第172話 無限の牢獄


目の前に来たのはあのYだ



「スパイの皆さんにはこれから働いてもらいます」



小柄で華奢な黄色人種、我々と比べると圧倒的に華奢


今日はレアナービルで見かけるようになった元ヤクザの男達もいる、ついに処刑されるのか?



「働いたり協力的だったらいい事があります、家族やスパイの組織に連絡しても良くします」



どうやら殺されるわけではないようだ


あれだけ変化がなくて発狂したくても出来なかった時には死をも望んだほどなのに不思議なものだ



「争いは出来なくします、争ったらまた固めます」



彼は世界の最重要人物、我々を出して、我々に向かって話している


だが一体彼はなにをさせる気なんだ?


声も聞こえる、理解もした、だが身体は動かない


日本語は理解できるが意味が理解できない






杖をどこからか取り出しこちらに杖を向けたと思えば意識がやっと睡眠に入れたと思う



「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!」



叫び声で飛び起きた



「おおお、お前らも固まってたよな?!な、な、なぁ!?」



周りにいるのは全裸の男達に叫ぶ男、各自1人ずつ目の前に腰に巻ける程度の布があるので股を隠した



「ともかく状況を確認しよう」


「そうだな、全員日本語はわかるはずだよな?」


「あぁ」


「俺は一番遅くに魔法をかけられた、そこである程度の状況はつかんでる、まずは話を聞いてほしい」



後ろからでてきた男、どこかカリスマを感じる


ここにいるのはレアナー教を調べる各国の人間であり日本語は学んでいる


ゆえに共通語である日本語で話そう、そして名前がバレるのもよくない


適当に名前の代わりに単語で話すことにしよう


そんな内容だった



「お前が決めることじゃないだろう!」


「そうだ!」


「そうだな、だが争いは悲しい末路となるだろう、あの2人を見るといい」



部屋の角にいた2人をみるとすでに石化している


いや、よく見れば何人かは争ったのか石化したようだ



「起き上がると同時に殺し合ったんだ、どうなるかは理解してるよな?」


「まずは状況を整理しよう」



部屋の中にいるのは100人ほど、持ち物はない


人種は様々だ、白人、黒人、黄色人種、すべての人種が揃っているがぱっと見では黄色人種が半分ほどか


同じように諜報活動で捕まるにしても俺たちのような白人は日本には少ない


すでに俺が起きる前に争ったのか数人が石化している


石造りの全面に光源もないのにどこか明るい部屋


窓はない、壁も床も天井も石造りだ


ここのドアは一つ



「開けるぞ・・・!」


キィー



普通にドアは開く



前に出た男は慎重に先を行きハンドサインをしている、ドアにはトラップもなく施錠もされていない



「助かった?助かる、のか?」



長く続く廊下にドアが多く見える


警備の人間や看守はいないようだ



この建物の出口はどこだ?



空の部屋がいくつかあり、廊下の先には無限に繋がる廊下しか無い


もう2度と関わりたくはない、物乞いを装って諜報活動していたほうがまだましだ


だがいくら探しても出口はない、窓もない



外に出れるという確証はない



だが石化していた時と違って行動ができる


壁を叩くものや無限に続く道を走り続ける者、神に祈るもの、様々だ


俺は振動から位置を確認しようとしたが無駄だった



怖いのは暴れるものだ、暴れたもののみならず応戦しようとしても石化する



この日はこの油断できない奴らと一夜を過ごすことになった






わかったことはいくつかある


トイレはある


風呂はない


飯は部屋で見つけた、不味いスープだ


工業用のケミカルな油が混入したんじゃないかと疑うような薄いスープ


正直食べ物ではない可能性も一口目に考えたが相手は簡単に俺たちをどうと出来る存在だ


そんな無意味なことはしないだろう



それよりも人間関係だ


何人かは同じタトゥーをしていて同じく行動をしている


見る間にグループが形成されていく



まずい



俺は戦闘訓練も受けているが基本的に旅行者として単独で行動するし同じ組織の見分け方なんぞわからん



「隣良いか?」


「・・・・・チッ」



仲間か敵かもわからんが人種でグループが作られつつある


気持ちはわかる


黄色人種が多い中で白人種や黒人種は目立つ、黄色人種とは身長も体格も違う


奴らからすれば素手しかいないこの現状ではこの体格差はさぞ脅威だろう


だが我々にとってもその数は恐怖だ


明確な仲間がいない中で身を守らねばならない


それもおそらく世界各国の諜報員の中で


幸いにして肌の色での認識以外には何かしらの傷跡やタトゥー、そして訛りや仕草と言った情報もある


マフィアがよくやるような何かしらのサインによって仲間を識別するものもいる



情報は大切だ



人種や仕草、言語に顔のシワ、年齢と銃痕が分かれば戦地を予想できる


最高なのは同じ海軍の、いや陸軍のタトゥーだ


同じ国や同盟軍のタトゥーが入っていれば大分ましになる


味方になれるかどうかは分からなくとも最低限の判断材料となる


この場で戦闘行為が禁止されている以上、無意味に争うことはない、はずだ



だが絶対に安全かどうかはわからない



・・・・・気もおけないし逃げ場もないこの牢獄は地獄かも知れないな

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る