第134話 小人族王女のターゲット


国ではわたくしが王位を得ることはないとわかっていた


小人族には小人族の神がいて、王家は代々加護を最も受け継いだものがその飾り付けられた椅子に座る


わたくしの加護は闇と平定の神ヴェーヴァから授かったものだ


魔法も使える暗殺者が適正といったところだが魔族にも人間族にも加護を授けることのある中立の神の加護


魔族は王家の第一王女であるわたくしにも人間の暗殺を命じてきた



反対だった、小人族の国は魔族領に近いが故に国民は奴隷のような扱いだ


人間と完全に敵対なんてしたいわけがない


だけど逆らうことはできない


幸い監視の魔族は馬鹿だった、大馬鹿だった


トロールの魔族で自分のことを偉いと思っているのだがものすごい馬鹿だった


巨大なトロールは単騎で城を破壊できるほどの巨大さと威圧があったが馬鹿すぎた



「わたくしは王女ですわ、戦闘訓練もしたこと無いから鍛えてからでも良くて?」


「・・・・・・・・ただでさえちっさいのに役に立たなきゃ意味ないしな、ちっこいし」



初めて話したのだが噂通りの馬鹿だと確信した


王家としての教育は打ち切り、戦闘訓練をすることになった


他の王族は国民に対する人質であるがわたくしは別の神の加護を受けた


肌をボリボリ搔きながら考えているようだが怒らせなかったら何でも要求は通るようだ


国民はこいつの食事を集めて、飢えている


わたくしはこの国の純粋な小人族の中では最も大きいのだろうがこいつにとっては痩せた食料にすぎない



「いやだ!!来るな!来るなぁっ!!たすけっ!?いっあっ」



また1人食われた


ボリボリと言う咀嚼音が、断末魔の悲鳴が耳について離れない


食われたのは小人族だが賊だ


魔族領も人間領も小人族領も暴れまわっていた賊共の一人だ


他にも別の種族のものもいる・・・彼らは明らかな罪人、わかっていても心苦しいですわね


それにいつ国民が殺されることか



そして小さなわたくしにも勇者の抹殺が命じられた



「小さいんだから気づかれずにできるだろう、出来なければお前の兄妹を一匹食う」



普段なら何か言い返したりごまかすことが出来た・・だけど家族の命がかかってるから、何も言えない


わたくしは魔族の支配に納得してない


世界が戦争しているんだから仕方ないと理解はしている、納得は全然できないけれど



勇者が来る場所はわかってた


先回りして勇者一行の小人族領地への道案内を買って出た



「わたくしはヨーコルの・・・わたくしはヨーコ!」


「何かな?」


「道案内をお探しのようですわね?」



なんとか怪しまれずに売り込まないと


弟たちの命がかかってる、緊張を隠さないと



「だったら?」


「私は道に詳しくてよ?」


「じゃあ金貨2枚でお願いできるかしら?」



初の暗殺対象についてよく調べていた


勇者の中でも異世界から召喚され、結婚と騒動と愛の神レアナーの加護を授かった少年


資料で見る勇者よりも洋介は小さかった


人間としては小さく、弟たちのように小柄でまだ幼くて・・・だめだ、考えるな



「食べる?」


「いただきますわ」



勇者洋介から肉の串を貰う


賊や罪人、獣相手の戦闘とは違う


悪い人間ではないどころかその幼い身で世界を救おうと尊くすらある少年だ



・・・・・胸が痛みますわ



問題は本人よりもその仲間、この世に知らないものはいないだろう歴戦の英雄たちが揃っている


だけど、わたくしも引くわけにはいきません


弟たちの命がかかってますし成功させませんと


父に言われた言葉を思い出す



「お前は大きく、一番目に生まれたんだからあとから生まれてくる弟や妹たちを守らないとな、それがおねーちゃんだ」



これしか方法がないならやるしかない


今もわたくしを監視している鳥の目が、あの馬鹿の目があります



「この先の崖を越えれば後は楽ですわ」



下手なことはできません


ですがもしも失敗しても、いや、失敗したほうがいいですわ


神の加護の強いわたくしが失敗するほどにこの人達が強いならあの馬鹿を打倒してくれるかもしれません


どちらに転んでもいいはずです



崖の切り立つ狭い道


わたくしは勇者洋介の心臓を後ろから貫き、その勢いのまま崖から飛び降りた

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