第171話 牢獄の囚人


簡単な任務のはずだった


目標は世の中を騒がせる少年Y


怪我を治すだけでも大したものなのに死者の復活、空飛ぶUMA、そして一瞬で作られた巨大な城


怪我を完璧に治癒する、それだけで重要度は高い



胴体切断マジック、あれは普通にそんな事は普通できないからこそ驚かれていたショーだ


あの宗教では人々が信じられないような治癒をして、錯覚でも詐欺でもなんでもなくちゃんと治している


DNA欠損や精神病患者に痴呆、放射線障害まで治す



現在治せていないとされているのはほんの一部だ


性同一障害、それは個性だとでも神様が言うのだろうか?身体と心の性別があっていないとされているものだ


これはある意味「その状態も正しい」のだと神が認めているのかもしれない


同じ症状の他の患者は同じ症状でもどちらかになって治ることもあったことから「治った」と認めても良いのかもしれない



治るかどうかが曖昧な部分があるのは確かだ



例えば薄毛、信徒の中には幼い頃の闘病で禿げたものもいた


しかし彼に毛は生えなかった、同じような症例のものもいたが彼には毛が生えた


詳しいことは定かではないが彼には毛が必要と自分で考えなかったのではないか?


本人の意志が必要としていない部位は再生されないのではないか?


そんな分析がされている


指の数が多くても少なくても、本人に治癒の必要を感じていないものはそのままであった


タトゥーは消えるのに脇毛の永久脱毛がもとに戻ることがあったりなかったり・・・



治癒にはまだまだ謎は多い



だけど謎の解明よりも彼の身柄を抑えることのほうが大事だろう


他の組織の人間がいるためレアナービルへの監視も突入も困難だ


目標はたった一つの組織のたった1人、危険な思想もなく攻撃的な組織ではない


場所は平和な日本、余裕だと思った


おそらく我が組織のみならず別の組織でもそう考えただろう



・・・なのにおそらくどこの組織でも重要度はトップだ、トップのままなのだ



麻薬カルテルのボスでもない、世界の秘密を握った政府高官でもない、ただの1人が重要視されている


どこの国でも怪我人や病人は多い、それをどうにか出来るのなら国としてリードできるだろう


彼の能力は多彩だ、治癒という奇跡のみならずスーパーパワーも確認されているが異世界へのワープも可能


誰だって欲しがる人材だ、国も、カルテルも、人々も



なのにこれだけ重要視されて誰も彼を我が物には出来ていない



レアナービルやYの実家の周辺では熾烈な争いが起きている


レアナービルを覗くのに絶好なスポットのマンションがあるのだが陣取り合戦はとんでもないことになっている


そのマンションには出ていく人間よりも入ってく人間が多い、ゾッとする話だ



そんな重要任務の一端を任されたわけだが人種的には黄色人種が主流のこの国では潜入は難しい


今回の任務は超望遠カメラで隣の山から城を観察することだ


潜入するわけでもない遠距離からの観察


レアナービルへの潜入工作に比べると難易度は圧倒的にイージーだ



そのはずだった



望遠鏡を設置してすぐ、レアナービルを覗いた私を望遠鏡の先のホワイトタイガーのような生き物が私を襲った



「ごはぁっ!!?」



空を矢のようにかけ、一瞬で捕まった私は為す術もなく城に連れ去られた



「ゴルルルルル」



それからのことは悪夢だ


メデューサに睨まれた人のような彫像が何体もいた


そして私も彫像になった


意識はずっとあった


同じものをずっと見て、眠ることも出来ず、何も出来ない


何もない壁をずっと見ないといけない


意識よ飛んでくれと眠りたくても眠ることさえ出来ない


ここには時計もなく時間の把握もできず動くことも出来ない


たまに来るUMA、ルールという獣が私と同じような人間を連れてきて処置する



「ぎゃあああああああああああ!!!??」


「いやだいやだいやだいや、だ」



ようこそ新入り、名前は知らないが歓迎するぜ


たまにルール様が私達を動かしてくれること、視界の方向が代わることだけが心の支えだった、増えていく彫像、おそらくは同業者だろう


気も狂えない、永遠のような時間、ただ前を見ていることしか出来ない



何年経ったのだろうか?対象Yが俺たちを移動させた


城の外、前よりも大分ましだ


いや、景色が変わるだけでこんなにも世界のすばらしいのだと心底実感した


だがその日のうちに俺たちはまたしまわれた


同じ場所に、同じ場所に戻されるのだけは勘弁してくれ


頼む、何だってする


狂うことも出来ない地獄に戻されるぐらいなら殺してくれ



「えっと、スパイの皆さん、あなた達にはここで働いてもらいます」


「・・・・え?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る