第151話 暴発


いきなり国会に行くとか言う洋介についてきたのだけど恥ずかしい


ヨーコと切り合って・・いや一方的に負けてだけど私の姿は泥だらけのジャージ姿だ


この場に似合わない人間はなかなかいないだろう、今まで居なかったんじゃないかな?


うん、そもそも泥だらけのジャージで国会議事堂に入るなんて私だけだと思う



ルールには悪いがルールがいてすごく安心する


前足を揃えてピョコンとおりこうに座っているだけだが熊サイズの大型の獣だし私よりも目立っている



死者の蘇生への質問で洋介が例の異世界での映像を出した


しかも複数、私の知らないものまで


あんな経験を何百何千回もこなして人1人を復活なんて割に合わなすぎる



その前にテレビのカメラがあるのにこの映像はショッキングすぎる



洋介にげんこつを落としてすぐに魔道具を回収、収納袋にいれた



「痛いよ、ねーちゃん」


「ここで喋ることは子供も見れるんだからあんたが悪い!!」


「え?そうなのごめんなさい」


「まったくもう、ああいう体験を何度もして、それで魔王を倒してその報酬で死者蘇生が神々によって行われました・・・・・・洋介、脱いで」


「わかった」



マイクをとって代わりに説明する


論より証拠、見せたほうが分かりやすいだろう


脱ぐのに手間取っていたので手伝う


この神官の上着、もうちょっと柔らかかったらいいのに



あ、少し臭い、汗臭い



私も訓練で汗臭いはずだけど洋介は多分お風呂にはいっていない


清浄化は汚れを大まかにはとれるけど完全にはとり切れない、うん、確実にお風呂にはいってないな


肌に残る怪物との戦いの傷跡が胸の中央に見える、貫通した背中側も


思わず受け取ったシャツを握ってしまった、悔しいけど今はその時じゃない



「これは異世界で巨大な怪物に槍で貫かれたり腕を切り飛ばされたり、千切れかけた脚をもぎ取られた時の傷跡です」



少しマイクをもつ手が手が震える



「こんなのを何度も、1人の人間が何度も何度も体験して、偉業を成して、それで得た報酬です、簡単に死者の蘇生ができるなんて思わないでください」



言っていて、涙が流れてしまう


傷はすぐに治せても傷跡は治りが遅い


洋介に着るように促した、もうこれでいいだろう


にやにやしていた政治家も野次を飛ばすことなく静まり返っている



「で、では結婚についてはどうなのですか!?貴女は元杉くんと婚約しているという情報があります、ですが、すでに結婚している方がいて、おかしいでしょう!?だいたい金銭で治療行為を決めるなんて元杉くんには人の心がないのですか!!余裕があるなら人を治すべきだし、まともじゃない!!警察に出頭もしない!会見もしない!やましいことがあるからでしょう!!!??治せなくても保証しない?詐欺と営利目的であると認めたらどうですか!!!??」







・・・・・・・・腹の底から怒りが沸き上がってくる



「・・・・・・レアナー教は一夫一妻制ではありません、それに洋介は、洋介は16歳です」


「は?それは知ってますが?」


「16歳でこの身体!!向こうで神様の加護を受けて!成長が遅いんですよ!!12か13歳か、そんな身体で、だから結婚が必要で・・・!!!」



だめだ、豚の怪物を思い出して、感情が無茶苦茶で支離滅裂に言ってしまっている


こんなことを言いたかったことじゃなかった、けど、いつも思ってたことが出てしまった


こんな場所で泣くなんて思っても見なかった


洋介は幼い見た目で細い、加護が原因と言うのは神殿長達に聞いていた


もしかしたら二次性徴も来ていないかもしれない



それは洋介が両親にもう一度会いたいから頑張ってきた証だ



素晴らしいことだと思う、私だって同じ状況になったら両親のために頑張ると思う


だけど頑張るのと耐えられるかは別だ


私なら治るってわかってても腕一本、いや指一本なくなるかもしれないなんて覚悟はできない



それに、洋介が失ってきたことも多い



痛みを受けることに慣れすぎているし倫理観もあまり無い、漢字もわかってないし掛け算も間違える


それでも、自分のことで悩んでいても後回しにして信徒を増やしたり治療を続けて・・・人を助け続けている



なのにテレビでも新聞でも世間では未だにレアナー教と洋介は叩かれている



世間ではレアナー教の一部は過激だと言うし異常だって言うけど異常なのは世の中だ


洋介はここに来るのに怒っていた、怒らせるほうがおかしい


だいたい洋介がこんなに頑張る必要はない、だって感謝する人よりも無責任に責め立てる人のほうが多い


私だって助けられた身だ


言いたくはないのだ「他の人の治療なんてしなくてもいい」なんて、それでも私は洋介の味方だ



洋介が大変ならやらなくてもいい、洋介には治療をやめてもらってのんびり暮らしてもらいたい


幼稚園卒が最終学歴?いや死亡したままなんだから権利も戻ってない、銀行口座だって作れていない



私が働いて、小さい家庭を作ったっていいんだ



なのに洋介はレアナー様への恩返しって当然のように頑張る


せめて洋介を叩いてる連中をどうにかしたいけど、世の中は、怪物は、洋介を傷つける行為をやめない



死者の蘇生を好き放題言ってくれて、みんな好き放題洋介を叩いててさ、洋介の頑張りを誰も知らなくて


洋介を助けられなくて、また何も出来ない私が悔しくて



全部叫ぶようにぶちまけてから歯を食いしばる


机だった木片が床に落ち、ただ音が響いた


いつの間にか力が入ってマイクの載っている机を壊してしまった


「春日井遥、魔力を抑えて、下がって涙を拭きなさいな」


「ごめん、抑えられなかった、ずび」


「この席をどうぞ、お嬢さん、このお茶も飲むといい、未開封だから」


「ありがとう、ございます、吾郷さん」



ヨーコが代わりに説明してくれた


加護はある程度結婚などで分散したり子に引き継がれるもので向こうの王族や貴族は直接加護を受けたものやその末裔が多い


洋介の加護はたったひとりの加護ではなく神々の加護を無理やり受けたもので身体が破裂しても無理やりいれていったものでそれだけの試練を受けてきた


洋介の寿命も加護によって長いか短いかはわからない


結婚相手が多いことは喜ばしいことだし、どちらにしても当人のわたしたちが納得している



レアナー様やケーリーリュ様が言うには長寿のほうじゃないかって見立てだけどそんな確証はない



金銭にしたって神が決めたルールだし洋介はそれに従っているだけである


治療行為を連日連夜するのは洋介の善意であって向こうでもそんなに神官が働く必要はないって


・・・洋介は当然のように頑張ってるけどそうじゃなかったんだ


年齢についても向こうの世界では人間種はおおよそ12から15歳が成人、11歳の洋介を哀れんだ神々が協力してくれたものである


洋介の努力は誰にも真似できるものではなかった


世界の半分以上を侵略した魔王、洋介が召喚される前に16人の勇者に数え切れない英雄を屠った歴代最強の魔王


そんな存在を単騎で討滅した偉人


洋介は向こうでは大国の王よりも権力を持っているし、王からも求婚されていることからも考慮して普通に考えれば不敬を言うものは牢屋にいれるなり死刑にするべきでそれをしないのは怠慢ではないかとヨーコは話している



「元杉がこんなに軽んじられてることが不思議でなりませんわ」



待って求婚の話、初耳なんだけど、ヨーコ以外にもいるの?



ヨーコが王様だってのは知ってたけど堂にいった話し方だ、正直まだ言い足りないと思うけど



洋介は常識がないし、日本を騒がせてるとは思う


でも、だからってテレビやネットで叩かれ続けてるのはおかしいよ



上の服を着た洋介にタオルを渡されてそれで顔を拭いた


顔を拭ったタオルに泥も付いてるし、最悪



「吾郷、もう帰るけど最後にここ【清浄化】していっていい?レアナー教ではよくあることだし、ここ、嫌なの多いから」


「嫌なのとは?」


「悪霊とか幽霊とか」



私にはほんの薄っすらとしか見えないが確かにいる


人が集まれば、魔力が集まれば霊体は力をつけやすい


ここの人達にそんな事する価値あるのかな?



「お願いしてもいいかな?今度こちらのお嬢さんたちとも食事を食べに行こう、お詫びも兼ねて」


「コルルル」


「おっとこちらの・・・ルール様も一緒で」


「うん、わかった、また連絡するね」



それでも洋介はここの人を助けるんだね


光の柱が建物の中を走り、一瞬くっきりと見えた幽霊たちを消し飛ばし、視界の全てが光に包まれた

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