されてきた


何度か他のグループのものがちょっかいを掛けてきたりしても俺は石化しない事があった


最大グループの黄色人種の奴らが牛馬みたいに装置を回していたのを壊してしまい、働ける場所がないときに他のグループ全員を攻撃してほぼ全員が石化した


あいつらは攻撃に参加せずに残ったものが働いて仕事を独占し、この牢獄内での優位性を獲得しようとした


主導したものは3日ほど居なくなっていた


話を聞くと石化したままずっと壁を見つめた状態で長時間石化し、後に気が付けば個室に戻されていたらしい


それから大人しくなったものだ



「そういえばA、お前はなんでそんなに優遇されてるんだ?」


「あ?そりゃ俺は働き者だからよ」



そういえば俺は木工だけでは指を痛めてきたので謎の装置も回しに行ったことはある


だがこいつのことは見たことがなかった



「何してんだ?」


「ワッペン作ってんだよ」





・・・・・?



脳が追いつかない



Aは白人の中でも一際大きく筋肉質だ


そしてグリズリー、いやオスライオンのようなヒゲモジャ


少し痩せたとは言っても格闘家と言っても通じるだろう筋肉質な体型


それが刺繍をしている?そんなバカな



「意外そうだなG」


「熊みたいな顔しといて何いってんだお前は?」


「その菓子一つで俺の秘密を教えてやろう」



服を得て条件を満たし、働きに応じてポイントを得られるようになった


よく働けばそれだけポイントが貰えるし、仕事が終わればその一日は終わる


ポイントは様々なことに利用できる、お菓子や食事のグレードアップ、そして衣類なども手に入る


得られるポイントは少ないのに使うポイントは高い



お菓子は値段に応じているらしく、日本の『ダガシ』が人気だ



特にチョコや肉の味のするカツが魅力的である


チープながらケミカルスープに比べて涙がでるほどにうまい


このカツ1枚をかけて殴り合ったり石化するものや賭け事をするものもいるほどだ



俺も優遇されている自覚はあるが、目の前の男にはかなわない


やつの部屋には組み立て式のベッド、マットレス、枕にシーツまである


服だって帽子やデニム、ブーツまで揃っている、まさにこの牢獄の王者だ



こいつにとってカツ1枚は安い、おそらくは俺と仲間意識があるがゆえのレートだ



素直に残ってるカツを渡す、どうせなら手持ちの2枚ともだ



「やっぱこれだよな!最近は販売で負けてよ!残ってねーんだ!」


「で、何やって儲けてるんだ?」


「2つもらったからな、2つ教えよう」



牢獄の中には指定された働きをしなくてもポイントを得るものがいる


ゴミを集めて纏めたりトイレ掃除をする


スープの配膳をするなどでも微量ながらポイントは入る


稼ぎ方は様々で木工や人力の牛馬代わり「ナイショク」といわれる軽作業などがメインだ



・・・・まともなポイントの稼ぎ方をしないものもいる、1人はちくり屋のY



人の情報を得てそれを紙に書いて売っているやつだ


勿論そういうやつは嫌われるのだがここでは石化のルールが有る、殴られてもダメージは精神的にしか無い


むしろ他人からの妬みや嫌がる反応が嬉しいようでいつもニヤニヤしてやがる


前は起床と同時に殴られてすぐに便器に頭を突っ込まれていた



「俺は元医者でよ、ワッペンは手先が器用だからやってるんだわ」


「なるほどな」



レアナー教では医療を必要としている人間が列を作っている


おそらくは軍の経験の後、諜報目的でレアナー教に潜ろうとした1人なんだろう


ワッペンや刺繍は針と糸を使うが元医者なら楽、なのか?



「それともう一つ、俺はここに来るものの情報を売っている」


「なに・・・?」


「っていっても俺はちくり屋じゃねぇ、お前にも一枚かませてやるから手伝え」



Aの話はこうだ


ここには日々新しい諜報員が来る


そいつらは初めはポイントもなく服を手に入れるところから始まって最低限の生活ルールを覚えるところから始める



そんな奴らにも特徴がある



喋り方も訛りがでるし身長や人種の違いは明らかだ


基本的に自分のことは隠そうとするものが多いのだが小さな癖は隠そうとしてもどうしたって出てしまう


それら推察して分析し、その個人の詳細を提出しているそうだ


何が好きでここの不満はなにかまで纏めてノートにする


ここの人間から出る所属組織の話ではなくここの人間1人ずつの人物像や性格のリストを売ってるわけか


諜報員らしいがなぜそんなことをするのか?



「そりゃあここの住民はあのタイム・ストップを受けてこれまでの諜報はみんな全部告白してるさ、もう世界の諜報員の情報は全部この場所で集まるだろうよ」


「たしかにな」



紙で情報を送るものは多い、と言うかほとんどだ


俺たちもそうだがこの閉鎖した空間、楽しみはなにもない


諜報員としての情報をゲロったものだけはポイントは導入される


口を閉ざして隠すものもいたが最低限の働きで服をもらっても不味いスープだけ食べ、周りの人間は少しずつ生活がましになっていく


あんなまずいスープだけなど耐えられるわけがない


はじめはずるしたものが居たがすぐに自慢したりチクったものが居てポイントは取り上げられていた


そうでなくてもレアナー様は後ろめたい心を読み取ったのか嘘をついたもののポイントも無くなる


すぐに反省してみんな情報を出すしかなかったさ



カツの旨さをしったらもう戻れねぇよ・・・



俺は末端だし出せる情報はそもそも少ない、初めから正直に書いたさ



食事はまずい、周りは敵だらけ、謎のルールに閉鎖空間、ストレスにならないわけがない


ここの生活は真面目に労働することと友人こそが大切なのだと学んだ



「俺らを管理してる者にとっては俺たちの中の情報は気になるはずだ、情報の裏取りになるかもしれないしな」


「頭のいいやつだ」


「それにここでの安全は完全に管理者任せだ、従っておいて損はない」



管理者に都合の良い働きをするってわけか


たしかに良い考えだ、俺は木工エリアではすでに俺しか入れない専用のスペースが確保されているし情報は集めやすい



ここのシステムには少なからず穴はある


無限のスープに汚れた腰巻き入れるような馬鹿なやつも居た


だが一度目は石化しなかった


それに性行為はセーフのようだ


無理矢理ではないが逃げ場のないここは地獄であると再認識させられた、ここには男しかいないのにな



ポイントで買えるビタミン剤がなければ栄養失調になるかもしれない


持病持ちのものもいるが薬や治療はない、熱心に働いて祈ればマシになるらしい


一応生かすつもりのようだが下手したら死んでしまうものもいるかもしれない



電話したものも居たが数秒電話しただけでその日1日石化した、逆探知対策か?



ここから出るのにはポイントが必要だ、100万ポイント



途方もない


このままこの地獄に居続けていつかは外に出れるのだろうか?

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